下垂体性無月経について

Q 下垂体への働きかけが全く効かず。 排卵さえあれば妊娠できる?

蔵本武志 先生山口県柳井市出身。1979年久留米大学医学部卒業。1985年山口 大学大学院修了。医学博士。1995年6月蔵本ウイメンズクリニック開院。 開院当時より、体外受精、顕微授精をはじめ、一般不妊治療や生殖医 療の研究を広く行う。山口大学非常勤講師、久留米大学医学部臨床 教授。多忙ななかの癒しはミュージカル鑑賞。2016年の後半は、学会 等で海外へ出かける機会も多かったそうですが、時間があう時は、海外で のミュージカルも楽しまれたそう。

ドクターアドバイス

●ピル中止後 、自然月経起こらないのは  強い視床下部性排卵障害が考えられます。
●ゴナールエフⓇペンの少量継続投与で卵巣を軽く  刺激することで、1〜2個の排卵が誘発されます。
ちゃんもさん(24歳)からの相談 Q.現在24歳で不妊治療をしています。昨年末、低用量ピル の服用中止後、自然生理が起こりません。検査の結果、LHFSHが共に0.1mIU/ml以下の異常低値を示しており、 下垂体性無月経による排卵障害であることがわかりました。 他のプロラクチンやAMH等の値は正常で、子宮や卵巣にも 問題なく、卵管造影検査でも詰まりはありませんでした。4 年前に自然妊娠(やむなく中絶)したことがあります。今周 期は、クロミッド ⓇにゴナールエフⓇを併用し、D14の段階 で20㎜まで育ちましたが、複数の卵胞があったため点鼻 薬での排卵を試みました。しかし下垂体への働きかけが効 かずリセットに。排卵さえできれば妊娠すると思いたいので すが、このままの治療でよいでしょうか?

自然生理が起こらないということです。

蔵本先生 ちゃんもさんは 4 年前に自然妊娠 されたとのことですので、少なくともその頃 までは自然排卵があったのだと思います。
ピ ル中止後に何らかの原因で下垂体機能不全に なった可能性も考えられますが、もしそうな らTSH(甲状腺刺激ホルモン)や、プロラ クチン、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン) 値なども低下して、甲状腺機能、副腎皮質機 能などが阻害され、他のいろいろな症状が出 てもおかしくないと思います。
下垂体のさら に上位の視床下部への強い抑制による排卵障害(強い視床下部性排卵障害)が長く続けば、 結果的に下垂体性無月経のような状態(LH、 FSHが非常に低値、GnRHテストで下垂 体障害型、前値・ 30 分値とも低値)になるこ ともあります。
ダイエットでの体重変化はそ れほどなかったとのことで、体重減少性無月 経ではないようです。
体重減少がひどい場合 は、体重を元に戻さないと、排卵誘発剤は効 かないことが多いです。
今回は、ピルを服用されていたとのことで、 原因としてはやはり視床下部性の可能性が高 いのではないかと思います。
服用期間がわか りませんが、ピルは長期間服用すると、服用 をやめてもすぐには視床下部の働きが戻らな いことがあります。
視床下部の機能が目覚め るまで少し時間をかけることが必要です。
下 垂体だけを刺激する方法は、保全が効きませ んがGnRHアゴニスト(ブセレキュアⓇな ど)を希釈して連日点鼻投与する方法もあり ます。

どのように治療すればよいでしょうか。

蔵本先生 視床下部性無月経であれば、クロ ミッドⓇを何周期か投与すると視床下部が刺 激され、下垂体が反応してくることもありま す。
AMH値が高く、ゴナールエフの注射で 複数の卵胞が発育することから、卵巣内には 多数の卵子があると考えられますし、卵巣機 能も良いと言えるのではないかと思います。したがって、直接排卵させる方法としては、 FSH製剤のゴナールエフペンを用いて自己 皮下注射を行うことが有効です。
このゴナー ルエフペンは保険も適用されるので、費用的 にも治療しやすいといえます。
ゴナールエフ ペンはまず低用量より投与を開始します。
具 体的には、 50 単位を 1 週間投与して経腟エ コー検査で卵胞の発育を見ながら、多少でも 卵胞が発育していれば、そのまま 50 単位を連 日注射していく方法です。
2 週間くらいで 1 個程度の卵胞が育つと思います。
平均卵胞径 が 18 ㎜以上になれば、HCGを3000~ 5000単位注射します。
50 単位 1 週間で少 しも卵胞の発育が見られなければ、 1 日量を75 単位に増やして様子を見ていきます。
多く の卵胞が育った場合、排卵させるためにHC Gを投与すると卵巣が腫れる卵巣過剰刺激症 候群になったり、妊娠した場合、多胎妊娠(特 に、三つ子)になる可能性があるので、 15 ㎜ 以上の発育卵胞数は 2 個までとするようにコ ントロールする必要があります。
 現時点で下垂体への働きかけがまったく効 かず、排卵しないとのことですが、ゴナール エフⓇペンの少量継続投与を治療に取り入れ、 さらにクロミッドⓇにより視床下部を刺激す ることで、これらの働きが回復する可能性は 十分にあると考えられます。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

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