意外と知らない女性ホルモンのこと 妊娠とのかかわりを教えて!
女性にとってホルモンと妊娠は、どのようにかかわっているのでしょう か。
ホルモンの特徴や妊娠にいたるしくみなど、知っているようで意 外と知らない妊娠とホルモンの基本を、久保みずきレディースクリニッ クの石原 尚徳 先生にわかりやすく教えていただきました。
ドクターアドバイス
いい排卵を目指すことが、必要なホルモン を分泌するための大切なポイントです。
そ のためにはストレスをためず、規則正しい 生活を心がけること。
また治療と並行して、 血流を促す漢方や鍼灸、サプリメントなど を取り入れてみるのもいいでしょう。
そもそもホルモンって何? どんなものがあるの?
ホルモンとはさまざまな器官から分泌され、血液を通じてほかの器官に働きかける物質です。
その数は多数あり、なかでも妊娠、出産にかかわるホルモンがエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)です。
この2つは女性ホルモンとも呼ばれ、生理周期の中で多くなったり、少なくなったりを交互に繰り返しています。
また血液を通じて運ばれるホルモンは、脳の視床下部や下垂体・卵巣・子宮の間でさまざまな指令を伝え、月経や排卵を調整しています。
女性ホルモンには どんな働きがあるの?
エストロゲンとプロゲステロンには、それぞれ異なる役割があります。
エストロゲンは、女性らしい体をつくり、排卵をコントロールし、受精卵の着床を助けるために子宮内膜を厚くします。
また精子が子宮内に入りやすいよう、頸管粘液の分泌を促す作用もあります。
排卵障害があると、エストロゲンが正常に分泌されなくなります。
排卵障害がある人は、脳視床下部や下垂体と卵巣に問題があると考えられ、それに応じた排卵誘発法を選択します。
さらに更年期になると卵胞ホルモンの分泌量は減少し、骨粗しょう症や動脈硬化、更年期障害につながりやすくなります。
プロゲステロンは、妊娠を維持するために働きます。
基礎体温が二層になるというのは、排卵後の卵巣からプロゲステロンがきちんと分泌されている状態をいいます。
また排卵後に子宮内膜やその周辺の血流量を上げることで、やわらかく厚みのある子宮内膜を維持したり、乳腺の発達を促します。
着床にはプロゲステロンが欠かせません。
体外受精などでは黄体ホルモンの補充が行われています。
ほかにも、女性ホルモンではないですが、プロラクチン(PL)というホルモンがあります。
PLは出産後に向けた体をつくるホルモンの一つです。
乳腺を発達させて母乳を出やすくします。
ただし、非妊時にPLが高値になると排卵が障害されます。
妊娠のためにどんな 準備をしているの?
女性の体は毎月、妊娠のための準備とリセットを繰り返しています。
月経期になると、脳視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモン(G n RH)が分泌されます。
するとG n RHの刺激を受けて脳下垂体からFSH(卵胞刺激ホルモン)が分泌され、この働きにより卵巣で卵胞が成長を開始します。
卵胞が大きくなると卵胞ホルモンが分泌され、子宮内膜が厚くなっていきます。
次に卵胞ホルモンが一定量分泌され、卵胞が排卵できる状態になると、脳下垂体からLH(黄体化ホルモン)が大量に分泌し、排卵を促します。
これをLHサージといいます。卵子が飛び出した後の卵胞は黄体となり、プロゲステロン(黄体ホルモン)を分泌します。
エストロゲンとプロゲステロンの働きで子宮内膜はふかふかになり、受精卵が着床しやすい状態に整えます。
妊娠するときの流れを教えて
月経や排卵は、前述のホルモンの働きにより約1カ月のサイクルで起きています。
このサイクルは月経期・卵胞期・排卵期・黄体期の4つに分けられます。
月経期は、卵子を含む卵胞が成長を開始する時期です。
女性は母親の胎内にいる時から、すでに卵巣に最大700万個の卵子を持っているといわれ、そのうち閉経までに約500個の卵子が排卵します。
卵胞期になると、成長を開始した卵胞のうち、一番大きく育った卵胞(=主席卵胞)だけが残り、ほかの卵胞は消滅します。
卵胞ホルモンによりFSHの分泌が抑制されます。
少なくなったFSHにもっとも反応する卵胞だけが主席卵胞になることができます。
人種によって多少差はありますが、人は1回の月経周期で、1つの卵胞だけ育て、1つだけ排卵するようにできているのです。
ちなみに、成長過程の卵胞から分泌されるホルモンをAMH(抗ミュラー管ホルモン)といいます。
このAMHの数値から、卵巣に残された卵胞の多さを推測することができます。
AMHの値と発育卵胞の数は相関し、AMHの値が高いと体外受精での採卵数も増加します。
排卵期になると、主席卵胞は径約 20 ㎜ の大きさまで成熟し、卵子は卵胞を破って卵巣の外に飛び出します。
これが排卵です。
卵子は卵管采に取り込まれ、卵管で精子と出会うと受精します。
受精卵は細胞分裂を繰り返しながら卵管内を移動し、子宮に移動します。
この時期、何らかの原因で排卵がうまくいかない排卵障害の人がいます。
その要因の一つが多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)。
この場合は、卵巣に卵胞がたくさんありますが、発育のスピードが遅く、月経異常が起こったり、無排卵になったりします。
原因には、血糖値をコントロールするインスリンへの抵抗性と男性ホルモンの高値などが関与しています。
黄体期に入ると、卵巣に残った排卵後の卵胞が黄体という組織に変化し、プロゲステロンを分泌します。
プロゲステロンは子宮内膜を着床できる状態にして妊娠に備えます。
同時に細胞分裂を繰り返しながら子宮内に移動した受精卵は、胚盤胞になると、厚くなった子宮内膜に着床できます。
しかし、このプロゲステロンがきちんと分泌されないと、子宮内膜の厚さや成熟が不十分となり、着床不全や流産の原因になることがあります。
この状態を黄体機能不全といいます。治療法には黄体ホルモン補充療法などがあります。
ホルモン分泌をうまく 整える方法はあるの?
ホルモン分泌を整えるというのは、二次的な話です。
ポイントはうまく排卵させ、排卵後の黄体機能を保つことです。
排卵に向かうことで女性ホルモンは分泌され、排卵することでプロゲステロンが分泌されます。
ホルモンをどう分泌させるかよりも、どう排卵させるかが大切です。
そのためには、まずストレスをためない ことです。
人は極度のストレスや飢餓状態になると、生命の危機を察知して自動的に排卵しなくなる場合があります。
そうすると女性ホルモンも黄体ホルモンも出なくなってしまいます。
いい卵胞を育てて、いい黄体を維持するために、規則正しい生活をして、栄養バランスのとれた食事を心がけ、適正な体重を保つこと。
さらに十分な睡眠と運動で血流を促し、体を温めることです。
そしてストレスをうまく解消しましょう。