仕事と不妊治療「排卵誘発」

不妊治療、特に体外受精など高度生殖医療においてネックになってくるのが排卵誘発。検査や注射などで通院回数が増え、仕事との両立が大変と思っている人も多いのでは? 治療スケジュールが立てやすくなる方法はあるのでしょうか。松本レディース リプロダクションオフィスの松本玲央奈先生に詳しいお話を伺いました。

松本レディース リプロダクションオフィス 松本 玲央奈 先生 聖マリアンナ医科大学卒業。東京大学大学院修了。2015年にはヨーロッパ生殖医学会において着床に関する研究で、最も権威のあるAwardなど国内外で多数受賞。2021年松本レディースクリニック/リプロダクションオフィス理事長就任。「患者さん一人ひとりにご納得いただける診断や治療を提供すること」が当院のモットー。

体外受精の排卵誘発にはどのようなものがありますか?

排卵誘発法にはいくつか種類があり、いわゆる高刺激といわれるものにはロング法やショート法、アンタゴニスト法、PPOS 法などがあります。

ロング法は前の周期から、ショート法は採卵周期の月経開始からGnRHアゴニストという点鼻薬を使って自然の排卵を抑えていく方法で、卵巣への刺激はHMGなどの注射で行います。

最後に排卵を起こさせる処置(トリガー)を行うのですが、ロング法やショート法の場合、HCGという注射を使わなくてはいけないのですね。そうすると卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高まってしまうので、現在当院ではこれらの方法はほとんど行っていません。

アンタゴニスト法は、自然の排卵を抑えるためにアンタゴニストというお薬を使う方法で、排卵誘発には注射や点鼻薬を使います。高刺激の部類に入る方法ですが、OHSSを起こしにくいというのがメリット。ただし、アンタゴニストのお薬を始めるタイミングや排卵を起こさせる処置をどこで行うかを見極めるのに医療側の経験が必要になってきます。

ほかに低刺激(施設によっては中刺激と呼ぶ所も)と呼ばれる方法も。これはクロミッドRなどの飲み薬と注射を併用するやり方です。注射は通院で行うHMG注射のほか、リコンビナントのFSHというペン型の自己注射を選択することもできます。

飲み薬を使うということで比較的刺激がマイルドなので、高刺激で反応しにくい高齢の方などに採用されることもあります。

PPOS法とはどんな方法ですか?

PPOS法は当院がメインで行っている排卵誘発法です。これは生理中から黄体ホルモンであるプロゲステロン製剤を使って排卵を抑えるやり方。近年注目されており、それまで主流だったアンタゴニスト法と比較して、卵子の質や成績に遜色がないという論文も発表されています。

メリットとしてはトリガーを点鼻薬で行うことができるのでOHSSのリスクが低下。やり方次第で低刺激も高刺激も可能。幅広い年代、ほかの刺激法で反応しなかった人にも使えます。周期を通して刺激が均一なので細かな調整がいらず、採卵日も決めやすい……など。

結果、アンタゴニスト法などと比べて通院回数を減らすこともできます。月経周期が整っている方であれば、月経期に1回・途中の様子見で1回・採卵日決定のための受診の3回程度です。

採卵の時間帯は決まっているの?

当院では午前8時に来ていただいて、順番に採卵を実施。ほかの施設も採卵はだいたい午前中のはずです。採卵後、顕微授精の作業などをしていきますから、ラボの仕事がスムーズに行えるのはやはり午前中の採卵。開院時間内なら何かあった時に迅速に対応できるので、患者さんの安全面という観点からも考えても朝一番の採卵は妥当だと思います。

採卵時間は局所麻酔や無麻酔だったら30分程度。大事をとって1時間くらいでしょうか。ただし、短時間で終わるといっても採卵は手術の一種で、お腹の中がケガをしている状態ですから、できればその日はお仕事を休むなど、無理をしないで過ごしていただきたいですね。

体外受精のスケジュール管理のポイントは?

生理周期が安定している方は比較的スケジュールは立てやすいと思います。乱れやすい方の場合だととりあえずやってみるしかない。採卵の日にちもなかなか決められないケースもありますが、初めに採卵日ありきだと逆に成績が落ちてしまうことも。私たちは医学の観点から安全性や効果を考え、しかるべきタイミングで次回の診察日をご提案しています。お一人おひとりスケジュールは変わってきますが、そのなかでPPOS 法などをうまく使っていけばお仕事との両立は十分可能だと思います。

排卵誘発のポイント

PPOS法の場合、採卵までの通院回数は3回程度。採卵日はできれば仕事を休んで、体をいたわりましょう。

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