セントマザー★田中温先生の不妊治療講座

第4 回テーマ 男性不妊

これから不妊治療を始める方や、治療を開始したばかりの方に、不妊治療の流れや基礎知識をわかりやすく紹介してきた「田中温先生の不妊治療講座」。

連載最終回は、男性不妊について詳しく教えていただきます。

 

田中 温 先生 順天堂大学医学部卒業。越谷市立病院産科医長時代、 診療後ならという条件付きで不妊治療の研究を許され る。度重なる研究と実験は毎日深夜にまで及び、 1985 年、ついに日本初のギフト法による男児が誕生。1990 年、セントマザー産婦人科医院開院。日本受精着床学 会副理事長。順天堂大学医学部客員教授。昨年、内視 鏡検査の指導認定施設となり、自身も認定医の資格取 得を目指すかたわら、麻酔科標榜医にも申請中。研究 結果を世界に発信するため英会話のスキルアップに励 むなどバイタリティに溢れる田中先生です。

精液検査でわかる 不妊原因と治療方法

不妊治療は初診で夫婦それぞれに問診票 を記入していただきます。

女性には月経や 妊娠歴など、男性には鼠径ヘルニアやおた ふく風邪などの既往を記入してもらいま す。

その問診票をもとに、男性に行われる のが精液検査です。

以前は夫婦生活をした 翌日に女性だけ来院して腟内に射精した精 子の数と動きを確認するヒューナー検査を するのが一般的でしたが、現在は最初から 夫婦揃って検査することを勧めています。

その結果、不妊の原因となるのは女性と男 性はほぼ同じ割合、残りは原因不明で、割合は4:4:2であると考えられます。

男性不妊とは文字通り、子どもができな い原因が男性にあるということです。

大別 すると精子の数、動き、形。これを精液検 査で判断します。

精子の数は、正常値であれば1㎖あたり 6000~8000万匹程度で、その数に 達していなければ「乏精子症」。

軽度なら人 工授精が可能ですが、中等度では体外受精、 2~3回射精して得られる精子が1~2匹 しかいない場合は重度と診断され顕微授精 の対象になります。

運動率が 70 ~ 80 %を下回 れば「精子無力症」で、軽度なら漢方など の内服治療を試すこともありますが、中等 度では人工授精、重度で体外受精か顕微授 精を行います。

精液中に精子がいても、まったく動いていない症状は「精子不動症」。動 かない精子の中で、生存精子が1匹もいな ければ受精は不可能ですが、運動するため の組織の発育が不十分なだけで精子自体が 生きていれば、HOST法という方法で生 存精子を判別・採取して顕微授精を行うこ とが可能です。

精子の奇形は「頭部奇形」と「尾部奇形」。

頭部奇形はDNA異常のため卵子と受精で きません。そのため、精巣を覆う陰嚢にメス を入れ、精巣と精管の間にある精巣上体とい う部位から精子を採取するMES A で別の 精子を探します。

それでも正常な精子を採 取できなければ精巣にメスを入れて切り開 き、精巣内精子または精子になる前段階の 円形精子細胞を採取するMicroーE(顕微鏡下精巣内精子採取術)を行います。

尾部奇形であればDNAに問題はないので、 採取した精子で顕微授精が可能です。

閉塞性無精子症と 非閉塞性無精子症

これまでに挙げた症状は、数や運動率、 形に問題があっても精子を採取できれば治 療に用いることができます。

しかし、射出 した精液中に精子が1匹もいない無精子症 の場合は治療へのアプローチが変わってき ます。

無精子症には、閉塞性と非閉塞性の2通 りがあり、前者は精子自体をつくれている が射出するための精管が詰まっている状態 で、後者は精子をつくる機能そのものに障 害が生じているため精液中にまったく精子 が存在しません。

閉塞性無精子症なら M ES A で良質な精 子を採取し、顕微授精を行える可能性が高いのですが、この症状の患者さんの中には、 当院を受診するまでにMicroーTESE で何度も精巣にメスを入れてこられる方も たくさんいます。

