PCOS のステップアップ

現在、人工授精7回目。早く授かるためにはステップアップすべき?

人工授精7回目で判定待ちのひなこさん。金銭的・身体的な負担を考えると、今はまだART に踏みきれないでいらっしゃいます。PCOS 以外に特に原因がない場合、早く授かるためにはステップアップをするべきでしょうか? それとも、他にできることはありますか? セント・ルカ産婦人科の宇津宮隆史先生にお話を伺いました。

セント ・ ルカ産婦人科 宇津宮 隆史 先生 熊本大学医学部卒業。1988 年九州大学生体防御医学研究所講師、1989 年大分県立病院がんセンター第二婦人科部長を経て、1992 年セント・ルカ産婦人科開院。国内でいち早く不妊治療に取り組んだパイオニアの一人。開院以来、妊娠数は9,500件を超える。
ひなこさん(29 歳)からの相談  先日、7回目の人工授精を行いました。そろそろステップアップを考えなければならない時期ですが、金銭的にも身体的にも負担が大きいので、なかなか踏みきることができません。PCOS ということ以外は夫婦ともに特に検査結果は問題ないのですが、早く授かるためにはステップアップするべきでしょうか。また、ステップアップするとしても来年からと考えており、今回リセットしても人工授精8回目をしようと思っています。何かやっておいたほうがよいこと、特に気をつけたほうがよいことはありますか?

ひなこさんは今まで人工授精に7回トライしたそうです。この選択について、先生はどう思われますか?

宇津宮先生●人工授精の妊娠率は約8〜10%。回数別で見ると4〜5回以降の妊娠率はぐんと下がるので、半年以内もしくは回数を目安に次の治療に進むのが一般的です。
 ひなこさんはステップアップをすることに不安があるようですが、30歳未満で年齢的にも若く、AMH(抗ミュラー管ホルモン)が9・84ng/mlと高いなど、好条件が揃っています。AMHの数値が高いのはPCOSの患者さんの特徴でもあり、そうでない患者さんの卵巣には通常小さな卵胞が2〜3個程度のところ、10〜20個と非常に多く確認できます。すべてが成熟卵というわけではなく、半分は未熟なまま採卵することにはなりがちですが、数が多いため妊娠率は上がります。凍結胚盤胞が複数個できて2人目、3人目と赤ちゃんを産んだ患者さんも珍しくはありません。体外受精の段階からはPGT ーA(着床前胚染色体異数性検査)で染色体異常のない受精卵を移植するという選択肢も加わります。
 PCOSだからこそ、うまくいく確率が高まると言える場合もあるので、躊躇せず、早めのステップアップをおすすめします。

リセット期間に8回目の人工授精を考えているそうですが……。

宇津宮先生●ひなこさんのデータを見て気になるのは、過去に異所性妊娠をしていること。クラミジアなどの性感染症や子宮内膜症など何らかの病変があり、それが原因となって異所性妊娠を起こしたとも考えられるのです。もしそうなら、卵巣や卵管に障害を受けている可能性があるので、人工授精を繰り返してもうまくいかないでしょう。さらに言うと、妊娠しても今度は反対側の卵管などで異所性妊娠を起こす可能性があるということを頭に入れておかねばなりません。
 ひなこさんがもし8回目の人工授精をするのであれば、その前に腹腔鏡検査でお腹の中の状態を確認することを強くおすすめします。

PCOSの患者さんがART(高度生殖補助医療)を受ける場合、どのような点を注意すればよいですか?

宇津宮先生●第一にOHSS(卵巣過剰刺激症候群)を注意すべきです。排卵誘発で過剰に卵巣を刺激した時に卵巣が腫れ、重症になると脳血栓症などを起こすことはすでに知っている方も多いでしょう。ただし、以前に比べればOHSS に対してはレトロゾールやレルミナⓇ、カバサールⓇなどの新しい薬もあります。通院しているのが不妊治療専門のクリニックであれば、そこの得意な方法できちんとコントロールしてもらえると思いますので、「OHSSは昔ほど怖がらなくてもいい」と言えるでしょう。

他に気をつけることはありますか?

宇津宮先生●PCOSの患者さんは適切な治療をすれば赤ちゃんができる可能性が高いというメリットについては前述した通りです。しかし、PCOSは糖尿病と深く関わっている、ということは、あまり患者さんに知られていません。PCOSで当院を受診される患者さんでも3人中2人の割合で糖尿病もしくは今はまだボーダーラインの糖尿病予備軍であるというデータが出ています。しかも、糖尿病は遺伝性の因子に肥満やストレスなどの要因が加わり、加齢とともに増えていくことが予想されます。
 糖尿病の怖いところは、初期段階では自覚症状がまったくと言っていいほどないことです。そのため、不妊治療を開始して初めてPCOSだとわかり、糖尿病を疑う、というケースがほとんどでしょう。症状のない患者さんに糖尿病のことを伝えると「信じられない」と困惑されますが、中には、糖尿病をコントロールできるまで不妊治療を中断しなければならない場合さえあります。
 不妊治療を行ううえではOHSSに関与するため注意が必要ですが、糖尿病自体が今後の生活に大いに影響を与えてくるものですし、妊娠した時に妊娠高血圧症候群になる確率を上げてしまいます。さらに、子宮体がんなどにもつながる可能性があります。内視鏡手術後に体外受精で妊娠できる患者さんもいれば、赤ちゃんを諦めて子宮摘出された患者さんもいます。PCOSの患者さんは、糖尿病もしくはその可能性がある体質であり、子宮体がんになるリスクがあるということを知って注意してください。
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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。