ホルモン基礎値による排卵誘発法の選択

初の体外受精を前に Day3のE2が高く遺残卵胞も。

今後の排卵誘発は何がいい?

Day3のE2が高く、残卵も続いて治療が中止に。

今後の排卵誘発はどうすればいいか、 クリニックママの古井先生にお聞きしました。

古井 憲司 先生 1986年日本医科大学卒業。1年間の研修医を経て、1987 年名古屋大学産婦人科学教室入局。名古屋大学産婦人科で は文部教官を務める。さらにその後、大垣市民病院産婦人科 医長を経て、1998年クリニックママを開院。A型・やぎ座“。低 AMHイコール体外受精”という最近の風潮に疑問を抱く古井先 生。「AMHが多少低くてもFSHが10以下なら、急いで体外受 精に進まなくていい場合も。治療の選択肢は情報提供すべきで すが、まずは患者様ご本人が納得することが大切です」と語る。

ドクターアドバイス

Day3でE2値が高いのは卵巣の老化が考えられる 自然周期の月経中には遺残卵胞がない場合も。
そこからクロミッド®単独で排卵誘発をして採卵し、良好な胚盤胞に育つケースもある
卵巣の機能はAMHだけで判断せず、月経中のFSHも同時にみることが大切
ekuboさん(37歳)からの投稿 Q.2回続けてDay3のE2値が高く、ここ3カ月続けて15~ 33個残卵、またはフライング卵胞があり、治療が中止になっ ています。前周期は、プレマリン®→ソフィアA®で準備。その 後、ホルモン剤の服用をやめ、現在月経が始まったところで す。Day1では大きな卵胞はありませんでした。 今後、今月から準備し、来月予定だったロング法でいくか、今 月から自然周期法でいくか、医師から提案されていますが、 悩んでいます。

これまでの治療データ

検査・ 治療歴
2012年10月顕微授精の準備周期でDay10より10日間ソフィアA®1T。
同年11月、アンタゴニスト法で顕微授精をするはずが、Day3でE2 : 140、右33㎜ 卵胞あり(LH1.2、FSH2.3)で中止。
Day10より10日間プレマリン®1T→10日 間ソフィアA®2T。
同年12月、Day3で右19㎜の卵胞あり。
Day13より10日間プレマリン®2T→10 日間ルトラール®3T、Day26よりスプレキュア®1日4回。
2013年1月、ロング法で顕微授精をするはずが、Day3でE2 : 248、右35㎜・左 29㎜卵胞あり(LH3.5、FSH1.6)で治療中止。
HCG注射で排卵させDay9卵巣排 卵済み、右新たに2つのAF。ホルモン剤を服用せず、月経を待ち、Day15に月経開 始、現在に至る。
タイミング療法7回、人工授精4回。AMH : 0.79

卵巣機能を検査する

まず、Day3で E2 が高いとは、どのような状態なのでしょうか?
古井先生 月経開始から3日目にE2 が高く、すでに卵胞が大きく育っているというのは、年齢が若くても卵巣の老化が進んでいる方や、年齢が高い方に多い現象だと思います。
一般的に卵巣の機能を見るために は、月経中のLH、FSH、 E2 を調べます。
そして、FSHが 10 以上と高い場合は、卵巣の老化が始まっていると判断します。
また、月経中の E2 が100以上の 場合は、その時点ですでに卵胞が排卵直前の大きさまで育っていることを意味する訳ですが、それは通常の卵子の成長過程からはあり得ないことです。
当院でもそのようなケースは、卵巣が老化している年齢の高い方に見受けられることがあります。

AMHだけで判断すべきではない

ekuboさんはAMHの数値も低いようです。
古井先生 AMH0・ 79 というと、だいたい 45 歳くらいの方の平均値なんですね。
AMHというのは同じ人でも毎回、値にバラつきが出るので、1回目の計測値が次回もまったく同じかというと必ずしもそうではありません。
しかし、1回測って1以下の方の場合は、何回測っても1以上、2~3になることはないと思います。
ただ、私はAMHの値だけで卵巣 の機能を判断して治療を進めるべきではないと思っています。
やはり、月経中のDay2、Day3のFSHも同時にみることが大切です。
FSHの値が 10 ~ 15 以上あって、AMHも1以下という場合には、明らかに卵巣が老化していると判断できます。
ekuboさんの場合は、AMH が低く、さらに月経中の E2 が高いことが問題ですね。
このような場合には基本的には、ekuboさんも使用されたプレマリン ® とルトラール ® やプラノバール ® を使って消退出血を起こして、ホルモン状態をリセットするのが一般的です。
当院では、プラノバール ® を 12 ~14 日間内薬していただき、消退出血を起こして、Day2かDay3に来院していただき、そこで遺残卵胞がないことを確認してから排卵誘発を始めます。
ただし、この時点で遺残卵胞があ れば、やはり治療はいったん中止して遺残卵胞が消えるのを待つべきでしょう。
その場合はプラノバール ®などは使わずにまったくの自然周期で月経が発来するのを待って、その月経中にエコーを見てみると、意外と卵巣内に遺残卵胞が見られないことがあります。
ekuboさんも現在、ホルモン 剤の服用を止めて自然周期で月経が始まったところのようですがDay1では大きな卵胞は見られなかったとあります。
このように、自然に発来した月経中には遺残卵胞ができていないということもありますので、そういう時から排卵誘発を行ったほうがいい場合もあります。

状況による排卵誘発の選択

今後の排卵誘発の方法で悩んでいるようですが、アドバイスをいただけますか?
古井先生 ロング法という選択肢も提案されているようですが、ekuboさんのようなケースでロング法を行ってもおそらく卵胞の育ちは悪く、HMG注射の総投与量が増えるだけであまりメリットがないように思います。
私の経験から言うと、ロング法と いうのは刺激としては強くて、若い人にはたくさんの卵胞をつくってくれるのですが、卵巣が老化しているような年齢の高い方には逆に不利に働くことが多いように感じています。
それは、ナサニール ® やスプレキュア ® などのGnRHアゴニストで抑制をかけていることによる、1つの副作用だと考えておりますが、それによって卵子が育たなかったり、育っても1個ということもよくあります。
私がekuboさんにご提案する としたら、自然周期で遺残卵胞がないことを確認し、クロミッド ® 単独で排卵誘発を行うという方法です。
ほかに、クロミッド ® を内服しながら隔日にHMGを注射する刺激法もありますが、逆にその注射をすることによって卵子が育たないケースも何例か経験しています。
ですから、やはりまずはクロミッド ® 単独でトライしてみてはいかがでしょうか。
たぶん卵子は1個しか採れな いと思いますが、その1個が良好な胚盤胞に育ってくることも十分に期待できます。
特に当院では、全例、胚盤胞移植を取り入れていますから、良好な胚盤胞をつくるためにはどのような刺激方法があるのかを常に考えています。
もちろん、お一人おひとりに合った方法がありますが、一度、主治医の先生と相談されてみてはいかがでしょうか。
※消退出血:薬を使って人工的に子宮内膜をはがした時に起こる出血。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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