不妊治療を始めたばかりのころは、不安や疑問だ らけ。
特に「お金がかかる」というイメージを強 くもっている患者さんは多くいらっしゃるでしょ う。
実際に治療された方は平均してどのくらいの 治療費をかけているのか、治療による金額の違い、 またなぜ不妊治療が高額になるのかなど、不妊治 療のお金にまつわるハテナをセントマザー産婦人 科医院の田中先生にお聞きしました。
不妊治療の金額
各クリニックがホームページなどで治療費を公開している場合が多いようですが、実際にどれだけお金がかかるのかはよくわからないというのが患者さんの印象です。
不妊治療は、大きく分けて一般不妊 治療か高度生殖医療(ART)となります。
ARTは体外受精以上の治療を指します。
ARTに対しては国と地方自治体の助成金制度があります。現段階の条件は、夫婦の所得合算730万円未満で、奥さんの年齢が 40 歳未満の方は1回 15 万円を6回まで、 40 〜 42 歳は3回まで。
男性の場合も精巣を切り開いて精子を採取するMicroーTESE(顕微鏡下精巣内精子回収法)などの治療で1回 15 万円を6回まで助成金が出るようになりました。
各自治体によっても異なりますので、お住まいの自治体のホームページなどで詳細を調べましょう。
しかし、実際は対象となる夫婦の約 半数しか助成制度を利用していません。
たとえば関東圏は全国の1/3の割合で生殖年代にあたる人口がいますが、所得合算730万円を超える夫婦が多く、国が発表しているように不妊治療中の夫婦の八割五分をカバーできているというのは現実的な数字ではないようです。
関東圏の方々は年収の制限で半数程度ですが、地方では違う理由で助成金を使わない場合が多々あるようです。
地方は窓口となる役場で知り合いに遭う可能性が高く、助成の適用内だけれど名前を呼ばれたり顔を見られるのが嫌で申請しない。
ましてや男性不妊となればさらに躊躇してしまう。
それはとてももったいない話ですよね。
当院のある北九州市では直々にお願いをして、不妊症の助成金を申請する窓口を他部署とは別の場所に設けてもらうようにしましたが、その結果、利用者がとても増えました。
ぜひ他の自治体でもそのような配慮がなされることを願います。
保険適用が少ないのはなぜですか。理由を教えてください。
「本人の健康を著しく害するおそれのある疾病に対して健康保険を使う」というのが健康保険法の定義であり、不妊症はそれに該当しないという考えだからです。
不妊は命にかかわらないので、不妊症・不育症ともに保険適用にはなりません。
このように、原則としては保険適用外ですが、超音波検査、子宮卵管造影検査、精液検査など一般不妊検査とタイミング療法は保険適用です。
私費となるARTの費用はクリニッ クによって差はありますが、目安は人工授精が8000円〜2万円、体外受精が 20 万〜 45 万円、顕微授精は体外受精費+5〜 10 万円という感じでしょう。
培養液などの高度な医療器材や不妊専門の特殊な設備を使用する料金、専門性が求められるスタッフの人件費も含まれるためいずれも高額になり、そこに、たとえば排卵誘発剤代など薬代も加わりますから、ARTは高額にならざるを得ないというわけです。
ですから、もし女性が 35 歳未満で夫婦ともに特に原因がなければ、なるべく自然妊娠を目指してほしい。
それで結果が出なければ、腹腔鏡検査で卵管の癒着などの原因を探ってから再度トライしてほしいです。
この検査は保険適用で経済的な負担が少ないうえ、腹腔鏡検査後に自然妊娠する確率はとても高いのです。
患者さんから主治医にリクエストして、もしそこでできなければ可能なクリニックを紹介してもらいましょう。
腹腔鏡検査を渋るようならむしろ転院をすすめたい。これは私からのメッセージです。
治療費や助成金制度について、国や自治体に対する要望などがあればお聞かせください。
国立社会保障・人口問題研究所が出しているデータでは、日本の人口は50 年後には8400万人程度、100年後にはさらにその半分に減少するということで、とても危機的な状況ですが、国が本気で対処しようとしているようには思えません。
当院は託児所を設けて結婚・出産後も安心して仕事復帰できる体制を整えていますが、全国的には女性が働くことを推奨しながら待機児童は減らず、保育園は増えない。
女性が出産しても働ける環境の整備に本腰を入れることと、現実的ではない助成金対象の所得上限の撤廃が何よりも優先されることを求めていきたいですね。
特定不妊治療費助成制度
不妊治療の経済的な負担を軽くするため、高額な体外受 精・顕微授精費の一部を助成する制度。
夫婦合算の総所 得730万円未満で妻の年齢が43歳未満に限ります。
相 談、申し込みはお住まいの都道府県(または市)まで。