精巣内精子採取術は日帰り?入院が必要?その適応の違いは?【医師監修】

精巣内から精子を採取する方法にはどんな種類があり、 どのような症例が適応となるのでしょうか。 京野アートクリニックの京野先生にお話を伺いました。

【医師監修】京野 廣一 先生 福島県立医科大学卒業後、東北大学医学部産科婦人科学 教室入局。1983 年、チームの一員として日本初の体外受 精による妊娠出産に成功。1995 年レディースクリニック京 野(大崎市)開院、2007年、京野アートクリニック(仙台市) 開院。いよいよ9月、東京都港区高輪に、分院となる「京 野アートクリニック高輪」が開院。女性の治療だけでなく、 男性不妊にも力を入れているのが特長。専門的な検査によ る原因究明からMD-TESEまで対応。同院のテーマカラー は太陽のように明るいオレンジ色。ご夫婦一緒に前向きに 取り組める環境で患者さんをお迎えします。

ドクターアドバイス

◎ Y染色体は欠失している場所が病態把握の決め手に
◎ 精巣内精子採取術は日帰りでも受けられる
◎ 採卵とTESEを同時に行える施設の選択を
ちぃこ。さん(30歳)Q.先月、夫が無精子症と診断され、染色体とホル モンの検査を受けたところ、Y染色体に異常があ ることが判明。診断時には先生から「精子を採る 日帰りの方法があるから大丈夫!」と自信満々に 言われていたのですが、検査の結果を聞きに行っ た今回は、「紹介状を書くから特定の泌尿器科へ 行って。手術は全身麻酔だし、3日間は入院が 必要」と言われました。ホルモンの値も詳しく教 えてくれず、尋ねると「精子がいるかもしれないし、 いないかもしれない」とだけ教えてくれました。 染色体に異常がある無精子症の場合、日帰りで できる精巣内精子採取術と、日帰りでできない 精巣内精子採取術の適応の違いは何でしょう か?

これまでの治療データ

■ 検査・治療歴

精液検査2回、染色体、ホルモン検査。 染色体検査の結果では、Y染色体がないものが 30%、Y染色体がすごく短いもの・短いもの が70%という状態であることが判明。

■ 現在の治療方針

精巣内精子採取を行って精子が採れれば、顕微授精に臨む予定。

■ 精子データ

精子はまったくいなかったとのこと。

Y染色体の欠失には3つのパターン

ちぃこ。さんのご主人は無精子症と診断され、染色体検査でY染色体に異常が見つかったそうです。これは、どのような状態だといえるのでしょうか。
京野先生 Y染色体がない、もしくは短いということですが、それはおそらくY染色体に欠失が見られるということではないでしょうか。
Y染色体には、長腕部分と短腕部分があるのですが、その長腕のところにa・b・cという場所があり、そのうちのどれが欠失しているかによって状況が変わってきます。
cが欠失している場合はそれほど深刻な状況ではなく、精子が見つかる可能性は高いです。
bが欠失していると、途中で精子の成熟が止まってしまう病態が出てくることが多いです。
aが欠失している場合はより深刻で、精巣内で精子を採取しようとしても見つかることはまずありません。
このように、欠失の程度よりも、どこが欠失しているかが重要です。
aとbの両方が欠けている場合はかなり厳しいのですが、担当の先生は施術をすすめられたとのこと。
おそらく検査の結果、ご主人は精子が採れる可能性がゼロではない状態だったのではないでしょうか。

FSHの値から分かること

染色体の検査は、精巣内の精子が採れるかどうかを見極められる重要な検査なのですね。ほかにホルモン検査も受けられたということですが。
京野先生 染色体の検査のほかに、睾丸の大きさを見て精巣の容量を調べる検査、あとはFSHというホルモンの値を調べる検査があります。
ちぃこ。さんはホルモンの詳しい数値を教えていただけなかったということですが、これも重要な検査で、血中のホルモンのレベルをみれば、精子が採れるかどうかはだいたい予想がつきます。

TESEとMD-TESE

精子が採れる可能性が少しでもあるとわかったら、次は精巣内の精子を採取する施術を受けることになると思いますが、この方法について詳しく教えてください。
京野先生 無精子症には大きく分けて、精子の通路に問題がある「閉塞性無精子症」、睾丸(精巣)そのものに問題がある「非閉塞性無精子症」の2種類があります。
ちぃこさん。のご主人がどちらのタイプの無精子症かはわかりませんが、閉塞性の場合は精巣を1㎝程度切開して、精巣から組織を少し採取します(精巣内精子採取術:TESE)。
9割以上の方はこの方法で精子を回収することができるのではないでしょうか。
当院の場合、この施術は局所麻酔で行い、麻酔をする時間を入れても 30分もかかりません。
もちろん日帰りで受けることが可能です。
非閉塞性の無精子症の場合は、もう少し大がかりな施術が必要になってきます。
MD―TESE(顕微鏡下精巣内精子採取術)という、直接精巣から精子を採取する方法が適応されることが多いですね。
この方法は、陰嚢部分を切開し、陰嚢内から精巣をむき出しにして、顕微鏡下で全体をくまなく見ながら状態のいい太い精細管(精子がつくられる場所)を探して採取します。
時間は片方で1時間、両方だと2時間程度かかると思います。
ちぃこ。さんの担当の先生がおっしゃっていた、全身麻酔をかけて入院が必要な施術というのは、このMD―TESEのことでしょうか。
京野先生 おそらくそうだと考えられますが、入院が必要かどうかは施設によって異なると思います。
全身麻酔が必要な場合、入院になることが多いと思いますが、当院を含め、局所麻酔でMD―TESEを行っている施設もあります。
念のため、翌日の出血状態を確認したいので、遠方の方は近くのホテルに泊まっていただき、翌朝来ていただくようにしていますが、基本的には日帰りで受けることができます。

妊娠率を上げるために出来ること

いずれにしても、精巣内精子採取術を受ければ、精子を採ることは可能だと思っていいのでしょうか。
京野先生 残念ながら、すべての方が採れるとは断言できません。
睾丸の大きさもホルモンの値も正常なのに、実際に施術をしてみたら精子がまったく採れなかった、という方も稀にいらっしゃいます。
担当医の先生の「いるかもしれないし、いないかもしれない」というお話は、間違っていないかもしれませんね。
しかし、採れる可能性もあるので、受けてみる価値はあると思います。
ちぃこ。さんは現在、 30 歳とのこと。
女性がまだ若くて、不妊の因子がないということであれば、精子をうまく採ることができれば妊娠の可能性は十分あります。
転院して施術を受けられるようですが、その際はぜひ、男性、女性、両方の不妊治療ができる施設を選択していただきたいですね。
非閉塞性無精子症の場合は、凍結した精子を使って授精させると妊娠率が極端に下がってしまうというデータがある
ので、採卵とTESEを同一の施設で同時に行うことをおすすめします。
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