7回の体外受精でうまくいきません今後はどうしたらいい?不育症なのでしょうか?

検査で異常が見つからないのに、7回の体外受精でもうまくいかず。

今後、どんな治療をすればいいのでしょうか?

レディースクリニック北浜の奥 裕嗣先生にご相談しました。

 

ドクターアドバイス

●不育症の検査を受けてみて
●胚移植と同時に不育症治療を行うのが肝心
●血流を改善することで着床率や妊娠率UPも
まりおさん(33歳)からの投稿 Q. 原因不明で不妊治療4年目の33歳です。体外受精を7回しまし たが、いずれも結果が出ません。2回目に陽性反応(HCG40)が 出たものの、次週はHCG0.1になり、化学流産してしまいました。 7回目の今回は ※ 二段階胚移植をしましたが、判定日にHCG30で 妊娠継続は難しいという結果になりました。判定日のHCGが低い ということは不 ※ 育症なのでしょうか?  二段階胚移植は妊娠率が高いと思いチャレンジしたのに、このよ うな結果に終わり、今後どのような治療が有効なのかわかりませ ん。何かアドバイスがありましたらお願いします。

●これまでの治療データ

検査・ 治療歴

ヒューナーテスト、子宮卵管造影検査などすべての検査に問題なし。
タイミング法1年、2009年人工授精7回、2010~2011年体外 受精5回(新鮮胚1回・凍結胚4回移植・化学流産1回)。
2012年転院し、体外受精2回 (新鮮胚1回・二段階胚移植・化学流産1回)。

現在の 治療方針

投薬を続けて3日後に再検査

不妊の原因 となる病名

不明

精子 データ

問題なし

体外受精で分かること

はじめに、今回のテーマ「原因不明の不妊」について、先生はどうお考えでしょうか?
奥先生 一般的に原因不明の不妊といっても、どの時点で原因不明と判断するかによりますね。
体外受精をする前の原因不明なのか、体外受精をした後の原因不明なのかによって、状況は異なります。
体外受精をすることによって、隠れていた原因が見つかるケースはたくさんあります。
その症例を3つ挙げてみましょう。
1つ目は、卵管と精子に異常がないのに妊娠しないケース。
体外受精をすると約 50 %の方に卵管のピックアップ障害が見つかり、1~2回の体外受精で妊娠することができます。
また、精子が正常な場合でも5~ 10 %の確率で受精障害が見つかることがあります。
この場合、体外受精から顕微授精(ICSI)などの新たな治療法の検討や、最近は、体外受精では受精しなかった卵子に対して急遽、顕微授精に切り替え受精させるレスキューイクシー ⅠCSIという方法で治療することもできます。
2つ目は、体外受精をすることにより、卵子の質に原因が見つかるケースです。
この場合は、排卵誘発法や排卵誘発剤を変えたり、メラトニンなどのサプリメントを処方します。
さらに、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)であれば、グ ※リコラン ® などの糖尿病薬を使用することで、卵子の質が変わることがあります。
3つ目は、きれいな受精卵ができているの に着床しないという着床障害が見つかるケースです。
まず、新鮮胚で着床しない場合は、凍結胚で戻します。
また、分割胚でうまくいかない場合は、子宮内に受精卵がとどまってしまい卵管まで届かないことが原因の場合があります。
これを胚盤胞に切り替えると、約 40%の方が着床します。
さらに、胚盤胞でもうまくいかない場合は、二段階胚移植をすることで、約 45 %の方が着床するといわれています。

