多嚢胞性卵巣症候群です。
プロゲストンデポー Ⓡ注射後の 生理が普段と違い不安です
神谷 博文 先生 Q.札幌医科大学卒業。同大学産婦人科学講座、第一病理学講座に 入局後、斗南病院にて産婦人科科長を10年間務める。1998年、 神谷レディースクリニックを開業。5月30日、札幌市教育文化会館 で「望ましい不妊治療の在り方を考える」というテーマの市民公開講 座を開催。「夫婦とは何か、子どもとは何かを考え、治療法の選択に ついて自分たちなりの答えを得る機会になればと思います」
つくねさん(31歳)からの相談 Q.初潮から月経不順で、20代半ばには無月経になりました。過去の不妊治療ではクロ ミッド Ⓡが効かず、重度のPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)と診断されています。2年前、 HMG注射での治療で妊娠・出産しており、1年前の卒乳後からは1〜2カ月に一 度のプロゲストンデポーⓇ注射で生理を起こしています。いつもは、プロゲストン注射 の5日後に生理が始まり1週間以内に終わります。ところが、今回は注射の5〜7 日後に、おりものに血が混じる程度で終わりました。その後、注射から約3週間後に 生理が始まりました。出血量はかなり多く、1、2日目はナプキンが1時間ともちま せんでした。こんなことは初めてで困惑しています。注射の1カ月後の内診と血液 検査では、内膜が9㎜、卵胞は2〜3㎜のものしかなく、LH値は高め。ほかは正 常値で排卵はしていないようです。何かほかの病気になっているのでしょうか。
PCOSと不妊
つくねさんは、一度、妊娠出産をされていますが、重度のPCOSは不妊の要因となるのでしょうか?
神谷先生 PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)は、卵巣の中に卵胞がたくさんでき、排卵が起こりにくくなる状態です。
生殖年齢女性の5〜8%にみられ、不妊の主要な原因の一つ。
月経異常の原因でもあります。高アンドロゲン血症やLH高値、卵巣の多嚢胞性変化、肥満や男性化などの症状があります。
妊娠・出産を希望する場合は、排卵誘発剤で卵胞をつくり、タイミングまたは人工授精を行う必要があります。
つくねさんは、クロミッドⓇ抵抗性の多嚢 胞性卵巣症候群とのことで、排卵を伴った生理はおそらく年に1〜2回、あとは無排卵性の出血が2〜3カ月に1回という周期を繰り返していたのではないかと思われます。
HMG注射での治療で、妊娠・出産に至ったことはよかったですね。
PCOSと排卵障害
不妊治療が実り出産を経た後、再度の妊娠・出産を希望される場合も、同じ治療を行うことになるのですか?
神谷先生 出産・分娩で多嚢胞性卵巣症候群が治るわけではありません。
そのため以前と同じようにホルモン動態、排卵障害があるかと思います。
ですから、再度の妊娠・出産を望むのであれば、同じように排卵誘発剤を使った不妊治療を行うのがいいでしょう。
妊娠を望まない方の場合、生理を起こさずに放置すると、持続的なエストロゲン(卵胞ホルモン)による子宮内膜への作用で、将来的に子宮体がんになりやすいといわれています。
3〜4カ月に一度は、子宮体がんを予防する意味も含めて、黄体ホルモンを使用し、生理を起こしたほうがいいですね。
エストロゲンの働き?
黄体ホルモン製剤のプロゲストンデポーⓇ注射で生理を起こしていますが、普段の生理とは様子が違うようです。何か別の病気もあるのではないかと心配していらっしゃいます。
神谷先生 注射後、少量の出血がみられたとのことですが、今回の症状は黄体ホルモンの効果がたまたま不十分で、エストロゲンの働きのみが持続し出血が起きたのではないでしょうか。
あまり心配せずに、経過をみていてもいいのではないでしょうか。
黄体ホルモンの注射以外には、カウフマン療法もあります。
生理の3〜5日目から卵胞ホルモンを 10 日間投与し、その後、卵 胞ホルモンと黄体ホルモンを同時に 10 日間 服用して生理を起こさせることを周期的に行う治療法です。
一定の周期での生理様のものが起こると思われます。
なお、子宮内膜の検査の結果や他の病気を心配されていますが、子宮内膜が薄かったのは、子宮出血で内膜がはがれ落ちたからではないでしょうか。
年に一度は子宮体がんの細胞診や子宮鏡で子宮内膜の状態を診てもらうといいでしょう。