初めて不妊の検査・治療を受ける方は不安がいっぱいだと思います。
疑問や心配をすっきり解決し、波に乗るようにスムーズに進んでいけるよう、 ファティリティクリニック東京の小田原靖先生がわかりやすくレクチャーします!
原因不明の場合は確率や有効性を 考えながら治療を進めていきます
初診後、ひと通りの検査をして、それぞれの検査の結果で異常があれば、それに対応する治療をしていきます。
女性側でいえば、いくつかのホルモンの異 常があればそれについての対応、たとえばプロラクチンなどですね。
また、月経不順があればお薬で整えていく。
黄体機能が低い場合はホルモン補充を、卵管の問題があればそれに対しての内視鏡的な検査や治療、子宮内にポリープや筋腫などの異常があったら手術ということもありうるでしょう。
男性についても同様で、精子の異常、勃起・ 射精などの障害があれば、男性不妊からのアプローチで対処していきます。
問題になってくるのは明らかな原因はない、 要するに検査をしてもこれといった異常が出なかった場合にどうするか、ということです。
治療のスピード感というのは、前回お話しした卵巣の予備能をみるAMH(抗ミュラー管ホルモン)の値などを目安にして決めていくわけですが、すべての方が体外受精にすぐに進まなければいけないということではなく、順を追って治療していくという時間があれば、当然そういった形にのっとって進めていきます。
原因がはっきりしないものに対して治療するというのは非常に難しい部分もあるので、ある程度その治療の有効性、確率を考えながら進めていくということになります。
年齢が高めの方なら各治療、 4周期を目安に
一般不妊治療の最初の治療としてタイミング療法がありますが、大前提としてこの方法は妊娠率で考えるとそれほど高いものではなく、一般的には周期あたり3~5%以内といわれています。
ですから、妊娠しにくい方がタイミングだけみていっても結果がなかなか出ない、という状況は確かにあるわけですね。
ただし、子宮卵管造影をやって、詰まって いた卵管の疎通性が保たれたという場合や、プロラクチンを下げるお薬を飲みながら……など、何か治療的な介入があってその効果を期待する、それに併用してタイミングをとっていくという考え方であれば当然、タイミング療法という選択があってよいと思うので、やはり、不妊治療のファーストステップとして存在する意味はあると思います。
では、何カ月くらい続けるべきか。これも なかなか難しいところですが、年齢がある程度高い方の場合、その次にくる治療の余力を残してアップしなければいけません。
その時間を考えれば、長くても4周期くらいを目安に臨んでいただくといいのではないでしょうか。
体外受精にステップアップをしてからも、治療ができない時にタイミング療法などが入ってくる可能性があるわけですから、あまり長くこの段階で留まる必要もないのかなという気もします。
タイミング療法の次に人工授精というステップがありますが、この治療の一番の適応は、精子が若干少なくてなかなか受精の場までたどりつかないというケースになります。
また、性交渉や射精がうまくいかないという場合も。
ご主人が海外などに赴任していてタイミングをとりにくいご夫婦は、凍結した精子を用いて人工授精を行うこともあります。
適応ではありませんが、原因不明不妊のケースでも人工授精をすることがあり、そのような場合、妊娠率が高くなる例も。
「人工授精は原因不明不妊に対しても有効であるというような報告もたくさんあります。
排卵のタイミングにできるだけ近い時期に精子を入れる。
ということは、精子と卵子の出会いの時間をかなり縮めることができるのではないでしょうか。
卵子も老化していくと、排卵後、長時間経 つと受精能力が低下したり、受精がうまくいかなくなることもあるので、できるだけ排卵のタイミングに合わせて精子を置いてあげるというのは、やはり有効なのだと思います。
人工授精の妊娠率は1周期あたり 10 %を少 し切る程度。注射の併用で 12 ~ 13 %ほどでしょうか。
回数に関しては、人工授精は6周期くらいになるとそこからの妊娠率は頭打ちになるという報告がありますので、やはり6回くらいを目安に。
