着床の窓を遺伝子レベルで調べる 先進医療「ERA」検査とは?

着床の窓を遺伝子レベルで調べる先進医療「ERA」検査とは?

胚が着床する適切なタイミングを調べられるというERA検査。その効果や費用などについて、京野アートクリニック高輪の京野廣一先生に詳しいお話を伺いました。

京野アートクリニック●京野 廣一 先生 福島県立医科大学卒業後、東北大学医学部産科婦人科学教室に入局。チームの一員として日本初の体外受精による妊娠・出産に成功。2007 年仙台市に京野アートクリニック仙台、2012 年東京都港区に京野アートクリニック高輪を開設。患者さんに寄り添い、安全・安心・最短の道を指導している。

3割くらいの人は着床の窓がずれている!?

皆さんは「着床の窓」という言葉をご存じでしょうか。これは子宮内膜が胚を受け容れることができる、着床に最適な期間のことをいいます。

ホルモン補充周期の場合、月経開始3日目くらいからエストロゲンというホルモンを投与します(期間は10日から2週間程度)。子宮内膜が8㎜くらいの厚さになったら黄体ホルモンを投与します。5日後頃が胚を受け容れる最適な時期となるので、そのタイミングで胚移植日を設定します。

ERAを受けた方の7割くらいの方はここが着床の窓となりますが、約3割の人が想定の時期では合いません。着床の窓が平均からずれていて、5日後の移植では早すぎる、もしくは遅すぎるということがあります。

なぜずれてしまうのか、その原因はまだはっきりわかっていませんが、高齢という条件も起因しているのではないかといわれています。着床の窓が合わない3割の人のうち、7割くらいが戻すタイミングが早すぎます。年齢が上がってくるとその割合が増えてくるということがわかってきました。

また、子宮内細菌叢を調べると着床がうまくいく人はラクトバチルスという善玉の菌が多くいます。着床不全の人は子宮内細菌叢のバランスが良くないケースが多いようです。

子宮内膜の受容能を遺伝子レベルで解析

では、着床の窓にずれがないか確かめるためにはどうしたらよいのでしょうか。以前は「子宮内膜日付診」という検
査が行われていました。これは子宮内膜の組織を採取し、顕微鏡で観察し、内膜の腺と間質の変化から排卵日から何日目に相当するかを推定。胚が着床可能な状態にあるかどうか調べる検査です。昔から行われてきた検査ですが、精度は低く、正確な結果が出るものではありませんでした。

それをカバーするために2015年にスペインで開発されたのが「ERA(子宮内膜受容能検査)」です。これは子宮内膜の組織を採取し、内膜の着床能に関連する236個の遺伝子の発現レベルを解析。その人にとって最適な着床の窓を調べる検査です。

当時、日本でERAの開発者であるカルロス・シモン氏の講演を聴く機会があったのですが、その時「ERAはこれからの不妊治療に必ず必要な検査になる」と確信。すぐにスペインへ行って彼から直接説明を聞き、2015年8月から当院でも導入することになりました。

ERAは先進医療なので保険診療中でも受けられる

ERAは2回以上良好な胚を戻しても妊娠しなかった患者さんにおすすめしています。通常だと、良好胚を戻せば妊娠率は50%程度です。2回続けて妊娠しないとなれば、受精卵ではなく着床のほうに問題があるのではないかと推察します。

検査の流れは移植の時と同じで、月経開始3日後頃からエストロゲンを投与。月経開始から2週間目頃に子宮内膜の厚さを調べて8mm以上になっていたら検査時と同様の黄体ホルモンを投与し、その5日後に子宮内膜の組織を採取します。細い管を入れて採るのですが、痛みはそれほどなく、採取時間は10分もかからないので外来で受けることができます。 採取した検体はスペインへ郵送して分析します。残念ながら現状では国内で分析できないので、結果がわかるまでだいたい2週間程度の時間を要します。

検査費用はだいたい14万円弱です。現在ERAは先進医療となっているので検査料金は自費ですが、保険診療で不妊治療をされている方でも受けることができます。ただし、どの施設でもできる検査ではなく、これまでの実績があり、先進医療を行ってもいいという厚生労働省の認可を受けた施設でなければ受けることはできません。

もしERAを受けたいとご希望された場合、注意点が一つあります。ERAは慢性子宮内膜炎により子宮内に強い炎症が起きている状態で受けると、正しい分析ができないことがあります。検査の流れとしては、まず慢性子宮内膜炎の有無を調べる。そして炎症が認められれば抗菌薬できちんと治療してからERAを受けるようにしましょう。

費用がかかってしまう検査なのでそれを無駄にしないよう、医師の説明をよく聞いて、正しい手順で受けていただきたいと思います。

PGT – Aと併用してより妊娠率の向上を

これまで着床不全に対してはこれという改善策はなかなかありませんでした。そのなかでERAは信頼できる検査であり、有効性も少しずつ認められつつあります。

当院ではERAを導入して7年経ちますが、検査をしてみると着床の窓がずれていたという患者さんも多くいらっしゃいます。その結果を移植に反映させ、妊娠に結びついたという例も少なくありません。

理想は、まずはPGT – A(着床前診断)で染色体異常のない正常な胚を2、3個確保してから、ERAで最適な着床の窓を調べて移植をすることです。良い胚を良いタイミングで戻せば妊娠率はぐっと上がると思います。

しかし、現在PGT‐Aは自費診療、ERAは先進医療となっています。受けるかどうか、費用面で大きなネックとなってしまうケースも多いようですね。今後データを蓄積して、その効果が有効だと認められれば2つとも保険診療に組み込まれる可能性もゼロではありません。

保険診療として認可されれば、これまで何をやっても妊娠できなかったという方にとっては希望の光になるのでは。経済的な負担も減り、より多くの方へと門戸が開かれ、妊娠率のさらなる向上を目指せると思います。

ERA(子宮内膜着床能検査)

子宮内膜の着床に適した期間(着床の窓)を個々に特定し、最適なタイミングで胚移植することで妊娠率を高めます。

EMMA(子宮内膜マイクロバイオーム検査)

子宮内膜の細菌環境が胚移植に最適な状態であるかどうかを判定します。乳酸桿菌の比率に着目して分析します。

ALICE(感染性慢性子宮内膜炎検査)

子宮内膜炎に関与する主な病原性細菌10 種の有無を調べ、陽性の場合は内膜炎の原因となっている細菌を特定します。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。