副腎皮質ホルモンの異常、 クロミッド Ⓡはあまり 効果がないのでしょうか。
稀発月経で初回、クロミッドⓇが効きません。
排卵障害と副腎皮質ホルモンの異常の関係、クロミッド無効の場合の 対処について
幸の鳥レディスクリニックの ささ山高宏先生に伺いました。
ささ山 高宏 先生 産業医科大学医学部医学科卒業。産業医科大学病院、和歌山 労災病院、九州労災病院、セントマザー産婦人科医院の勤務 を経て、1997年4月、幸の鳥レディスクリニックを開業。患 者さん一人ひとりを大事にする姿勢で生殖医療に携わる。A型・ おひつじ座。スポーツアニメ『弱虫ペダル』(渡辺航)に、はまっ ているという先生。アニメが好きなオタクな主人公の少年が、 自転車競技部に入部し、アニメソングを歌いながらロードバイ クで急な坂道を登り、ライバルを抜き去る光景に心躍るのだ とか。
目次
ドクターアドバイス
●次周期にクロミッドⓇの量を増やすのは通常
●クロミッドⓇの2段階投与を試してみては
●基本的な排卵障害に関わる検査をしましょう
happyhappyさん(30歳)から Q.稀発月経50~80日周期でクロミッドⓇが効かない状況です。排卵は あり、基礎体温は2相です(年6回ほどの排卵です)。幼少期よりアト ピー性皮膚炎で、冷え性、疲れやすい、朝が弱く夜に回復する体質等、 副腎が弱っているのではと思っています。副腎皮質ホルモンの異常の 場合、調べてみたのですがクロミッドⓇはあまり効果がないようなので すが、いかがでしょうか。また、副腎皮質ホルモンの働きが弱く、卵胞 期の女性ホルモンがうまく作用しないということはありますか。初回 でクロミッドⓇが効かなかった状況で、次周期は単に数を増やすだけで いいのか…、不安に感じており、ご意見を参考にさせていただきたい と思っています。
●これまでの治療データ
検査・ 治療歴
初潮より生理不順(月経周期が長い)。
排卵期に卵胞チェック をしたところ、大きさも数値も正常。
不妊の原因と なる病名
稀発月経
現在の 治療方針
卵胞期のホルモン値をチェックのため、血液検査中。
次回ま でに低用量ピルを12日間服用、リセット後に来院予定
排卵障害の可能性
副腎皮質ホルモンの異常と排卵障害の関係 性について、まずは詳しく教えていただけ ますか?
ささ山先生 副腎はコレステロールを原料とし て、コルチゾールやアンドロゲン(DHEA) 等のホルモンを分泌しています。
コルチゾールは、タンパク質を分解してま で糖質の生成、備蓄を行い、身体の活動に備 える働きをします。
ストレスや栄養不良等に 対抗して人間はコルチゾールを分泌します が、過度なストレスが続いたり栄養欠損状態 になると、下垂体前葉で作られる副腎皮質刺 激ホルモン(ACTH)から副腎皮質ホルモン への経路が臨戦態勢となるために、下垂体の 生殖機能への指令まで手が及ばない状況にな りやすく、排卵障害の原因となります。
アンドロゲン(DHEA)は、女性にとっ て貴重な男性ホルモンです。
月経のある女 性のDHEAがエストロゲンの 75 %の前駆 体として作用するので、副腎皮質の機能低 下があるとDHEAが減少するため、エス トロゲンの分泌が低下し、ホルモンが乱れ、 卵巣機能低下や排卵障害、不妊へとつながっ ていきます。
したがって、ストレスの解消や栄養バラ ンスのとれた食生活を送ることが必要とな ります。
さらに、DHEAを測定し、基準 より低いようなら、DHEAを投与するこ とでエストロゲンの上昇や卵巣機能の改善 をもたらし、妊娠しやすい状態になります。
男性ホルモン高値はエストロゲン活性を 低下させる作用があるので、排卵障害や卵 の質の低下、着床障害の原因にもなります。
happyhappyさんはエコーでPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)はない、と いわれているようですが、この男性ホルモ ンの異常はPCOSの中心病態ともいわれ ています。
ご自身は副腎皮質ホルモンの異常と思っていらっしゃいますが、他の原因による排卵障害の可能性も充分にあります。
副腎皮質ホルモン異常の余波
副腎皮質ホルモンの働きが弱く、卵胞期の 女性ホルモンE2 がうまく作用しないという ことはあるのでしょうか?
ささ山先生これまでも述べたように、通常、 副腎皮質ホルモンへの異常が生じると、視 床下部で作られる副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)から副腎皮質ホルモンへの経路が 健康を守ることに全力を注ぐため、生殖機 能への指令(FSH、LH→E2 →排卵)を 送る余裕がなくなり、卵胞が育たず排卵障害の原因となりえます。
内科での治療も
では、これまでの治療内容についてご意見 をお聞かせください。
ささ山先生 このたび、クロミッド Ⓡ を1錠ず つ5日間内服して、排卵しなかったそうで すね。
クロミッド Ⓡ 無効の場合は、次周期 で量を増やすのは通常の方法です。
それで 反応することもよくあります。
1周期にク ロミッド Ⓡ を2回ずつ5日間投与する、2 段階投与を試してもよいと思います。
1回 目の投与で反応しなくても、下垂体にFSHが蓄積され、2回目の投与の時に蓄積されたFSHが分泌されて反応することはよ くあります。
ただし、病的な副腎皮質ホルモンの異常 であれば、まずは専門の内科で治療を受け る必要があると思います。
また、ストレス が強いようならば、ストレスの解消に努め ましょう。
漢方も使ってみる
漢方の処方についてどう思われますか?
ささ山先生 男性ホルモンの異常高値に対し ては、プレドニゾロンや芍薬甘草湯などが 有効です。
クロミッド Ⓡ が無効の場合も併用 により排卵しやすくなる可能性があります。
芍薬甘草湯には男性ホルモンの分泌を正常 化させ、排卵トラブルを解消する働きがあ ると考えられています。
AMH測定から分かること
血液検査で卵胞期のホルモン値をチェッ クすると、卵胞が確認できなかったようで すが。
ささ 山先生 Day 23 の卵胞チェックではまっ たく卵胞が確認できなかったとのことです が、AMHを測定したり、月経の3日目頃 に排卵チェックを行い、胞状卵胞数の確認 をすることが重要です。
AMHが低かった り、この時期の胞状卵胞数が少なかったり、 卵胞刺激ホルモン値が高い場合、卵巣の予備能が低下していることが考えられます。
その場合、早い時期にPOF(早発卵巣不全) になる人もあり、不妊治療を急ぐ必要があ ります。
先ずは、必要な検査をシッカリと
happyhappyさんへ、今後のアド バイスをいただけますか?
ささ山先生 まだ検査治療を始めたばかりの ようですので、下垂体のホルモン検査や高プロラクチン血症、甲状腺機能低下症等の 基本的な排卵障害にかかわる検査の後に、 治療方針を決めることが大切です。
2、3カ 月に1度の稀発月経の方でも、排卵してい るのであれば、自然妊娠をされることもあ ります。
不妊の原因としては、稀発月経以外の卵管因子や、男性因子の可能性も否定できま せん。
排卵障害の検査、治療に加えて、子宮卵管造影検査や精液検査もしておきま しょう。
冷え性、疲れやすい等の症状については、 一度内科の受診をおすすめします。
happyhappyさんは不妊治療を スタートしたばかりです。
主治医の先生に 何でもお話しして、ひとつひとつ疑問や不 安を解消しながらがんばってくださいね。