そのほとんどが、 M ES A で精子が採取できることを知らなかったた めですが、閉塞性無精子症で精巣を切り開 く必要は決してありません。

同様に、睾丸 上部に流れる静脈が異常肥大する精索静脈 瘤が不妊に関連しているともいわれ、泌尿 器科で受診をすると大抵の場合にこの手術 を行います。

しかし、精索静脈瘤と精子に 関連はないと世界保健機関( W HO)が認め ています。

精索静脈瘤の手術は、痛い、重 いなど自覚症状がある人に限るべきもので、 精子の動きや数、ましてや無精子症への効 果はまったくないことが世界的に証明され ていますので、この事実は絶対に知ってお いていただきたいです。

非閉塞性無精子症の場合であればMic roー TESEで精子を採取しますが、そ れでも精子が見つからない、見つかっても 奇形・不動精子しか見つからない場合、円形精子細胞を採取して顕微授精を行います。

ご主人以外の精子を使用する A ID(非配 偶者間人工授精)という選択肢もあります が、妊娠率は2~3%と非常に低く、生ま れた子どもに本当の父親を知らせる「出自 を知る権利」などもあり、十分なカウンセ リングが必要となります。

そのため、日本 ではあまり普及していないのが現状です。

精神的ストレスが招く 男性不妊もある

ここまで精子自体に何らかの原因がある 男性不妊の説明をしてきましたが、最近で は夫婦生活が最後までできない、もしくは 最初から勃起できない、という悩みを抱え て来院する夫婦の確率がかなり高くなって います。

いわゆる男性の勃起障害「ED」 です。

その原因は病的要因と、夫婦生活間 で起きた精神的要因の2つで、精神的要因 がかなりの割合を占めているのが特徴です。

精神的要因で挙げられるのは、生殖のた め、義務のためだけに夫婦生活を「強いら れている」という感情、そして夫婦生活に「満 足できない」「満足させてあげられない」と 自信喪失によって勃起できないケースです。

精神的であれば自分で射精することは可能 なので、その精子を用いてまずは人工授精 を試してみるのも一案でしょう。

妊娠・出 産までできれば男性側は忘れていた自信を 取り戻し、精神的要因が解消されて2人目 は自然妊娠で授かるケースが意外と多いの です。

少し逸れますが、精液中の前立腺液と精 嚢腺液が射精されずに溜まると発ガン性物 質に変わるため、射精回数が多い男性ほど 前立腺ガンにかかる率が低いと泌尿器のドクターが証明しています。

知識としてぜひ 知っておいてほしいですね。

不妊で受診することをためらう男性は今 も少なくはありませんが、金銭面では厚生 労働省や都道府県、市町村単位で男性不妊 の治療費にも助成金制度を設けるなど、新 しい動きも活発化しています。

自治体等の ホームページで助成金を申請できる認定施 設名を調べることができますので、ぜひ参 考にしてください。

男性の機能にも エイジングが影響する

一般的に男性の精子は、女性の卵子ほど 急激に質は落ちません。

しかし、男性の精 子も年齢を重ねると遺伝子に老化=エイジ ングが起こるという説もあり、なるべく男 性も早く結婚したほうがいいといわれてい ます。

卵子はあらかじめ決まった数が製造 されており、経年とともに減っていきます が、精子は最後まで睾丸でつくり続けられ ます。

ですがやはり精子も経年で数が減り、 運動率が落ちていくのです。

AIDで精子 を提供する男性の年齢が、日本生殖補助医 療標準化機関(JISART)のガイドラ インで満 55 歳未満であることからも理解し ていただけるでしょう。

エイジングは男女問わず気になるキー ワードですが、見た目の若さを保つなど異 性同性の目を意識することで、日常生活に おいてのアクティビティが上がり、意欲も 湧きます。

何でも不妊治療のためと決めつ けるのではなく、夫婦がお互いを意識して、 お互いのために日常の幸福度を上げること が第一だということを、特に忘れないでい ただきたいですね。

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