二段階胚移植と胚盤胞2個移植について

二段階胚移植と胚盤胞2個移植。
着床率に違いはある?
相談者 : みみさん(29歳)AMH1.77ng/ml、Th1/Th2 バランス比16.0 です。過去2 回採卵。どちらも6〜7個採れましたが、胚盤胞になったのは合わせて3 個です。採卵周期にそのまま初期胚移植、2回目は3BB の胚盤胞移植。3 回目は4BC と4CB の胚盤胞2個移植で、すべて着床すらせず陰性です。現在3 回目の採卵をショート法でするため、注射をしています。次回の移植で胚盤胞2個移植をするか、二段階胚移植をするか迷っています。着床率はどのくらい違うのでしょうか? おすすめはありますか?

これまでの治療データ

●検査・治療歴

<検査歴>
AMH1.77ng/ml
Th1/Th2 バランス比16.0
<治療歴>
1 回目 初期胚移植
2 回目 3BB の胚盤胞移植
3 回目 4BC と4CB の胚盤胞2個移植
次回 ショート法で採卵予定

●精子の検査データ

良好

●不妊の原因となる病名

不明

●漢方薬やサプリメントの使用

葉酸、ビタミンD、亜鉛、衛益顆粒、婦宝当帰膠
レディースクリニック北浜 奥 裕嗣 先生 1992 年愛知医科大学大学院修了。蒲郡市民病院勤務の後、アメリカに留学。Diamond Institute forInfertility and Menopauseにて体外受精、顕微授精等、最先端の生殖医療技術を学ぶ。帰国後、IVF 大阪クリニック勤務、IVF なんばクリニック副院長を経て、2010 年レディースクリニック北浜を開院。医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医。

ドクターアドバイス

●アンタゴニスト法で採卵を。
●胚盤胞は1個移植が効率的。
●二段階胚移植で着床率U P
3回の移植は陰性だったそうです。どのような原因が考えられますか?
奥先生●気になったのは胚の質です。5日目、6日目どちらの胚かはわかりませんが、C グレードが入っています。また、AMH が1・77ng/mlですので、卵巣年齢が進行し、同年齢の方よりも卵子数が少なくなっていることが考えられます。
 3回目の採卵はショート法でされるとのことですね。これは卵子数が少ない方に使われる刺激法です。アンタゴニスト法やロング法に比べて、採卵できる卵子数は増える可能性がありますが、胚の質が低下する傾向があります。もしも1〜2回目はアンタゴニスト法やロング法で行われていて、3回目にショート法にした場合、さらに胚の質は低下すると思います。
Th1 / Th2 比についてはどう思われますか?
奥先生● 当院はスクリーニング検査として実施していませんが、Th1 / Th2 比の有効性については意見が分かれるところです。一般的にTh1 / Th2 比の正常範囲は8〜12とされ、10・3以上になると胚の拒絶反応などが出て、着床障害や流産の原因になるとされています。確かに「16・0」は高いと思いますので、Th1 /Th2 の比率を調整する免疫抑制剤(タクロリムス)を内服するかどうか、主治医と相談されてもいいでしょう。
 それ以外の着床障害の検査(抗リン脂質抗体、血小板凝集能、プロテインS 活性、NK 細胞活性、抗核抗体)などを受けられてもいいと思います。たとえば、免疫異常が見つかればステロイドや漢方薬(加味逍遙散)、血流が良くない方アスピリン・ヘパリン療法を胚移植の直後に行うことで、着床率の改善が見込めます。
 また、胚質に改善がみられ、子宮側の着床環境を高めていく場合は、Endome TRIO検査(E RA、EMMA、ALICE)で、着床の窓のずれ、子宮内の乳酸菌バランス、慢性子宮内膜炎の有無を調べ、異常が見つかれば治療しておくことが大事です。
 子宮内膜ポリープが着床を妨げる原因になることもあります。胚移植の前に子宮鏡検査を行うのも一つの選択肢です。ポリープの除去はもちろんのこと、子宮の中を洗うことで慢性の炎症が解消され、着床しやすくなることがあります。
 さらに、最終的な選択としてPG T -A(着床前胚染色体異数性検査)を行い、染色体の正常胚を移植することで流産のリスクを減らし、着床率を上げることができるかもしれません。
二段階胚移植と胚盤胞2個移植の着床率に違いはありますか?
奥先生●以前ヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)で発表した私の研究では、胚盤胞1個の妊娠率は50・6%、胚盤胞2個では54・3%となり、統計学的な有意差はありませんでした。一方、胚盤胞「1個あたり」の着床率は50・6%ですが、2個移植すると1個あたりの着床率は36・3%に下がります。また、胚盤胞2個移植は30%の多胎率があります。胚盤胞が2つあるのであれば、胚盤胞2個移植よりも1個ずつ移植したほうが胚を効率よく使えます。胚盤胞移植でうまくいかない方の40〜45%が二段階胚移植で妊娠されており、当院であれば二段階胚移植をおすすめします。
 その理由の一つはプライミング効果です。一段階で移植する胚が子宮内膜を刺激し、二段階で移植する胚を着床しやすい状態に整えるとされています。もう一つは違う培養環境を試せることです。受精卵にとって最適な培養環境は卵管の中、次に培養液を使った体外培養で、子宮の中に留まるのが最も良くないとされています。たとえば、体外で胚盤胞になれない分割胚を子宮に戻すことで卵管に行き、体外よりも良い環境で胚盤胞に育って着床する可能性もあります。ただ、胚を2個移植しますので、10%程度の多胎率はあります。
みみさんへのアドバイスをお願いします。
奥先生●これから質の良い胚ができれば、妊娠の可能性は十分あると思います。そのためにも、まずはアンタゴニスト法で採卵することをおすすめします。採卵数は多少減りますが、質の良い胚が育つ確率は高くなります。さらに自費診療になりますが、抗酸化作用のあるサプリメント(メラトニン)を併用することで、胚の質を上げる効果も期待できます。当院では刺激周期の前周期から服用をおすすめしており、次周期に高グレードの胚盤胞に育つ方も多くおられます。これだけでうまくいく可能性もありますが、結果が出ない場合は、先ほどご提案したその他の着床検査などを行い、着床環境を整えて二段階胚移植されることをおすすめします。
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