人工授精や体外受精へのステップアップのタイミング、どうすればいい?

年齢や検査結果から、次の治療段階へ移行すべきかお悩みのすーさん。ART クリニックみらいの村田泰隆先生にお話を伺いました。

村田泰隆 先生(ART クリニックみらい院長)1994年 名古屋大学医学部卒業後、安城更生病院にて産婦人科全般に従事。1998年 名古屋大学付属病院にて、周産期・不妊症を専門に診療および研究。2003年 名古屋大学医学部大学院卒業後、IVF大阪クリニック・なんばクリニックにて4年にわたり体外受精年間1500周期以上の臨床経験を積む。2007年 竹内病院トヨタ不妊センター長、2010年 エンジェルベルクリニック不妊センター長を経て、2016年 ARTクリニックみらい開院。5年間で約3200例を妊娠出産に導く。個々の背景や将来の家族計画に合わせた治療を信条としている。医学博士。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医学会認定生殖医療専門医。

相談者:すーさん(35歳)

2021年6月頃から自己流でタイミングを取り始め、12月に不妊専門クリニックを受診して一通りの検査を終えました。年齢や様々な検査結果から、ステップアップのタイミングを悩んでいます。

人工授精にいつステップアップすればよいか、それとも人工授精を飛ばして体外受精にトライした方が良いのか…(夫の1度目の精液検査の結果が悪く、その時に体外受精の話が出ました。2度目は温めながら持っていったのが良かったのか少し結果が良く、人工授精でも大丈夫かなと言われています)。

クリニックの先生からは、1番の問題は私の年齢だと言われました。今回生理が来たらステップアップした方がいいのかなと、焦りの気持ちが出てきました。

自己流のタイミング法を半年間行って、ステップアップすべきか悩まれているということですが。

タイミング法を続けるにしても、なにがしか新しい取り組みをし、よりよい環境作りをしながらトライすることをお勧めします。せっかく病院に行かれたので、排卵誘発剤を使うなど、順に治療を強くして、確率を上げて取り組まれると良いと思います。

ステップアップの時期や方法は、基本的にはどう考えれば良いのでしょうか?

一般的には「年齢」が最も重要です。まずは女性の「卵巣予備能」、どれぐらい卵子を持っているか、卵巣の余力です。AMH値がひとつの目安になりますので、病院でしっかり評価してもらうとよいでしょう。またご自身で、月経周期がちゃんとしているのかを把握しておく。周期が短くなってきているとしたら、卵巣予備能低下の兆しである可能性が高く、そのような場合は、急いで治療に取り組むとよいでしょう。

すーさんの場合、人工授精か体外受精、どちらへ移行するのが良いと思われますか。

35歳で月経周期が30日、AMHが2.5ng/mlということですと、卵巣予備能が決して高いわけではありませんが、それだけで、一刻も早く体外受精に…という状態とは思いません。子宮筋腫や内膜症など、他に何か特別な所見が無ければ、一般的なステップアップでよいかもしれません。一つの治療を半年程度は頑張ってみて、結果が出なければ次のステップへ、ということですね。

ご主人の精子の検査データは1回目が精子濃度1600万/ml、運動率43.8%で、2回目が精子濃度3200万/ml、運動率59.4%。数字だけで判断するのはなかなか難しいですが、2回目はWHOの基準値をクリアしており、特別に悪いわけではありませんから、私なら、まずは確率を上げつつタイミングを頑張ってもらい、それで結果が出なければ人工授精をまずは数回トライしてみても良いでのは、とアドバイスします。

 

精液検査の結果が1回目と2回目で大きな差がありますが、これはよくあることなのでしょうか?

精液検査の結果が大きく変動することは珍しくありませんので、1回の結果で一喜一憂せず、良い時もあるんだ、とプラスの考えで進んでいっていただきたいですね。日頃の生活の積み重ね、採取する時のコンディションなど、いろいろな要因で、量も含めて結構変動するものです。

確実に精子を良くする方法というのはありませんが、やはり生活習慣がとても大事だと言われています。栄養バランスの良い食生活をして、ビタミンやミネラル、特に亜鉛などをしっかり摂って、お酒やタバコや睡眠など、整えられるものは整える、睾丸を温めないようにする、などでしょうか。そういったことにも気を配りながら過ごしてもらうと良いと思います。

4月からの保険適用でステップアップを検討されている方も多いと思います。先生からのアドバイス、メッセージをお願いします。

 

まずはご本人やご夫婦が、何を望んでおられるのか、どんな将来を描いているのか。妊娠に対する考え方や、目指している家族設計によっても、アドバイスが変わってきます。なるべく自然の延長で赤ちゃんが欲しいと思っておられるのか、とにかく早く欲しいと思っておられるのか、なんとか1人授かれば良い、できれば2人、いや3人でも4人でも、と希望によって、ステップアップのスピードや、治療の取り組み方、お勧めする方法が変わってきます。ご夫婦でよくよく語り合い、夢は大きめに描いてもらうとよいでしょう。当院では、受診時にお伝えいただければ、同じ夢にむかってチーム一丸でお手伝いさせていただきます。

今や生殖補助技術(ART)、体外受精も広く普及し、生殖の一つの手段として特別なものではなくなっています。当院でも「保険適用を機に積極的にトライしたい」という方がたくさんおられます。現在お悩みの方々には、恐れることなく、積極的にサポートを受けていただくことをお勧めします。妊娠したあとには、出産・子育てという、20年に及ぶ未来が待っています。妊娠はあくまで通過点、そこに至るまでになるべく時間は掛けず、少しでも早く新しい人生のステージに進んでいただきたい。微力ながらお手伝いできればと思っています。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。