不育症のケース

まりおさんは、7回目には二段階胚移植も行っています。なぜ妊娠しないのでしょうか。
奥先生 この方の受精卵のグレードの判定基準法がよくわからないのですが、おそらくこの方は原因不明不妊ではありません。
2回の化学流産をされていますので、ご本人も疑っていらっしゃるように、不育症だと思います。
通常、流産を2回くり返すと不育症と診断されます。
化学流産をいわゆる流産とみなすかどうかは意見が分かれるところだと思いますが、僕は流産に数えていいと考えています。
ぜひ不育症の検査を受けられてはいかがでしょうか。
不育症の検査項目は挙げるときりがないの ですが、NK細胞活性検査、抗リン脂質抗体系検査、血液凝固系検査、抗核抗体のほか、染色体異常、プロテインS、プロテインC検査をおすすめします。
この検査をすると、約70 %の方に異常が見つかるといわれています。
ちなみに染色体異常には、母体の年齢とともに増える「数の異常」と「構造の異常」の2つがあります。
不育症の方には後者の「構造の異常」がかなりの割合で見つかります。
また、約 10 %の人にプロテインSの異常が見られるのも特徴です。
最近、不育症と着床障害、胎児死亡は、同 じ病態で起こっているのではないかといわれています。
そのため、当クリニックでは着床障害の方にもこの不育症検査を積極的に応用しています。
まりおさんも、不育症と着床障害の2つの要素が重なっているのだと思われます。
その場合、どんな治療法がありますか?
奥先生 この方は判定日の時点でHCGの値が 30 ~ 40 と低いですね。
これは、着床しても赤ちゃんが胎盤からホルモンをうまく出せていないサインです。
H C G 値の低い不育症は、妊娠してから治療しても間に合いません。
その時点ではすでに手遅れなのです。
胚移植をするのと同時、つまり妊娠しているかどうかわからない段階から不育症の治療を行うことがポイントだと思います。
たとえば、血液の循環が悪いのであれば、アスピリンやヘパリン療法を行うと、この時点ですでに血流が改善されるため、着床しやすくなり妊娠率も上がります。

まりおさんは33 歳とお若いので、この方法でうまくいくかもしれません。

体外受精は究極の検査

原因不明の不妊に悩んで来院される方は多いのでしょうか。

奥先生 卵管検査は正常、精子所見にも異常がない。

「それなのに、なぜ妊娠しないのですか?」というご質問をよく受けます。

体外受精の説明会でもご説明しているのですが、体外受精をすることで、ほとんどの原因がわかります。

ステップアップを悩む方もいらっしゃいますが、体外受精は、究極の治療法であると同時に、究極の診断法でもあります。

原因は必ずあるはずなので、理由がわかれ ば治療は可能です。

ですから私は、原因不明の不妊症というものはほとんどないと思っています。

2回目までの体外受精で、 60 ~ 70 %の方が妊娠します。

残りの 30 ~ 40 %の方の原因不明を診断して、3~5回目で妊娠につなげられるかどうか。

そこが医師の腕の見せどころだと思います。

※化学流産:受精卵が子宮に着床するものの、ごく初期の段階で発育が止まってしまうため、妊娠検査薬などでは陽性をみるものの、超音波検査で胎のうを認めないうちに月経様出血に至る。ケミカルアボーションともいう。
※二段階胚移植:受精卵を移植するにあたり、初期胚を採卵後2~3日後、別の胚盤胞に至った胚を5~6日後の2回に分けて移植する方法。
※不育症:妊娠するものの胎児が育たず、流産(妊娠22週未満)や早産(妊 娠22週から37週未満)をくり返し生児が得られない場合をいう。出生後1週間以内に死亡する周産期死亡も不育症に含まれる。
※多嚢胞性卵巣症候群(PCOS):月経異常や不妊、多毛、肥満などの症状があり、慢性的にアンドロゲン(男性ホルモン)の過剰や血液中の黄体化ホルモンが高値(卵胞刺激ホルモン上昇をともなわない)を示す。排卵 巣内にたくさんの小嚢胞がある。
※グリコラン ®:2型糖尿病の経口薬。
奥 裕嗣 先生 1992年愛知医科大学大学院修了。蒲郡市民病院勤務の 後、アメリカに留学。Diamond Institute for Infertility and Menopauseにて体外受精、顕微授精等、最先端の生殖医療 技術を学ぶ。帰国後、IVF大阪クリニック勤務、IVFなんばクリ ニック副院長を経て、2010年レディースクリニック北浜を開院。 医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会生 殖医療専門医。多忙な日々を送る先生を癒してくれるのがご実 家の愛犬・ティアラちゃん。品評会に出場し、ポメラニアン部門 でジャパンケンネルクラブチャンピオンになるためのカードを2枚 獲得(4枚でチャンピオン)。現在、さらなる受賞を目指して、ブリー ダーさん宅で猛特訓中とか。
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全記事、不妊治療専門医による医師監修

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