卵巣刺激法を変えても 採卵までなかなか進みません。

AMH値が低いので不安です

様々な卵巣刺激法を試しても採卵まで進むことができず、 AMH値も低い――。

こんな場合、どうしたらよいのか、 俵IVFクリニックの俵史子先生に伺いました。

 
俵史子 先生 浜松医科大学医学部卒業。総合病院勤務医時代より不妊治療に 携わり、2004 年愛知県の竹内病院トヨタ不妊センター所長に就 任。2007 年、 出身地の静岡に俵IVFクリニックを開業。 1~5歳の愛犬(トイプードル)、くるみちゃん、こなつちゃん、 かりんちゃんが忙しい先生の癒しの存在に。3匹とも女の子です が、性格は全員バラバラ。子育て(!?)はなかなか大変なようです。

ドクターアドバイス

●一度強い排卵誘発をお休みし卵巣を休ませてみては?
●自然に排卵を待つことやカウフマン療法なども選択肢の1つに
●癒着があっても採卵ができるケースはある
やぎさん(35歳)からの相談 Q.体外受精にトライ中。卵巣刺激法をいくつか試し7回採卵 に臨みましたが、卵胞が1つしか育たず、空 ※ 胞が2回。ア ンタゴニスト法で1個採卵するも、顕微授精でも受精しま せんでした。次回からは自然周期で卵胞が育つのを待ち ますが、毎回左の卵巣(子宮?)裏に癒着している1個の みしか育たず、針が刺せません。特に何の治療もせずに待 つだけなんて……。A ※ MHの値が0.16ととても低いので、 そんな悠長なことをしていてよいのでしょうか。いつ閉経 してもおかしくないのでは? そうなるともう子どもは諦 めるしかない? 何かほかに良い治療法はありますか?  転院も考えたほうがいい?

●これまでの治療データ

3年前に自然妊娠で稽留流産を2回経験。
不育症の検査をしたところ、抗SSA、抗核抗体の値が高く、プロテインS活性が低い。
ループスアンチコ アグラントはマイナスだった。主なホルモンの値はAMH-0.16、E2- 179.1、FSH-6.3。
不妊治療は昨年3月から開始。
人工授精を4回経たあと、体外受精にステッ プアップ。
7回臨んだ結果は、1回目/HMGフジ300×8日、フジ150 ×2日、毎日のブセレキュア→採卵(14日目)、空胞。
2回目/セロフェン ×5日、HMGフジ150×2日(4、6日目)、ブセレキュア(7日目)→ 採卵(9日目)、空胞。
3、4回目/自然周期だったが、卵胞は左卵巣裏の1 個のみで針を刺せない位置(癒着している状態)。
5回目/セロフェン×10 日。
タイミングが合わず中止。6回目/フェマーラ×5日、HMG150× 4(1日おき)。タイミングが合わず中止。
7回目/フェマーラ×5日、HM G150×7日、アンタゴニスト×5日→1個採卵し、顕微授精するも受精 せず。

低AMHから考えること

やぎさんが7回採卵にトライしてもうま くいかないのはどんな原因が考えられま すか?気になる所見はありますか。
俵先生 まず、気になったのはAMHの 値がかなり低いということです。
昨年測 られたそうですが、通常 35 歳前後の方だ と良い場合は4~5 ng / mL 程度あります。
このご年齢で0・ 16 ng / mL というのは低め だといえますね。
早発閉経(POI)に 向かっている状態なのかもしれません。
POIは 40 歳未満の早い時期に無排卵 となり月経が来なくなってしまうこと。
やぎさんは現在、月経は少なめながら毎 月来ていらっしゃるようですが、卵巣の機能低下により、卵胞の数も少なく、う まく育ちにくくなっていることが考えら れます。

不育症と早発閉経は別に考える

卵巣の機能が低下してしまった原因は?
俵先生 卵巣の手術や化学療法・放射線 治療の既往や、免疫系の合併症が原因と なりPOIになることがあるといわれて いますが、その他原因不明の場合も多く、 まだ十分な解明がされていないところが あります。
やぎさんの場合、なぜこのような状態にい たったのかは不明ですが、卵巣の機能が落ち 厳しい状況であるというのは自覚していただ いたほうがいいかもしれません。
また、以前に2回稽留流産を経験され、 プロテインS活性が低いということで不育症の可能性も疑われますが、POIと 不育症は別々に考え、それぞれに対応す る必要があると考えます。

短周期に同じ誘発法は避けるべき?

