治療が先? 妊娠が先? 子宮の病気と不妊治療
不妊原因の一つでもあるとされている、子宮内膜症や子宮筋腫など子宮の病気。妊娠、それとも病気の治療が 優先か、その適切な進め方について、ファティリティクリニック東京の小田原靖先生に詳しくお話を聞きました。
ドクターアドバイス
・子宮疾患は不妊要因の一つになることも
・手術にはメリット・デメリットがある
・年齢が高い人はまず受精卵の確保を優先
子宮内膜症は手術ではなく、 不妊治療を優先する場合も
子宮内膜症は、本来は子宮の内腔にしか存 在しないはずの子宮内膜や類似した組織が、 卵巣など子宮以外の場所にもできてしまう病 気です。
初診でいらっしゃる患者さんを診て いると、軽度を含め全体の2割くらいの方に 確認されるので、少なからず不妊に影響して いるのではないかと考えられます。
子宮内膜症がどのように不妊にかかわるか はさまざまな考え方があります。
たとえば直 接的な原因であれば、卵管の癒着によってピックアップ障害を起こしてしまいます。
また、 卵巣自体にできた子宮内膜症が卵巣内の血流 を悪くすることで卵子の質の低下を招いたり、 子宮内膜症により生じた腹水などが、受精や 着床障害を引き起こすこともあります。
このように妊娠にとっていろいろな影響が 考えられますが、明らかな卵管閉塞がないか ぎり、絶対的な不妊要因にはなりにくいとい うのがこの病気の難しいところです。
6〜7㎝を超える子宮内膜症性の卵巣嚢腫があれば、悪性かどうかのチェックも含めて 不妊治療より手術を優先せざるを得ません が、問題はその前の段階です。
たとえば2〜 3㎝のチョコレート嚢腫があって不妊の場合 は、どう評価して、どのように取り扱ってい くかは年齢などの条件によっても異なってく るかと思います。
では、子宮内膜症をもっている方はどのよ うに不妊治療を進めていったらいいか。
極端 に進行した病変ではなく、体外受精の適応で もないということであれば、まずはタイミン グ療法や人工授精など、一般不妊治療でトライしていくことになると思います。
ただし、 卵管のピックアップや受精など、目に見え ないエリアでの障害も起こりうるわけですか ら、そのような治療はある程度限定的な期間 で行って、うまくいかなければ体外受精にス テップアップすることになるかと思います。
子宮内膜症の治療の一つとして手術も考え られますが、術後、卵巣の反応が低下するケー スもあるので、妊娠を考えた場合、必ずしも 手術が第一選択になるとは思いません。
年齢が 35 歳以下で卵巣の予備能が十分であ れば、手術をして自然妊娠を期待するという こともあると思います。
しかし、年齢が高く、 AMH(抗ミュラー管ホルモン)の値も低下 している方は、卵巣機能へのデメリットを考 慮すると、手術を優先するのは厳しいところ もあります。
そのような場合は子宮内膜症を温存し、体 外受精を先に行う。
ある程度卵子を採って受 精卵を得ておく、という選択肢もあるかと思 います。
凍結保存しておけば胚移植まで時間 を取れますから、着床に影響が出そうであれ ばその間に手術をして子宮環境を整えること もできます。
子宮内膜症の進行度や年齢、卵巣機能など、 条件や背景によっていくつかの選択肢がある と思うので、担当医の先生とよく相談して治 療を進めていっていただきたいですね。
子宮腺筋症は完治が難しく、 経過の中で治療法を決めていく
子宮腺筋症は子宮内膜症組織が子宮の中に 入り込んだもの。
子宮が野球のボールのよう に全体的に膨れて硬くなってくるので、妊娠 しづらく、流産率も高くなります。
ただ、どれくらいの腺筋症であれば妊娠し にくいか、というはっきりした物差しがない のが現状です。
子宮腺筋症の治療自体も困難 で、完治させる方法はなかなかありません。
排卵を抑制して病気の進行を抑えたり、月 経痛を和らげるために生理を止める薬剤を使 うことがありますが、その間は妊娠の成立は 難しいので、年齢が高い方などには難しいと いえます。
最近は子宮腺筋症の先進治療とい うことで、病巣を削り取る手術も特定の医療 機関で行われています。
しかし、これは加減 が難しい治療で、あまり削りすぎると子宮壁 が薄くなってしまい、妊娠した時の子宮破裂 のリスクが高まってしまうことも。
確実な治療法がないのが悩ましいところ ですが、不妊治療の流れとしては、通常と同 じように一般不妊治療、体外受精というス テップで進んで受精卵を凍結。
その間に薬物 治療を2〜3カ月行って、ある程度腺筋症 の縮小をみたところで、胚移植をするという ケースもあるかと思います。
なかなか着床 しなければ、手術を考える場合もあるでしょ う。
この病気も子宮内膜症と同様に、経過の なかで治療方針を決めていくことになるか と思います。
高齢で生理回数が多いほど 発症頻度が高まる子宮筋腫
子宮筋腫は、生理で子宮が収縮した時、そ の刺激でできてくるのではないかといわれて いるので、月経回数が多くなればなるほど発 症頻度が高まります。
我々が治療している 40 歳前後の方のほとんどは、筋腫をもってい らっしゃる印象を受けますね。
子宮筋腫はこぶのようなもので、子宮腺筋 症のように内膜が内側まで入り込んだ複雑な ものではありませんが、妊娠への影響はゼロ ではなく、子宮筋腫があると着床障害を起こ すという研究も多く報告されています。
治療は大きさやできた場所によって異な り、子宮の内膜を圧迫しているようなケース は当然手術の適応になりますし、子宮内に あってもあまり内膜に影響していなかった り、子宮の外側に発育しているものは経過観 察ということになります。
手術は腹腔鏡や子宮鏡による比較的体に負 担のない方法でできますが、年齢が高い方は やはり採卵、受精卵の確保が優先となってく るでしょう。
採卵後の手術については、術後、 内膜が薄くなるような方もいらっしゃるの で、出産時のリスクも含め、本当に必要かど うか検討していくことが大事かと思います。