小田原先生のファティリティスクール
初めて不妊の検査・治療を受ける方は不安がいっぱいだと思います。
疑問や心配をすっきり解決し、波に乗るようにスムーズに進んでいけるよう、 ファティリティクリニック東京の小田原靖先生がわかりやすくレクチャーします!
妊娠率が高いのは胚盤胞ですが 初期胚で移植するケースも
移植する胚の状態について、胚盤胞か初期胚か大きく分けて2つの選択があると思いますが、原則論でいいますと、やはり胚盤胞まで培養した胚のほうが分割胚よりも胚あたりの妊娠率・出産率が高いということは明らかだと思います。
ですから当院では、ある程度卵巣の反応が良くて、複数個の受精卵ができる方については胚盤胞まで培養していくことを原則としています。
しかし、すべての受精卵が胚盤胞まで育つ わけではありません。
胚盤胞まで移行するのは半数弱といわれているんですね。
ということは卵子が1個、2個しか採れなかった場合は、胚盤胞までいかないというケースもあります。
胚盤胞まで成長しない受精卵が絶対妊娠しないというわけではありませんし、ある程度移植に適する胚を確保するということでいうと、数が少ない場合は3日目、場合によっては2日目という分割胚で移植ないしは凍結するケースも出てくるかと思います。
体外で胚を培養するというのはかなり特殊 な環境ですから、胚盤胞までいい状態で進まないけれど、なかには分割胚で移植をして妊娠に至るということも。
「胚盤胞で移植を行う」というのは絶対的なものではなく、患者さん個々の卵巣の反応性などに合わせて、移植の形を決めていくことになります。
その方にとってどんな方法がいいか。
各施 設で違うのは、最初のステップでどちらを優先するかですね。
たとえば、まず胚盤胞を優先してトライしてみる。
それでうまくいかなければ2日目、3日目の分割胚にステップバックすることもありますし、初回は2日目、3日目の胚で移植をして、残った胚を胚盤胞まで育てて凍結、ストックする施設もあると思います。
そこは先生方の考えで違ってくると思いますね。
ただ、やはり胚盤胞までいける方はそこまでもっていこうというのが、今の主流な考え方にはなると思います。
年齢が高くて得られた受精卵の数が少ない 方の場合でも、妊娠率や出産率を考えると胚盤胞までもっていったほうが確率が上がるわけですから、できればそのほうが好ましい。
ただ問題はきちんと育つかどうか。
個人的には、初回の周期に関しては胚盤胞 までいくかどうか、1個、2個でもトライしてみたいと思っています。
分割の状況を見ているといろいろな情報が出てきますから。
たとえば、3日目くらいまでは非常にいい のだけれど、そこから先の進み具合が悪い人がいる。
そうであれば次回は分割胚での移植にしようとか。
あるいは最初から分割が悪くて3日目も良くないのであれば、あえて3日目の胚で移植するメリットは多くないので、あと何回かは胚盤胞までいくかどうかみてみよう、というケースもありますよね。
また、なかにはそのへんの判断が難しいの で、3日目で2個凍結して、残りを胚盤胞にもっていくなど、変化球を加えてやっていくことも。
みんなが同じやり方ではなく、それぞれの条件に合わせて柔軟に対応していくことが必要になってくると思います。
内膜やホルモンが良好な状態で 胚を戻せる凍結胚移植
新鮮胚か凍結胚かということに関しては、さまざまな考え方があるのですが、単純に移植あたりの治療成績を見ると、新鮮胚よりも凍結胚のほうが妊娠率が高いというデータがあります。
それにはいろんな理由があると思うのですが、1つは卵巣刺激をするということは、子宮の内膜にとって一番いい環境であるホルモンのバランスからかけ離れた状態になってしまうこと。
また、クロミフェンなど抗エストロゲン作用を有するような内服薬を使った場合だと、どうしても子宮内膜に対する影響が出てきてしまいます。
そのような理由から新鮮胚移植より、胚を凍結して子宮内の環境を整えてから戻す凍結胚移植のほうが治療成績は高いということはあります。
全胚凍結という考え方もあり、これがいいかどうか、これからずっと続くかどうかというのはまだはっきりいえませんが、やはり少しでも妊娠に近づけたいということを考えると好ましいと思うので、当院では基本的に全胚凍結を行っています。
もちろん条件が良ければ新鮮胚で移植することもありますし、ケースによっては凍結胚でうまくいかない方が新鮮胚で妊娠することもありますから、これも絶対的なことではなく、個々の状況によって決めていくということになります。
新鮮胚移植の条件としては、子宮内膜が良好な状態で適度なホルモンバランスであることに加え、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクが低い周期であること。
卵巣の反応がいい状態で胚移植をして妊娠が成立した場合、卵巣の腫れが残ってしまいますので、OHSSのリスクを回避するということでは、一度胚を凍結するほうが安全ということになります。
ホルモン補充周期なら 移植の日程を調整できます
次に胚を戻す時期についてですが、ホルモン補充周期と自然周期、それぞれメリット、デメリットがあると思います。
基本的に、子宮の内膜が厚くなってくれば治療成績はそれほど変わらないと思っています。
その中でホルモン補充周期にする利点というのは、ある程度治療のスケジュールを決められるということ。
月経の開始時に移植の日程も決まる。
そうすると、お仕事をしている方だと治療を受けやすいということになりますよね。
さらに、補充するお薬の量でエストロゲンの値を調節できるので、内膜の厚さの調整など、内膜の薄い方に対しての対応というのもホルモン補充周期のほうが有効であることが多いといえます。
ただし、なかにはお薬を使うことで副作用というか、 「体調があまり良くない」と訴えられる方もいらっしゃいます。
エストロゲンが増えることによって便秘ぎみになるケースもあります。
また、貼り薬で補充する場合はかゆみが出るなど。
そのようにお薬が合う、合わないというのはあるので、効果と使用感のバランスをみながら判断していくことになるかと思います。
ホルモン補充周期ではエストロゲンとプロゲステロン のお薬を使います。
エストロゲンで一般的によく使われるのは「エストラーナⓇ」という貼付剤。天然のエストロゲンであれば「プロギノーバⓇ」、合成のエストロゲンであれば「プレマリンⓇ」の内服薬を使うケースも。
黄体ホルモンは内服、座薬、注射など、今はいろいろな種類のお薬が出ています。
その有効性に関してはさまざまなデータがあるので、どれがいいとは一概にいえない部分もあるのですが、患者さんの状況や使いやすさによって使い分けていくということになります。
一方、自然周期の場合、これは自然の排卵をみていき、排卵を確認したうえで移植を決めるわけですから、条件が良ければお薬を使わずにできます。
ホルモン補充周期の場合には自分の排卵が抑えられていますから、だいたい8週くらいまでお薬を続けないといけない。
ただし自然周期には、特に周期が不順な方はいつ移植なのか、事前につかみにくいというデメリットがあります。
周期が順調であっても排卵が確認できた時点で移植日が決まるわけですから、日程的にいつでもOKという状況でないと難しい場合もあるわけですよね。
どちらがいいかというのは、やはりこれも個別にいろいろな状況をみて決めていくということになります。