アメリカで不妊治療中。
タイミング療法のやり方に 少し疑問を感じます 海外での治療は指示や方法が日本と異なり、戸惑うことも。
特に一般不妊治療で疑問が生じた場合、どうすればいいのか、 木場公園クリニックの吉田淳先生に伺いました。
吉田 淳 先生 愛媛大学医学部卒業。産婦人科・泌尿器科医。生殖医療専門医・ 臨床遺伝専門医。東京警察病院産婦人科、池下レディースチャイ ルドクリニック、東邦大学第一 泌尿器科非常勤講師などを経て、 1999年木場公園クリニックを開院。不妊症治療の情報収集のた め、アメリカや日本国内の不妊症専門施設の見学・研修を数 多く積 んでいる。7月から患者さまがより使いやすく、快適に過ごせるように 院内をリニューアル。これはまだまだ進化の過程。将来的には東洋 医学的な医療も取り入れるなど、さらに統合的な不妊治療ができる 施設を目指していくそうです。
ドクターアドバイス
●海外の施設では卵胞や排卵を確認しないことも
●心配なら排卵検査薬を使って排卵のチェックを
●黄体補充は排卵後から行うのが一般的
きなこもちさん(36歳)からの相談 Q.アメリカ在住で、こちらで治療を始めました。血液検査などによると特に異常はない のですが、排卵までに時間がかかるそうで(22日程度)、クロミッドⓇを飲みながら のタイミング療法をすすめられました。医師の指示は、クロミッドⓇを周期5~9日目 まで服用→周期15~25日まで隔日で夫婦生活を持つ→周期26日からプロゲステロンを使用し、2週間待って妊娠検査をする、とのこと。15日目前に排卵してし まうことはないのでしょうか? また、他の方の投稿を見ると排卵後すぐにプロゲステロンを使用しているようなので、26日目からでは遅いのでは? 何か意味がある のでしょうか。先生に聞いても「指示に従ってください」というだけで、詳しいことは 教えてもらえません。
●これまでの治療データ
検査・ 治療歴
アメリカ在住。不妊治療をスタートしたばかり。 血液検査、子宮卵管造影検査ともに異常なし。 排卵までに時間がかかり、だいたい21日目か22日目くらいに排卵。今周 期からクロミッド Ⓡを使いながらタイミング療法を開始し、現在10日目。
精子 データ
精子奇形率が90%だが、量、運動率は人並み以上なので 問題はないとのこと。
タイミング治療時の日米の差
まずタイミング療法のプロセスですが、吉田先生からみて何か疑問を感じることはありますか。
吉田先生 排卵誘発剤のクロミッド Ⓡ を使いながらタイミングをとっていくというのは日本でもスタンダードなやり方だと思うのですが、指示だけで、卵胞や排卵のチェックはされていないようですね。
日本では、排卵予測日の前に卵胞のサイズ を超音波検査で確認し、LHをチェック。それをもとに排卵の予定日を微調整して夫婦生活を持っていただきます。
そしてタイミングをとった後、もう一度超音波で診て排卵があったかどうかを確認し、確認できたら黄体ホルモンの補充をしていくというのが一般的なやり方だと思います。
アメリカの施設では卵胞や排卵のチェックを行わないのが普通なのですか?
吉田先生 すべての施設が行っていないとはいえませんが、タイミング療法の段階ではおそらくそのようなやり方が一般的なのでは。
特に、不妊治療専門施設ではなく、1 つの科に特化していない家庭医のようなクリニックであれば、それほど詳しく診ることはないでしょう。
国が異なれば文化や医療へのとらえ方も異なるので、どちらが良くてどちらが悪いとはいえません。
アメリカは地理的にも患者さんが頻繁に通院することが難しい環境なので、「回数を多く、より細やかに診る」という日本のような診療体制や発想がないのかもしれませんね。
ただでさえ言葉のコミュニケーションが明 確にとれないのに、日本とやり方が異なり、詳しい説明もないとなると、不安になってしまうお気持ちもよくわかります。
夫婦関係はなるべく持とう
もともと排卵するまでの期間が長いということですが、医師が指示した日程の前に排卵してしまい、排卵後にタイミングをとってしまうというずれが生じる可能性はないのでしょうか。
吉田先生 日本でしたら、前述したように卵胞をチェックして予測を立てるので、タイミングが大きくずれてしまうことはないと思いますが、チェックもないとなると確かに指示された時期の前に排卵してしまうこともありうると思います。
これはきなこもちさんのケースだけでなく、妊娠を望んでいるみなさんに申し上げたいのですが、排卵日だけピンポイントに夫婦生活を持つのではなく、その前後も、強いていえば治療に関わらず普段からまめに仲よくしていただきたいですね。
夫婦生活を持てば持つほど女性のホルモン のバランスが良くなるし、精子もつねにフレッシュであるわけですから、妊娠にとってとても良い状態になるはずです。
きなこもちさんのご主人の精子奇形率は 90 %ということですから、なおさら貯めないほうがいい。
先生からは「周期 15 ~ 25 日目まで隔日で」と指示されたようですが、あまりその期間限定と考えず、仲よくしていただく機会を増やして欲しいと思います。
そうすれば、タイミングのずれが気になることもないですよね。
排卵日検査薬の活用
医師に意見を伝えるのが難しいとなると、他に自分で工夫できることは?
吉田先生 アメリカでも購入は可能だと思いますが、排卵の確認をしたいということであれば排卵検査薬を活用されてみてはどうでしょうか。
これは尿中のLHで排卵したかどうか確認できるもの。
人によって出方に違いはあると思いますが、陽性になったらその日か翌日くらいに排卵が起こると考えられます。
「このあたりが排卵日」という目安になると思いますので、日本から送っていただくなどして使われてみてもいいかと思います。
プロゲストロン投与
もう1つの疑問、周期 26 日目からプロゲステロンを使うということについてはどう思われますか。
吉田先生 これはちょっと理解できないですね「妊娠が維持できていれば」という仮定で、こんなに遅くから使っているのでしょうか。
通常、日本では、超音波で排卵しているかどうかをみて、排卵していればその後から黄体ホルモンの補充をしていくことが多いと思います。
黄体ホルモンは一般的には飲み薬で、排卵後から 10 ~ 12 日間服用しますが、「プロゲステロン 1 00 ㎎を 26 日目から1日2回」と、きなこもちさんの通われているクリニックでは注射で補充を行うようですね。
もし妊娠していないのにこんなに注射を打っても無駄になってしまう。
確実に排卵した後に補充しようという考えだと思われますが、僕はこの方法には疑問を感じます。
もし注射に抵抗があるようでしたら飲み薬 に変えてもらうことは可能だと思います。
それで補充する時期を多少ご自身で調節することはできると思いますが、やはり国によって考え方が違うので、治療のやり方自体を日本のように変えてもらうのは難しい部分もあるでしょう。
やり方は日本と多少異なっても、意思疎通がしっかりできて、ご自身が納得できる施設で治療を受けられることが望ましいかと思います。