顕微授精で二度の移植に失敗

グレードの良い胚盤胞を 戻したのに妊娠しないのは 遺伝子的な相性が悪いから?

吉田 仁秋 先生 獨協医科大学卒業。東北大学医学部産婦人科学教室入局、不妊・ 体外受精チーム研究室へ。米国マイアミ大学留学後、竹田総合病 院産婦人科部長、東北公済病院 医長を経て、吉田レディースクリニッ ク開設。2016 年 1月に「仙台 ARTクリニック」として移転・リニュー アルオープン。クリニックをオープンしたばかりで毎日多忙な日々を送っ ている吉田先生ですが、趣味のサックスはコツコツ練習しているとか。 1階には先生がサックスを演奏している素敵なオブジェが飾られている ので、来院の際はぜひチェックを。
さこさん(35歳)からの相談 Q.多嚢胞性卵巣と男性不妊と診断されて、顕微授精から不妊治療が始まりました。 最初は自然周期で採卵に臨みましたが、卵子が1個も採れず、2回目は刺激法 で13個の採卵に成功。顕微授精で9個の受精卵ができ、グレードも良いもの が大半だったので、移植すればすぐに妊娠すると思っていました。ところが、一 度目は2日目の胚で着床せず、二度目はグレードが大変良い5日目の胚盤胞で、 子宮内膜の厚さが十分あり、アシストハッチングも実施して移植したのに妊娠し ませんでした。卵子の問題なのか、それとも遺伝子的に私と夫の相性が合わな かったのか……。この先、どのように治療を進めていけばいいのか、諦めたほ うがいいのかわかりません。転院はまだ早いかなと思っていますが、思い切っ て転院も考えたほうがいいのでしょうか?

着床の窓…

条件のいい胚移植をしたものの、妊娠に至らなかったのは、どのようなことが原因として考えられますか。
吉田先生 まず、「着床窓(ImplantationWindow)」が合致していない可能性があります。
胚と子宮内膜が接着するためには「着床窓」を合わせる必要があり、それがズレていると着床しません。
この検査には、病理検査による内膜日付診や、最近ではERAといった遺伝子検査によりこのズレを検査する方法があります(海外に依頼)。
一概にはいえませんが、多嚢胞性卵巣の場合、卵子の質に影響することも。
たくさん卵子が採れても、いいものが少ない時もあります。
ただ、この方は 13 個採卵したうち、9個受精してい ますから、決して悪くはない状態なのでは。
男性不妊については、どこに問題があるの か詳しく記述されていないのではっきりいえませんが、精子の奇形率や運動率が極端に悪い場合はいい受精卵ができにくいことがあります。

着床を促す方法

「遺伝子的に自分と夫の相性が良くないのかも」と悩まれているようですが。
吉田先生 着床できない原因がそこにあるとは思えません。
ちゃんと受精卵ができて、それも胚盤胞にまで育っているのですから、相性という問題ではないのでは。
着床に関して重要な要素の一つとして子宮 内膜の状態がありますが、さこさんは十分に厚くなっていたとのこと。
P4(黄体ホルモン)の値はどうだったのでしょうか。
もし値が低ければ補充が足りない場合も。
また、子宮内膜の血流を増やして賦活させ るためにサプリメントや薬の使用も有効だと思います。
さこさんが摂っているビタミンEのほか、ケースによってはトレンタールやバイアグラの座薬などを使うこともあります。
さらに子宮内膜スクラッチ法といって前周期に子宮内膜を擦過して着床を助ける方法もあります。

ZonaーFree

二度目の胚移植ではアシストハッチングも行ったようですが、これはどのような方法ですか?
吉田先生 アシストハッチングは、移植の際に透明体の一部を人為的に開いて着床率の向上をはかる方法です。
受精卵がスムーズに飛び出して、子宮内膜にくっつきやすくしてあげるんですね。
当院では、アシストハッチングをしてもうまくいかない方には、ZonaーFreeといって、移植前に透明体をすべて取り除いてしまう措置を施すこともあります。
海外では反復不成功例の患者さんによく行われている方法で、当院でも比較的いい成績を残しています。
しかし、さこさんの場合、まだこのような 治療は必要ないのでは。
移植は2回、それも胚盤胞移植はまだ1回しか実施していません。
単にタイミング的にうまく着床できなかっ たことも考えられます。
刺激法は合っているようですし、まだ受精卵も残っていると思われます。
諦める必要はなく、前向きに次の移植にチャレンジしていただきたいですね。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

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