胚盤胞移植のメリットについて

次は胚盤胞移植に チャレンジしたほうが いいですか?

奥 裕嗣 先生 1992年愛知医科大学大学院修了。蒲郡市民病院勤務の後、アメ リカに留学。Diamond Institute for Infertility and Menopause にて体外受精、顕微授精等、最先端の生殖医療技術を学ぶ。帰 国後、IVF大阪クリニック勤務、IVFなんばクリニック副院長を経て、 2010 年レディースクリニック北浜を開院。医学博士、日本産科婦 人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医。ハードとソフト の両面で、治療の内容を充実させる新システムの導入に熱心な先生。 昨年は培養環境の向上を目指して、培養室に「タイムラプス モニ タリングシステム」を採用されました。24 時間体制で受精卵を観察、 今では良好胚の見極めに欠かせないそうです。
ゆめさん(33歳)からの相談 Q.本日初めて採卵しました。3年ほど前から不妊治療をしており、タイミング療法 約2年、人工授精11回(うち2回陽性になるも胎芽が育たず)を経て、こ のたび初めて体外受精にチャレンジします。成熟卵が10個採れました。ただ 卵巣過剰刺激症候群になってしまい、移植は見送りになり、すべて凍結するこ とになりました。私の通っている病院は胚盤胞に育てるために別途費用がかかり ます。費用を追加して胚盤胞にチャレンジすべきでしょうか? 今の段階では、 採卵した卵のうち何個受精するのか、卵のグレードがどうなるのかもわかりませ ん。ネットで調べると胚盤胞まで育てようとすると死んでしまう卵も多いようで、 リスクを感じます。一方で胚盤胞移植すれば妊娠まで至る確率が格段にアップ するみたいで。ご意見を伺いたいです。よろしくお願いします。

胚盤胞移植のメリット

胚盤胞移植にチャレンジしてみたいけれど、同時にリスクも感じているとのこと。胚盤胞移植のメリットについて教えてください。
奥先生 受精した胚を胚盤胞まで培養した後に移植する大きなメリットは、初期胚移植に比べると、1個あたりの着床率が高いということです。
年齢が 33 歳のゆめさんの 場合、たとえば3日目で移植した初期胚の着床率が平均 25 〜 30 %とすると、胚盤胞移 植では 50 〜 70 %にアップします。
最近は培 養液に良いものが開発されたり、インキュベーターから取り出さずに、胚が分割する様子を 24 時間観察できるタイムラプスを導 入するラボなども増えました。
体外の培養環境がどんどん改善されているなかで、胚盤胞への到達率も高くなっています。
長期間培養することによって、1回目の移植から卵の質がどうかということをある程度まで見極められるメリットは大きいと思います。

子宮外妊娠を回避

胚盤胞になるまで培養すれば、より着床率の高そうな胚を選ぶことができるのですね。
奥先生 あとは初期胚移植でうまくいかない方の約 40 %に、受精卵が卵管へと移動で きずに子宮の中にずっととどまったままになっている状態が原因になっているケースがあるといわれています。
受精卵の分割が進む環境として、一番良いのが本来の自然な妊娠で受精が成立する卵管の中、次に体外受精の培養環境、一番良くないのは子宮の中にとどまったままの状態ともいわれます。
そのような方の場合、子宮内よりも環境が良いとされる体外で5日目まで育ててから胚盤胞移植を行うことにより、着床率が上がる可能性が出てきます。
もう一つ、胚盤胞移植の大きなメリット として、子宮外妊娠のリスクが少なくなることが挙げられます。
通常、分割胚移植の2〜5%に子宮外妊娠の可能性がありますが、胚盤胞移植は初期胚移植に比べて、リスクが5分の1になるといわれています。
当院では、胚盤胞移植で子宮外妊娠となった患者さんはまだいらっしゃいません。
卵管因子のある方や、子宮外妊娠の既往がある方は参考にしていただければと思います。

胚盤胞移植のデメリット

胚盤胞移植をすることによるデメリットもあるのでしょうか?
奥先生 ゆめさんがリスクを感じられたように、受精卵の質が良くなかった場合、培養の途中で分裂が止まり、胚移植そのものがキャンセルとなってしまう可能性があります。
あとはごくわずかな可能性ですが、一卵性双胎のリスクが増えるといわれています。
次回はこのようなデメリットも理解されたうえで選択していただければと思います。
残念ながら妊娠には至りませんでしたが、ゆめさんは人工授精で2度の陽性反応が出た経験をお持ちです。
受精卵の質が悪くて移植がキャンセルになる可能性は低いように思われますので、初期胚移植で結果が出なくても、次はぜひ胚盤胞移植にチャレンジしてみてください。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。