着床前診断ってどんな検査?

着床前診断は受精卵の細胞を採取し遺伝学的に調べて移植可能胚を選択する技術。今注目されている「PGT-A」検査は今春から認可されたクリニックで臨床研究として開始。メリットについてファティリティクリニック東京の小田原靖先生に聞きました。

小田原 靖 先生(ファティリティクリニック東京)東京慈恵会医科大学卒業、同大学院修了。1987年、オーストラリア・ロイヤルウィメンズホスピタルに留学し、チーム医療などを学ぶ。東京慈恵会医科大学産婦人科助手、スズキ病院科長を経て、1996年、恵比寿に開院。久しぶりに観た映画『ボヘミアン・ラプソディ』は、若いころクイーンのコンサートを実際に観たこともあり、迫力と音に感動しました。その後、DVDを買いましたがやはり映画館で観た感動とは違いますね。ご夫婦でも映画など何かを共有して、そこから会話が弾むのはとてもいいことですよね。

ドクターアドバイス

「PGT-A」は年齢の高い方に有効です。

「PGTーA」は国内では臨床研究という形でスタート

着床前診断は解析する対象によって、大きく3つに分類されます。一つは「PGTーM」で、これは筋ジストロフィーなど重い遺伝子疾患の体質をもつお子さまを出産する可能性があるご夫婦を対象に行うものです。

不妊に関連するものとしては「PGTーSR」と「PGTーA」という検査があり、前者は染色体の構造異常(相互転座など)が原因で流産を2回以上繰り返す方を対象に、後者は加齢などで受精卵の染色体の数の異常が増加することで、反復ART不成功や流産を繰り返す方を対象としています。

現在、「PGTーA」は診断技術として海外では広く行われています。日本ではまだその有用性を検討しようという段階で、一般の臨床応用として認可されているわけではありません。

一昨年、日本産科婦人科学会は特別臨床研究という形で、約100例の反復不成功、あるいは2回続けて流産をした方を対象に、この検査の有用性をみるためのデータをとりました。

その結果、これらの方々の胚盤胞のうち、移植可能胚、つまり正常な染色体数と判断された胚はトータルで27・7%。それを移植した際の移植あたりの妊娠率は66・6%。さらに流産率が11%で、この技術はかなり有用ではないかという結果が得られたので、これをもとに今度は“特別”を抜いた「臨床研究(一般の方にご協力いただいて、新しい治療法が有効かどうか調べること)」という形で、PGTーAの効果をもっと幅広くみていこうという方針を決めました。

体外受精2回不成功、2回流産を繰り返した夫婦が対象

まずはここ2年間で1000例のデータを蓄積しようと考え、今年からスタートしています。このような研究を行うには、ベースとなる施設のクオリティがある程度高くなければきちんとしたデータが出ません。たとえば平均の妊娠率が30%の所もあれば40%の所もある。そこに15%の施設が入ってしまったら、結果はまったく異なってしまいます。

そこで、ある程度一定の治療水準を有している、カウンセラーが常勤している、学会に毎年きちんと臨床結果の報告をしているなど、さまざまな条件を設け、それが認められた施設だけがこの研究に参加できるということになりました。

当院は日本産科婦人科学会のPGTーA臨床研究参加認定を受け、今年の3月から患者さんの相談受付を開始。対象となるのは体外受精2回不成功、あるいは2回流産を繰り返したご夫婦。年齢に関しては何歳の方でも、ご希望があれば参加することが可能です。

特に年齢が高い人に有効な検査だと考えています

具体的な検査の方法ですが、PGTーAには胚盤胞を使います。受精卵は胚盤胞期になると、将来胎児になる部分と胎盤になる部分に分かれるのです。透明帯をレーザーで切るとおもちみたいにプーッと膨れるのですが、その部分をまたレーザーで切って細胞を採取し、遺伝子検査を行います。この検査により、1番から22番までの染色体の数が正常かどうかわかります。

35歳くらいだと半分くらいが正常なのですが、年齢が上がるに従って胚の染色体の数的異常率が上がってくる。ですから当院では、この検査は特に年齢の高い方に有効だと考えています。

これまでは形の評価だけで「この胚を戻したら妊娠するのでは」と期待して、それなりに費用を使って胚移植をしても、結局よい結果が得られなかった。事前に染色体の状態がわかれば正常な胚を戻すまでの期間が短くなりますし、これまでうまくいかなかった原因が判明すれば治療の結果について納得がいきますよね。

ただし、いくつか問題点もあります。年齢が高い方は正常胚が1個もないということも。胚1個あたり10万円程度かかる検査になりますが、高額なお金をかけて検査をしても移植可能胚がなかったということもあり得るでしょう。

さらに、モザイクといって正常な細胞と異常な細胞が混在していて、移植をするかどうかの判断に苦慮するケースもあります。また、この検査は100%確実なものではなく、正常胚と診断されても実際は異常胚だったというケースも1%くらいあるのですね。

PGTーAは妊娠の成功率を上げる目的で行われる検査・診断で、日本を含め、今後世界で広まってくると思います。体外受精における一つの重要な発見で、今後さらにデータが蓄積されていけばメリット、デメリットともに、いろいろなことが見えてくると思います。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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