これまで行ってきた卵巣刺激法について はどう思われますか。
俵先生 もしPOIに向かっているという 状態であれば、卵巣刺激としては、GnRH アゴニストやカウフマン療法、エストロゲン療法等でFSHを下げ、ゴナドトロピン製剤 にて排卵誘発を試みる、という方法が比較的 よく使われる方法だと思います。
一方、「自 然に近い形で卵胞の発育を待つ」というのも 選択肢の一つです。
ですので、やぎさんがこれまで受けて きたやり方も決して間違っていないと思 います。
ただHMGの注射の量がどんど ん増えているのが気になります。
反応が 悪い方は、初回の誘発では7本で反応が あっても、回数とともに 10 本に、 10 本が14 本に……となってしまいがち。
反応し ないのに注射を繰り返すのは、さらに卵巣に負担をかけ、機能低下を助長する可 能性もあるため、短期間に同じ方法を繰 り返すことはよくないかもしれません。

自然周期という選択

ほかにおすすめできる方法は?
俵先生 「閉経してしまうかも」というあ せりもあると思いますが、今までかなりお 薬を使ってきてホルモンが乱れてしまって いるかもしれないので、気分転換の意味も 含めて治療を一度お休みして、卵巣の環境 を整えてみてはいかがでしょうか。
先生は「次回の採卵からは自然周期で」と いう方針を立てられているようですから、し ばらくその方法を試されてもいいのでは。
月経がまだきちんと二相性で来ているというこ とであれば、数は採れないけれど採卵できる 可能性はあると思います。
カウフマン療法やエストロゲン療法で 月経をリセットして良い状態を作る。
も しFSHの基礎値が高く、ホルモンの状 態が不安定ならば、このような治療法が 有効になるかもしれません。

卵巣の癒着

やぎさんにはもう一つ問題があって、卵胞が育っても卵巣の癒着している部分に あって、採卵のための針が刺せないという ことですが、これはどういうことですか。
俵先生 卵巣が子宮の裏側にくっついて しまっているということではないでしょ うか。
やぎさんがどうしてそのような状態 になってしまったのかは不明ですが、一 般的な原因としては子宮内膜症クラミ ジアなどにより炎症が起こると、子宮の 裏に卵巣が癒着してしまうことがありま す。
それほど珍しい症例ではありません。
癒着していると採卵することは不可能な のでしょうか。
俵先生 通常の採卵では卵巣に針を刺して採りますが、子宮に癒着している場合 は子宮にも針を貫通させなければ卵胞を 採取することができません。
やぎさんの通院している施設では採卵を あきらめたようですが、一般の施設では その方法で採卵できないのですか?
俵先生当院では、癒着があるケースで も採卵を実施していますが、腸や膀胱な ど周囲にある臓器を傷つけてしまうリス クもありますから慎重に行わなくてはな りません。
硬い子宮壁など何層も突き抜 かなくてはいけないので、場所によって は正確に卵胞まで到達するのは困難な場 合もあります。
また、通常の採卵と比べ て痛みも強くなります。
しかし、もし卵胞が1個しか育たない ということであれば、トライされてみる 価値はあると思います。
ご年齢を考える と、一つでも採卵できれば妊娠する可能 性も十分あります。
通院されている施設 にその選択肢がないのであれば、少しで も可能性を高めるために転院を考えられ てもいいのではないでしょうか。
※空胞: 卵胞に卵子が存在していないこと。
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