年齢が高い方の場合はタイミング療法と同様に、4周期くらいと考えていただくとよいでしょう。
一般的な治療に排卵誘発を プラスしていくのも有効です
タイミング療法や人工授精と併行して、お薬で卵子の数を増やしたり、子宮内膜を整えて少しでも妊娠しやすい状態をつくっていくというのが、一般不妊治療の主な方法になるかと思います。
ある程度年齢が上がってくると毎月排卵す る卵子の質が低下して、正常に排卵できる割合が低くなってきます。
排卵誘発剤で1回に排卵する卵子の数を増やせば、妊娠率を上げることが期待できます。
お薬で卵胞が増えればエストロゲンが上昇し、その作用で子宮内膜の状態も良好に。
そのような間接的なベネフィットもあるわけですから、排卵誘発療法も併せて行っていくことは有効だと思います(一般不妊治療でよく使われるお薬については下の表をご参照ください)。
一般不妊治療における主な排卵誘発療法
クロミフェン療法、クロミフェン/HCG療法
概要
クロミフェンは飲み薬の排卵誘発剤として広く用いられている製 剤で、視床下部(間脳)を刺激して排卵を起こす作用があります。
視床下部からはGnRHというホルモンが分泌され、卵巣からの 排卵を起こします。
このホルモンの分泌が少ない場合にクロミ フェンを投与することにより、その分泌が促進されます。
また、この薬を使用して卵子が成熟しても、卵子を排卵させるの に必要なL Hというホルモンが放出されないことがあります。
こ の場合は成熟した時点でLHと同じ作用を有するHCG(ヒト絨 毛性ゴナドトロピン)という注射をして、卵子の放出を促します。
製剤名
クロミフェン(クロミッドⓇ、 セロフェンⓇ、フェミロンⓇ)、 シクロフェニル(セキソビットⓇ)など
使用方法
月経第3日あるいは第5日より5日間、1日1~3錠内服。クロ ミフェンの内服開始後10日くらいで卵胞が20~26㎜程度に 発育し、排卵が起こります。
クロミフェンは排卵誘発効果も高く、不妊治療の第一段階として よく用いられる薬ですが、一方で使用が長期化すると、頸管粘液 の分泌や子宮内膜の肥厚が妨げられることもあります。
クロミフェンで排卵誘発を行い、4周期以内に妊娠しなければ他 の治療法に変更したほうがよいでしょう。
副作用
クロミフェン療法では発育卵胞は1~3個と、それほど多くの卵子 が発育することはありませんが、ごくまれに卵巣過剰刺激症候群 (OHSS)や卵巣腫大をきたすことがあります。
また、まれに服用中 に吐き気をもよおすことも。多胎妊娠率は全体の2%程度です。
HMG/HCG療法
概要
HMGは下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモンであるFSH の作用を有する薬剤で、下垂体の機能が低下した無月経に対 する注射治療薬。
下垂体性無月経や多嚢胞性卵巣による無月 経がHMG療法の適応となります。
下垂体からはLH、FSHという2種類のホルモンが分泌されま すが、HMG製剤にもFSHとともにLHが含まれており、製剤 によりその含有量は異なります。
LH成分に比べてFSH成分の 多い製剤をFSH製剤と呼びます。
製剤名
尿由来製剤:HMGフジⓇ、HMG日研Ⓡ、ゴナピュールⓇ、 HMGテイゾーⓇなど 遺伝子組み換えFSH製剤:フォリスチムⓇ、ゴナールエフⓇ
使用方法
月経第3~5日より連日あるいは隔日筋肉注射。
FSHは皮下注 射も可能(自己注射ができます)。
卵胞直径が16~18㎜、卵胞あたりのエストロゲン(E2)が 200pg/mlに達したら卵胞が十分に成熟したと推定されます。
この時点でLH作用を有するHCGを投与することにより、排卵 が起こります。
副作用
排卵数を上げることは多胎率を増やすリスクがあります。
また、 卵巣の状態によっては卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を引き起 こす場合も。
これらのリスクをできるだけ回避するために、注射 の量や回数を調節していきます。