昨年12 月5 日、ジネコオンラインセミナーを開催しました。当日は神奈川レディースクリニック院長・小林淳一先生が登壇。「着床のためにできること」をテーマにご講演いただきました。今回はそのセミナーの一部をお届けします。

神奈川レディースクリニック 小林 淳一 先生 慶應義塾大学医学部卒業。1984 年より習慣流産の研究と診療に携わり、1989 年より済生会神奈川県病院においてIVFを不妊症・不育症の診療に導入。その後、新横浜母と子の病院の不妊・不育・IVFセンター長に就任。2003 年、神奈川レディースクリニックを開院する。患者さまの個々のペースに合わせた無理のない医療を目指す。

着床障害は不妊症と不育症の中間の領域

見た目の良い胚を良好胚と言いますが、良好胚で移植を繰り返してもなかなか妊娠しない状態を着床障害といいます。不妊症と不育症のちょうど中間の領域で、誰にでも起こりうる現象です。受精卵が子宮に着床したにもかかわらず、反応が出る直前でロスするケースも多く、その割合は約30%といわれています。原因は胚側にある場合が多いですが、母胎側のこともあります。胚の場合は主に発育不良によるものが多く、母胎側であれば、子宮内膜ポリープや子宮筋腫、卵管水腫やホルモン異常、着床の窓のずれなどが原因として挙げられます。

着床しやすくするための検査で最近注目はEMMA、ALICE

着床不全の方に対してはまず子宮内環境の検査を行い、原因を探ります。どのクリニックでもたいてい実施しているのが子宮鏡検査で、子宮内の筋腫、ポリープ、炎症、子宮内腔の癒着がないかどうかなどを調べます。

それ以外で最近注目されているのがEMMA検査とALICE検査。いずれも子宮内フローラを調べる検査です。子宮内にはラクトバチルスという菌がいるのですが、このラクトバチルスが90%以上、保たれていると着床率も60%以上期待できるといわれています。このラクトバチルスの割合に着目して調べるのがEMMA検査。そして、ラクトバチルスが90%未満だった患者さんに対して、慢性子宮内膜炎にかかわる菌が子宮内にいるかどうかを調べるのがALICE検査です。実は不妊症の約30%、そして反復着床不全・反復流産の方の66%が慢性子宮内膜炎といわれています。このほかにはCD138検査があります。ですから胚移植を何度行ってもなかなか着床しない人、子宮鏡検査で異常が認められた人は、原因を調べるためにもこれらの検査を受けることをおすすめしています。

また、移植に適した時期を調べるERA検査もあります。これは子宮内膜の着床能に関する248の発現遺伝子を次世代シーケンサーで解析し、胚移植に適切な着床のタイミングを評価する検査です。費用はかかりますが、この検査結果で約30%の人が着床の窓がずれていることが判明し、移植日を修正することで妊娠率が25%向上するといわれています。着床不全の方であれば、受けてみる価値はあります。

その人に合った方法を工夫し、着床しやすくする

着床率を上げるには良好胚をいかに得るかが大切。年齢にもよりますし、卵巣の力にもよるので非常に難しいところですが、その患者さんにとって最良の方法で良好胚を得ることが一番なので、採卵にいたるまでの刺激の仕方、採卵の時期、卵の受精のさせ方などを試行錯誤し、工夫しています。

受精した胚は、タイムラプスという胚の監視装置を活用して観察します。分割していく状態を常に観察し続けることで、異常分割している胚を見逃さないようにしています。正常に分割していった胚を見極め、移植の際その胚に対して着床しやすくするようアシステッドハッチングも行っています。

移植周期に入ってから何をするかは医師によってさまざまですが、私の場合は子宮の緊張をとるブリカニールを移植3時間前に、移植前後の3日間はダクチルを使います。血流を良くし、血栓を防ぐバイアスピリンなども使い、着床時に子宮内がベストな状態になるように工夫します。

また、子宮内の乳酸菌を増やす効果のあるラクトフェリンを積極的に取り入れるようにしています。活性酸素による酸化ストレスも着床に良くないので、体内の糖化産物を下げるヒシエキスも使ったりしています。

このように着床率を上げるためにさまざまなことを取り入れているわけですが、特に私が効果を実感しているのはタイムラプス・ERA、ラクトフェリンです。これらの導入によって当院では妊娠率が2017年には約32%だったのが21年には41%と格段にアップしました。一方、流産率は27%から21%に下がっています。

腟や子宮内の環境を整えるラクトフェリン

サプリメントに関してもよく聞かれるのですが、これまでの経験から、着床不全に関してはやはりラクトフェリンが効果的だと感じています。それゆえ私のクリニックでは移植周期の方全員にラクトフェリンをおすすめしているほどです。

よく妊娠中期で流産してしまう、大変お気の毒な患者さんがいます。子宮の入口に雑菌が入り、炎症が起きて破水してしまうわけです。でも、こうした流産を防ぐのにもラクトフェリンは有効です。子宮内の乳酸菌を増やすことで、腟の中の雑菌の繁殖を抑えることができるからです。

その他、着床不全の方におすすめしているのはビタミンD、ビタミンEです。ビタミンDは免疫力を高め葉酸の吸収を良くします。ビタミンEは子宮内膜を元気にしてくれるので、妊娠しやすく流産しづらい体にしてくれるサプリだと言われています。

いずれにしても健康的な生活を送ることが第一。二人揃って規則正しい生活、適度な運動、適正体重を心掛けましょう。ストレスを軽減することが大切です。

ラクトフェリンとは?

ラクトフェリンとは、感染防御の機能を備えたたんぱく質です。人間の母乳に多く含まれており、生まれたばかりの赤ちゃんをウイルスや菌から守る役割を担っています。もちろん大人にとっても重要。腸内細菌の状態を整え、免疫力向上が期待できるからです。

さらに数年前、子宮内環境にも有用ではないかという研究報告があって以降、ラクトフェリンは子宮内フローラを整える成分として注目されています。着床不全の方が移植前月から服用すると着床率が上がり、流産の予防にもつながると言われています。ただ、ラクトフェリンは体内でつくられるものの、多くはなく、乳製品から摂ることもできません。だからこそ服用する場合は腸にしっかり届いて体内の吸収効率を高めてくれる「腸溶性」のサプリメントを選ぶことをおすすめします。

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全記事、不妊治療専門医による医師監修

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