気になるガイドラインが発表されました。そこで保険適用の可能性が最も高いといわれる「胚移植」について、厚仁病院の松山先生にお尋ねしました。
胚培養から移植までの流れや基礎知識について知ろう
まず採卵して卵子を確保します。そしてその卵子が成熟卵であるかをチェックします。採卵した時の卵子の状態が良ければ受精率もその後の発育も良くなる可能性が高くなります。成熟卵であれば、卵子の周りにある細胞(卵丘細胞)の有無によって、卵子と精子を一緒にする媒精法を決めます。周りの卵丘細胞がなければ顕微授精を選択します。
一方、ご主人から精液をいただいて、洗浄濃縮し、条件を整えた上で媒精します。その後、媒精した卵子と精子を培養器で培養します。媒精の条件を満たさない場合は顕微授精を選択し、受精するのを待ちます。一般的な培養器を使用した場合は、日々の観察のたびに受精卵(胚)を取り出すため、胚に負担がかかりやすくなるともいわれており、当院では一般的な培養器ではなく、胚を培養器から取り出さずに継続的に観察できるタイムラプスを導入して、胚の発育をみています。
受精からおよそ5日目には「胚盤胞」と呼ばれる着床前の状態に至ります。その中から、形の評価にはなりますが、良いランクの胚を子宮へ戻します。
初期胚と胚盤胞の移植についてそれぞれメリットとデメリットは?
胚は2~3日後には4~8細胞に分割し、初期胚と呼ばれます。さらにおよそ2~3日間培養すると胚盤胞と呼ばれる段階にまで発育します。移植には、初期胚移植、胚盤胞移植があります。一般的に初期胚移植に比べ胚盤胞移植が着床率は高いといわれていますが、胚の発育状況等、そのほかのさまざまな状況を考慮して、初期胚または胚盤胞のどちらを移植するか決めています。
初期胚移植は胚移植のキャンセルも少ないとされ、胚盤胞移植は移植あたりの妊娠率が初期胚移植より高いといわれています。胚盤胞移植では、子宮に着床する直前の胚盤胞まで発育した胚を移植することができるからです。着床率の高い胚盤胞移植では、移植数を1個に制限しても妊娠率は良好で、多胎妊娠率が低いこともわかっています。以上の理由により、当院では胚盤胞移植を基本としておりますが、状況により初期胚移植を行うこともあります。
全胚凍結と新鮮胚移植法の違い、移植日はどうやって決める?
最近は初期胚にしても胚盤胞にしても、全胚凍結を行うことが多くなっています。その理由の一つとして卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の予防という点が挙げられます。採卵周期では、複数の卵子を採取するために卵巣刺激をしているため、ホルモンが過剰に分泌されており、胚移植時における子宮内膜の状態が着床に適さない場合があります。そのため、胚を凍結しておいて、次の周期に子宮や卵巣のコンディションを整えてから移植を行います。着床率の向上に役立つことが全胚凍結の大きなメリットでしょう。
凍結胚を融解し培養後に移植する場合、移植の日を決定する方法が大事です。移植の日を決定する方法には、ホルモン補充周期法と自然周期法があります。ホルモン補充周期法は、月経開始3日目より卵胞ホルモン製剤を開始し、子宮内膜の厚みが移植の基準に達したら、先に移植日を決定しそこから逆算して黄体ホルモン剤を投与するので、仕事との兼ね合いなどの点から、スケジュールを調整しやすいというメリットがあります。自然周期法は排卵日を特定し、移植日が決定しますので、排卵日が特定しやすい場合は行ってもよい方法かと思います。しかしながら移植のスケジュールの自由度はほとんどないという点も持ち合わせています。実際にどちらで行うかは患者さんとも相談のうえで最適な方法を決定しています。
妊娠率を改善する胚盤胞移植正しく理解して治療を進めよう
胚盤胞移植は初期胚に比べ着床率が高い
全胚凍結は卵巣過剰刺激症候群の予防が期待できる
ホルモン補充周期が自然周期に比べスケジュールが調整しやすい