最後の助成制度を利用。
余剰胚を移植するか 採卵するかで悩みます
宮崎 和典 先生 大阪医科大学医学部卒業。学生時代の新生児医療への興味がきっ かけとなり、体外受精や不妊治療の世界を志す。同大学産科婦人 科講師を経て、1992 年に不妊症、不育症治療専門クリニック、宮 崎レディースクリニック開業。開業当初より泌尿器科の専門医による 男性不妊外来を開設する。A 型・しし座。仕事はもちろん、プライベー トもゴルフなど多趣味でご多忙の先生。春になると和歌山に鯛釣りに 出かけるのも楽しみのひとつ。和歌山の「加太鯛」は、徳島のブラ ンド「鳴門鯛」にならぶおいしさだそう。
ジジネコさん(29歳)からの相談 Q.不妊治療歴9カ月の夫婦ともに29歳です。重度の男性不妊のため、顕微授精し かしていません。私にはチョコレート嚢胞がありますが問題はなく、卵巣年齢も若 いとのこと。3回採卵のうち、1回目は5個で胚盤胞はゼロ。2回目は12個で初 期胚陰性、凍結胚4BB陽性のち心拍確認できず流産、凍結胚4BC陰性。あと1 個4BCの余剰胚があります。3回目は5個で、3日目で4分割しかしておらず厳し い状態です。20代で3回も採卵し、さらに8分割まで至らなかったのははじめて。 今回の結果が大変ショックで、はじめて病院で泣きました。助成金もあと1回で終 了のため、凍結中の胚移植を最後に、治療を終了するか悩んでいます。妊娠の可 能性があれば頑張りたいのですがどう思われますか? 治療を続ける場合、あと1 回の助成金を余剰胚の移植に使うか、もう一度採卵するかでも悩んでいます。
助成金の活用
特定不妊治療費助成制度を利用されているそうです。
宮崎先生 助成制度が利用できるのは次回が最後とありますが、 40 歳未満であれば通算助 成回数は6回あります。
ジジネコさんは顕微授精を2回しか行っていません。
あと4回助成制度が利用できるのではないでしょうか。
ちなみに移植できなかった回は助成対象になりませんのでカウントされません。
一度お住まいの自治体などで確認してみてください。
誘発方法でコントロール
20 代で3回採卵していること、また結果が 出ないことにかなりショックを受けているそうです。何か原因は考えられますか。
宮崎先生 20 代〜 30 代の採卵数は平均 12 個。
一般的に 40 歳未満であれば3回の採卵で結果 が出ることが多いです。
そのためプレッシャーも大きいのでしょう。
気になるのは2回目で12 個採卵できているのに、3回目では5個し か採卵できなかったこと。
12 個と5個ではか なり意味が違います。
相談内容からはわかりづらいのですが、採卵数が大きく違う理由として、2回目と3回目の採卵では異なる排卵誘発法を行っているのかもしれません。
排卵誘発法については、基本的に毎回検討 しますが、前回の結果が良ければ同じ方法を試してみるのもひとつです。
2回目でグレード4BBの良好な胚盤胞で妊娠に至っていますし、AMHの値も高いとのこと。
排卵誘発法でうまくコントロールできれば、妊娠の可能性は十分あると思います。
具体的にどの排卵誘発法がいいのでしょうか。
宮崎先生 アンタゴニスト法、ショート法、ロング法のどの排卵誘発法でも可能だと思います。
AMHの値が低くなければショート法、ロング法で 10 個は採卵できるでしょう。
ただ、 この方にはチョコレート嚢胞があり、子宮内膜症の可能性も否定できません。
子宮内膜症は卵子の質の低下を招く原因にもなります。
そのような方には、ウルトラロング法という選択肢もあります。
ウルトラロング法は、1〜2カ月前からリュープリンⓇなどの分泌性ホルモン抑制剤を注射し、血中ホルモンが下がるのを確認してから排卵誘発をスタートします。
子宮内膜症の方の着床環境を整えるためによく用いられますが、ほかの方法にくらべて時間がかかるという特徴があります。
二段階胚移植の活用
次回は余剰胚を移植するか、あるいはもう一度採卵するか、どちらがいいと思われますか。
宮崎先生 胚移植を行うと助成対象として1回カウントされます。
それも悪くはありませんが、もう1回採卵して二段階胚移植をするのもいいでしょう。
二段階胚移植は、採卵後2日目と5〜6日目の胚移植を2回に分けて行います。
1回目の胚移植で子宮内膜を着床しやすい状態に整え、そこに2回目の胚移植を行うことで妊娠率を高める方法です。
子宮内膜が薄い方への効果も期待できます。
子宮内膜症は進行性のものなので、不妊治療は若ければ若いほどよいと思います。
まだ助成回数も残っていますから、安心して治療を続けてください。