フルタイムで仕事しながらも続けた不妊治療

毎月のリセットに絶望しながらも、わが子に会いたい一心で頑張りました。
会社では管理職。絶対に外せない会議も多いなか、仕事との両立に苦しみ、幾度となく心が折れそうになったそうですが、本誌も支えにしながら頑張ったそう。

稽留流産を機に不妊治療を開始

2020年2月に出会い、お互い仕事に情熱を注ぐタイプで意気投合。すぐに一緒に暮らし始めたNさん(36歳)とご主人のAさん(41歳)。1年半後の21年9月、入籍するとすぐに妊娠していることがわかりました。しかし、2カ月後に稽留流産してしまいます。

「ちょうど35歳の時です。年齢的なこともあり、不妊治療を始めることにしました。流産は本当につらい出来事でしたが、それがなかったら今も“なかなか授からないなあ”とモヤモヤしながら何も始めていなかったと思います」

総合病院で流産の手術後、同院の医師の指導で5カ月、タイミング法にトライ。しかし、なかなか結果が出ません。Nさんは自宅近くの不妊治療専門クリニックへ転院することにします。

「そこで22年5月から4カ月、毎月人工授精を行いました。その間に一通りの検査を受けましたが、A M H の数値が少し低いぐらいで、ほかは問題ありませんでした。9 カ月なんて他の方に比べたら短いほうだと思うのですが、それでも毎月リセットするたびに絶望し、涙があふれて止まらなかった。私にはとても長く思え、苦しい時期でした」

仕事との両立に悩み鬱っぽい日々が続く

商品開発の仕事に従事し、管理職で部下もいるNさん。治療を受けている頃はコロナ禍ということもあり、基本的にテレワークだったものの、フルタイムで残業も多かったそう。どうしても参加しなければならない会議も多く、仕事との両立が大変だったそうです。

「待合室でPCを開いてテレワークをしたり、内診台上でイヤホンをこっそりつけて会議を聞いていたこともあります」

こんなこともありました。人工授精での治療中のこと。朝一番で診察に行くと「排卵が間近だから、今日の午後、もしくは明日の朝一番でご主人の精子を持ってきてください」と言われ、Nさんは焦りました。

「翌朝は会社で大事な会議があり、絶対に無理だったので、その日のうちに持っていくしかありません。幸い夫が在宅勤務だったので何とかお願いしました。昼ご飯も食べられないほど忙しく働いているのに、嫌な顔一つせず協力してくれて。3時に私は病院まで走っていきました。でも結果は陰性。夫にも申し訳ないし、やるせなくて情けなくてこの時も涙が止まりませんでした」

正直、「こんなにストレスがかかるなかで必死に治療を受けたところで、本当に赤ちゃんを授かることができるんだろうか」と疑心暗鬼になることもしばしば。

「精神的にも身体的にも相当無理をしていたので、血流が悪くなり、自律神経が乱れているのが自分でもわかるほどでした」

精神的に限界を感じ顕微授精へステップアップ

22年9月、できる限り確率を高めたいと先生に話し、Nさんは自身の判断で体外受精ではなく、顕微授精へステップアップします。

採卵は8個できましたが1個は変性卵で受精できず、残り7個を顕微授精。4個が受精したので1個を新鮮胚移植。1個は培養中に分裂が止まり、残り2個はグレード4CCで移植できず。結果、凍結できたものは一つもありませんでした。

「病院で凍結できなかったと聞き、落ち込みました。凍結胚のほうが陽性の確率が高いと聞いていたので。卵子の老化という現実を突きつけられた気がして自分が情けなかった」

ところが数日後、クリニックに行くと、新鮮胚移植した1 個が陽性とのこと。N さんはほんの数日の間に天国と地獄の両方の気分を味わいました。「今度はうれし涙です。まだ安心はできなかったですが、もしかして流産した子が私たちの治療を後押ししててくれて、だから妊娠できたのではないかと。ふとそんなことを思い、流産した子に深く感謝しました」

夫の無言の励ましとジネコのおかげで妊娠

現在、妊娠9カ月。順調にお腹の子は育っています。不妊治療中、精神的に追い込まれたNさんを支えていたのはご主人のAさんでした。

「毎月結果が出ないことにいらだち、落ち込む私を近所の居酒屋へ飲みに誘い出してくれたり、一週間休んで、離島旅行へ連れ出してくれたことも。夫の無言の励ましがあったからこそ頑張ろうと思えた。夫婦の絆も強くなりました」

そしてNさんが「私の相棒」と言ってくれたのが本誌「ジネコ」です。「治療で落ち込むたびにジネコを読んでいました。自分と同じような仲間がいることを知り、元気をもらっていました。顕微授精にステップアップしようと早く決断できたのもジネコの記事を読んでいたから」

不妊治療は人生の優先順位を考える時間

また、不妊治療を通して「自分の人生にとって何が大事か優先順位をつけることを学んだ」とNさんは言います。

「私の場合、これまで仕事の比重が圧倒的に大きかったし、長い目で見て今後も仕事は手放したくなかった。でも、今の私が頑張るべきは不妊治療だという思いが流産、毎月のリセット、ステップアップなどいろいろ経験するたびにどんどん強くなっていきました。だから年内に授からなかったらいったん仕事を辞める覚悟もありました」

不妊治療を通して心の整理ができたとNさんは実感しています。また、何度も襲いかかってきたつらさや不安があったからこそ前へ進めたとも。そんなふうに思えるほど心のたくましさも身につけ、今は元気な赤ちゃんと会える日を心待ちにしています。

N さんの「ジネコ」活用方法

Her Story で体験談を読むことが励みになりました。エビデンスベースの医師の方々の記事は非常に説得力があり、理系脳の私はとても信頼して読ませていただいていました。また、ジネコのサイトにあった秋山レディースクリニックの培養士・澤部さんの動画は非常にわかりやすく、すっかりハマりました。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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