「今の方法で何度かトライしたけれど、妊娠しない……」という時、ステップアップしようか悩む方も多いですよね。
どうやってそのタイミングを見極めるべきかを、おおのたウィメンズクリニック院長の大野田晋先生に教えてもらいました。

おおのたウィメンズクリニック埼玉大宮 大野田晋 先生
東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業後、東京慈恵会医科大学附属柏病院、国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター、獨協医科大学埼玉医療センターリプロダクションセンター、産婦人科、遺伝カウンセリングセンター、みなとみらい夢クリニックを経て2022年埼玉県大宮におおのたウィメンズクリニックを開業、院長に就任。不育症、不妊治療に悩む患者さんに真摯に向き合った治療を提案してくれる。日本産科婦人科学会専門医・指導医。日本生殖医学会生殖医療専門医。生殖医療に関する遺伝カウンセリング受け入れ可能な臨床遺伝専門医。
このめさん(34歳)
32歳の時に2度自然妊娠したものの、2回とも流産。不育症専門クリニックで検査し、血流が悪いことが判明。それ以外は問題なし。高温期の中間からバイアスピリンを服用すれば妊娠できるとの診断でした。タイミングが取れないため、昨年から不妊治療クリニックへ通院。先生から「2度自然妊娠しているからすぐに妊娠すると思う」と言われたものの、まだ妊娠せず。その後シリンジ法をしましたがフーナーテストで精子が見えなかったので、人工授精を2回やるもののNG。ちなみに精子不動化抗体の検査は異常なし。今はお休み中ですが、保険適用になったので再開予定。自然に任せるか、人工授精をもう少し続けるべきか、体外へ進むか悩み中です。

ご相談内容を拝見したところ、「2度流産を経験」しているということで、不育症のことと、その後「なかなか妊娠できないけれど、時間はどんどん経ってしまう…」という焦りが、一緒になってしまっていると感じました。

不育症と不妊症、似ている疾患に思う方もいるかもしれませんが、不妊症はなかなか妊娠できないことが悩み。それに対して不育症は、妊娠はするけれど、それを継続できないことが悩みなので、治療のプロセスが異なります。

当院に通院する患者さんならば、ご本人に妊娠した後に流産しないようにしたいのか(不育症)、それとも早く妊娠できるようにしたいのか(不妊症)、どちらの悩みが気になるかを確認してから治療をすすめるようにしています。

なぜならまず不妊症の治療についての説明をした場合、おそらくPGT-A(受精卵着床前検査)の話にいきつくでしょう。PGT-Aは、体外受精をすることが前提の検査です。この検査の話を聞いたこのめさんは、きっと「今までやってなかったけれど、体外受精をしなきゃいけない」というプレッシャーを感じることになります。

また、PGT-Aは不妊症の治療です。そのため体外受精をして良質な受精卵を移植したとしても、「2度流産した」という不育症の悩みの解決にはつながらない可能性があり、ご本人がより深くなってしまうケースも考えられます。

 

ケースによっては不育症を治療する手段の1つとして不妊症の治療を提案することも

ただ、不育症に悩む患者さんでも、高齢になればなるほど流産する確率は高くなります。この場合の流産は、不育症が原因の流産ではないため、不妊症の治療を用いて妊娠成立をサポートすることはあります。つまり不育症を治療するための手段の1つとして、不妊症の治療を提案し、元気な赤ちゃんを出産できる確率を高めることはあるのです。

今回の場合は流産の後、妊娠できていないことが気になっているようなで「妊娠する」治療を優先

相談内容を拝見したところ、このめさんは2度の流産の後、なかなか妊娠できないことを気にしているように見受けられたので、今回は「妊娠する」ことを優先した治療を提案したいと思います。

主治医の先生がおっしゃった通り、「一度妊娠した方は、妊娠しやすい」というのは事実です。ただ、妊娠は高齢になるほど妊娠しづらくなっていくのも本当です。

また月経痛もひどいということなので、チョコレート嚢胞など子宮内膜症の疾患が2年の間に進行している可能性はあります。もともと内膜症はあったけれど、小さいためにエコー検査では発見できず、少しずつ悪化してきて内膜症がわかったというケースも考えられます。

内膜症がある場合、卵巣予備能の数値(AMH)も悪いことがあります。まずは卵巣機能の状態を確認できるAMHの検査を受けるのがいいでしょう。そのAMHの結果をみて不妊治療をこのまま進めていけばいいか、急いで治療したほうがいいかを主治医の先生と相談してみるのがいいと思います。

妊娠する力に問題が無いのであれば人工授精から再開を

今の妊娠できる力や妊娠を妨げるトラブルがないかを検査したうえで問題がなければ、人工授精から再開するのがいいかと思います

人工授精は一般的に3回が目安と考えてください。これは3回までで約80%の方が妊娠しているからです。ただ3回終わった後、ご自身がステップアップするのはちょっと…と、考える場合は、トータルで5~6回まではOKでしょう。ただそこまでに妊娠しない場合は、主治医にステップアップについて相談してみてください。

治療方針が決まった不育症患者さんの85%は、元気な赤ちゃんを出産

もう1つの気がかりである不育症ですが、こまめさんは、ひと通りの検査はしているので、新たな検査はしなくていいでしょう。まれにひとりの場合は不具合がないのに、ご夫婦が一緒になることで染色体の不具合が生じる場合があります。そのため夫婦の染色体を調べる(保険適用)検査を受けたいという方もいらっしゃいますが、結果がわかった際、どちらに原因があるかなどの話に発展し、場合によっては離婚につながることもあります。ご夫婦で受ける目的や原因が分かった場合にどうするかを前もって話し合い、遺伝カウンセリングをしっかりできる医療施設で受けるようにしてください。

不育症のスクリーニング検査が済んで治療方針が決まった人の85%は、ご自身の赤ちゃんを出産しているという研究データもあります。2回続けて流産したのはとてもショックだったとは思いますが、このめさんは、年齢も34歳と若いので、恐らく次のタイミングでは、妊娠、出産することができると思います。かかりつけの先生のサポートを受けながら、あきらめずに治療に取り組んでみてくださいね。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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