PCOSの疑いありと診断。 今後は体外受精も検討すべき?

石原 尚徳 先生 高知大学医学部卒業後、神戸大学医学部大学院修了。医学博士。 兵庫県立成人病センター、兵庫県立こども病院の勤務を経て、2008 年より久保みずきレディースクリニック菅原記念診療所勤務。不妊治療 から周産期・小児医療まで、地域に根ざした総合的なサポート体制が整 う同クリニックで、不妊治療/婦人科、産科の外来を担当する。

ドクターアドバイス

●多胎妊娠やOHSSのリスクを考え、PCOSの状態にあわせた排卵誘発法を。
●卵子が多く育った場合に備え、移植数や時期を調整できる体外受精の検討も。
タルタルさん(32歳)からの相談 Q.多囊胞性卵巣症候群(PCOS)の疑いありと診断され、排 卵誘発剤を2周期使いました。1周期目はD5からクロミッ ドⓇ1錠を5日間、卵胞が大きくならずプラノバールⓇでリセッ ト。2周期目はD5からクロミッド Ⓡ2錠を5日間、卵胞が育 たないので、D13とD15にゴナピュールⓇ注射。正月中 のD22に高温期に入り排卵した様子です。人工授精を希 望していますが、転院した昨年9月以降、一度も実施でき ていません。「排卵誘発剤が効かないのであれば、体外受 精をすすめる」と言われたのですが、急なステップアップに 知識が追いつかず、理解できません。体外受精に移行した ほうがいいのでしょうか。体外受精でも排卵誘発が必要だ と思いますが、今後どのような治療が考えられるでしょうか。

PCOSの治療方針について教えてください。

石原先生 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方には、当院でもクロミッドⓇからはじめることが多いですね。これで排卵しなければ、次はFSH製剤を使いますが、多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクを避けるため、超音波で状態をみながら薬の量や投与回数を調節することが大切になります。
 一般的にPCOSの人は排卵誘発剤の効き目が両極端で、まったく効かないか、もしくは効きすぎて多く排卵する傾向があります。クロミッドⓇが効かず、重症度が高くてなかなか排卵できない人は、ゴナールエフⓇなどのリコンビナントFSH製剤を使い、単一排卵をめざします。約10 日~3週間の連日投与が必要になり、 時間と費用はかかりますが、排卵率が高いのでPCOS以外の不妊原因がなければ妊娠は望めます。また、頸管粘液の減少や子宮内膜が薄くなるなど、クロミッドⓇにみられる副作用が少ないことも妊娠につながりやすい要因だと思います。

人工授精と体外受精の排卵誘発法の違いはありますか?

石原先生 体外受精では複数の卵子を育てるために薬の量は多くなります。量の加減は必要ですが、多く育った卵子はすべて受精後凍結し、胚移植時に胚の個数を調整すれば多胎妊娠を回避できます。また、OHSSが心配される場合はその周期の移植をキャンセルし、次の周期に凍結融解胚移植を行うなど、移植する時期を調整できるメリットがあります。

一方、人工授精ではクロミッドⓇ やFSH 製剤といった一般的な排卵誘発法で妊娠した場合、妊娠後に分泌される hCGというホルモンの影響で、OHSSが妊娠・出産後まで長期間続き、血栓症などを引き起こす可能性もあります。

タルタルさんへのアドバイスをお願いします。

石原先生 いまの治療をもう少し続けてみてもいいと思います。2周期目で排卵されているので、薬が効いている可能性があります。今回はお正月にかかりましたが、治療スケジュールが合えば人工授精できていたと思います。ただ、不妊治療中のご主人の精子の状態を考えると人工授精の目安は2~3回。次は顕微授精になる可能性は高いでしょう。

あとはクロミッドⓇ、または注射剤のどちらをメインにして卵巣を刺激するのか、先生と相談されるといいですね。作用が強い注射剤をメインにすると多胎妊娠やOHSSのリスクは高くなります。卵子が多く育ってしまった場合は、どの段階で体外受精するかを考えておくのも一つだと思います。

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