体外受精顕微授精など、体の外で卵子や精子に人の手を加える治療を、「生殖補助医療(ART)」と言います。今では日本で生まれる多くの赤ちゃんがART で生まれ、ART を受けるご夫婦も増えています。そこでART の基本的な技術である、体外受精と顕微授精について福井敬介先生に教えていただきました。

福井ウィメンズクリニック福井 敬介 先生 日本大学医学部卒業。卒業と同時に愛媛大学産科婦人科に入局。愛媛大学大学院医学専攻科修了。2000年愛媛大学産科婦人科学助教授。2001年、「高度な生殖医療をより身近な医療として不妊カップルに提供したい」と福井ウィメンズクリニックを開設する。

原因を見極めながらステップアップへ

体外受精と顕微授精はどちらの場合も、まず、卵巣から卵子を採取し、卵子を完全に成熟させるために培養を行います。その後、卵子と精子が受精するのですが、治療により受精の仕方が異なります。

体外受精は、精液から回収した精子を卵子の入っている培養液の中に加え、受精するのを待つ方法です。端的にいえば、精子任せの受動的な受精の方法です。1個の卵子に対して、約3万~10万個の精子を媒精し、(振りかけて)自然に受精するのを期待するのが体外受精です。

一方、顕微授精は、細い針を使って、精子を卵子の中に直接注入します。精子の数が少ない場合や、体外受精では受精しない場合に行われます。1個の卵子に対して、1個の精子をガラスの針を使って能動的に注入する方法です。顕微授精はこれまで体外受精でうまくいかなかったり、卵子に未熟性がみられる時などに用いられます。そうした理由から年齢が高い方に顕微授精となる傾向があります。当院では卵子が複数ある場合は、受精障害のリスク回避のため、半分を体外受精、残りは顕微授精を行うスプリット法を行っています。

よりよい環境で受精卵を培養良好な胚を選択して胚移植

受精後の胚は、インキュベーター(培養器)で管理されます。インキュベーターは子宮の環境に近い状態に設計され、受精( 卵胚 )へのストレスがよりかからない環境で培養できる管理システムです。卵割が順調に進み、良好胚ができれば胚移植を行います。移植には初期胚移植、胚盤胞移植、さらに初期胚移植と胚盤胞移植を組み合わせた二段階胚移植などさまざまなバリエーションがあり、これまでの治療歴や凍結保存できた胚の状態などを考慮し決定します。また、移植に合わない薬を使っているなど条件によりますが、初回は新鮮胚、それ以降は凍結胚を使う場合もあり、原則は凍結融解胚を移植します。

移植の方法として自然周期とホルモン補充周期があります。自然周期は自分の排卵に合わせて戻し、ホルモン補充周期は薬を使って排卵日を調整し、子宮内膜をホルモン剤によって整えてから移植を行います。薬で排卵をコントロールするため、移植日の調整や確定が可能になり、自然に排卵が起こらないような排卵障害の方でも行うことができます。一方、自然周期は使用する薬を最小限に抑えられるというメリットがあります。

胚移植後の制限は特になしいつも通りの生活を

移植当日は安静のため、お仕事を休まれるようおすすめしていますが、移植後は絶対安静といったことは必要ありません。ただ、激しいスポーツや飲酒、喫煙は避けたほうがいいでしょう。また、最近ではコロナ禍ということもあり、「ワクチン接種」について聞かれることが多いのですが、特に問題はありません。

「移植」というとなんだか怖いイメージを与えてしまうようですが、細いチューブを子宮の中に入れるだけで、痛みもほとんどありません。早ければ5分ほどで終了し、当院では30分ベッドで休んでもらった後帰宅してもらいます。

治療にあたって意外に怠りがちなのが、薬を飲むこと。忙しくて薬を飲んだかどうかわからなくなってしまうようです。ピルケースに入れて管理したり、メモをするなど定められたものをきちんと服用するようにしましょう。

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全記事、不妊治療専門医による医師監修

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