体外受精には、胚を移植する周期に「ホルモン補充周期」と「自然周期」の2つの方法があり、どちらかを選択できます。今回は、仕事と治療を両立するために知っておきたい、ホルモン補充周期について取り上げます。その方法やメリットについて、うめだファティリティークリニックの穀内香奈先生にお聞きしました。

うめだファティリティークリニック 穀内 香奈 先生 大阪医科薬科大学卒業。市立池田病院、北摂総合病院、大阪医科薬科大学病院准教授を経て、2022年4月よりうめだファティリティークリニックの診療主任。日本産科婦人科学会専門医、生殖医療専門医、臨床遺伝専門医。「私自身も不妊治療の経験者ですので、治療中の方の気持ちはよくわかります。そこもしっかりフォローしながら、妊娠をサポートさせていただきます」

移植をする周期には2つの方法がある

体外受精では、まずAMH の値を指標にして排卵誘発法を決め、月経開始とともにお薬を始めます。2〜3日に一度エコー検査を行い、卵胞の大きさが20〜22mmに育ったら、卵胞の成熟をうながすお薬を使い、約36時間後に採卵日を設定します。採卵後は体外で卵子と精子を受精させて育った胚を凍結します。その後、移植周期に胚を移植し、胚盤胞は10日後、初期胚は12日後に妊娠判定を行います。

胚を移植する周期には、「ホルモン補充周期」と「自然周期」があります。どちらも胚の日齢に合わせて子宮内膜が着床できる状態にし、移植につなげていきます。ホルモン補充周期は、おもに貼り薬(エストラーナテープ)を使い、排卵の状態を人工的につくります。貼り薬でうまくいかない方や皮膚が弱い方には、飲み薬(プレマリンR)を併用することもあります。どちらもお薬の開始から15日目に子宮内膜の厚さをチェックし、7mm以上になったら点鼻薬(ブセレリン)で排卵を抑え、移植の日を決めていきます。

自然周期はホルモン補充を行わず、自然の流れで卵胞が育つのをエコーで確認します。18mm程度に育ったら、卵胞の成熟を促す注射薬(HCG)を使い、約2日後に排卵をチェック。そこで排卵が起きていれば、注射薬を使った日をDay 0として、初期胚は3日目、胚盤胞は5日目に移植します。

移植日を調整しやすいホルモン補充周期

ホルモン補充周期と自然周期では、特に妊娠率に差はないといわれています。当院は仕事と治療の両立を希望される方のために、移植日が調整しやすいホルモン補充周期を中心に行っています。たとえば、お仕事の都合などであらかじめ設定していた移植日が難しい場合は、ホルモン補充を開始する時期を後ろにずらすことで、移植日を多少遅らせることが可能です。

自然周期は使用する薬が少ないなどのメリットもありますが、排卵の時期を逃さないために、こまめに通院しチェックする必要があります。それでも排卵の時期を逃してしまうリスクもあります。妊娠のチャンスを失わないためにも、しっかり排卵を抑制しながら移植の周期をつくるホルモン補充周期は有効です。

採卵や移植のための通院を減らす工夫で両立をサポート

仕事と治療の両立にはたくさんの課題がありますが、体外受精が保険適用になり、不妊治療の存在が世間にある程度認知されたかと思います。会社にどこまで相談できるかはご本人の考え方にもよりますが、不妊も疾患の一つ。各企業でも不妊治療について周知し、相談しやすい環境を整えてもらうことを優先していただけたらと思います。

私たち病院側も通院の負担を減らす工夫をしています。その一つとして、当院は今年4月から排卵誘発のための自己注射を導入し、随時指導を行っています。病院で注射をする場合は7〜10日の通院が必要ですが、自己注射なら2〜3日の通院で済みます。また移植時期についても、ホルモン補充周期であれば、自分の予定に合わせて移植日を設定できます。不妊症で悩んでいる方はもちろんですが、仕事と治療の両立で悩み、治療の一歩が踏み出せないという方もぜひ相談してください。

ホルモン補充のポイント

排卵をしっかり抑制しながら移植周期をつくるので、お仕事などの予定に合わせて移植のスケジュールが調整しやすい。

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