何度移植しても着床せず、同じ治療をくり返して……
「できることはすべてやってみよう」 この言葉が私たちに 希望の光を与えてくれました
一般不妊治療から体外受精へと進み、移植を続けても妊娠の兆しが見えないまま……。
そんなSさんの運命を、転院先の先生との出合いが変えてくれました。
自分がまさか不妊とは…… 原因不明のまま治療を開始
29 歳で旦那さんと結婚したS さん。
しばらく夫婦二人の生活を楽しんだ後、子づくりをスタート。
ところが1年たっても赤ちゃんはできず、治療を始めることに。
検査では夫婦とも特に問題は見つからず、治療はタイミング法から始めることに。
2年後には人工授精に進んだものの、まったく妊娠の兆候は見られませんでした。
夫婦で話し合い、次のステップである体外受精を考えることに。
二人で説明会に出て話を聞くと、やはり今までとはレベルが違うなと感じました。
1カ月間考え、ステップアップを選択。
「いよいよ医療の力を借りるんだ。
これできっと授かるだろうと、期待が高まりました」
最初の採卵は2010年4月。
すぐに新鮮胚を移植。
「移植すればすぐ妊娠すると思っていました。
もうこれで苦しみから解放されると。
私たち、その日は本当にはしゃいで、意味なく笑っていました。
気分がハイになっていたんです」
しかし、結果は陰性でした。
続いて8月に凍結胚盤胞を移植すると、初めて陽性反応が出ました。
その時は前回のこともあり、妊娠を実感できませんでした。
それでも、病院からは「どこで出産するか決めてください」と話が進みます。
実感はわかないまま、何となくこれからのことを考え始めた矢先、流産となってしまいます。
「陽性が出たことで、両方の両親にも伝えて心配をかけてしまった。
次は妊娠できると信じる気持ちもなくなりました」
Sさんは、しばらく治療をお休みすることを決めました。
犬が好きなSさんは、本格的な気分転換をしようと、ドッグトレーナー学校のコースを受講。
そして講習を終え、1年後の2011年 10 月に、同じ病院で治療を再開。
「前回妊娠したのだから、その時の方法が一番合っているのだろう」と、採卵して胚盤胞移植という同じ方法をくり返しましたが、結果は5回連続の陰性。
「毎回、先生に、何がいけないのか、不育症の可能性はないのかと聞きましたが、『1回妊娠しているんだから今の方法は間違っていないし、ほかにできることもない』という答えでした」
治療を始めて6年がたち、Sさんは 38 歳になっていました。
受精卵のグレードがだんだんと下がり始め、自分が疲れている、時間がなくなっていると感じるようになりました。
「同じことをくり返していても結果は出ないだろう。
先生のやり方は間違っていなかったと思うけれど、諦めるんだったら、最後にどこか別の病院に行ってみようと思いました」
着床障害と診断され 新しい治療にチャレンジ
そして2012年7月、ご主人と一緒にメディカルパーク湘南を訪ねました。
「院長の田中先生にこれまでの経過をお話しすると、
『これは着床障害だから、治療方針もそれに従って考えるべきだ』
と、はっきりおっしゃいました。
前の病院では、着床障害の治療はエビデンスがないからと、何もしなかった。
だからその時は、逆にこの先生はちょっと怪しいなって思ったんです(笑)。
でも根拠があろうがなかろうが、できることをしないと希望がないのだと、改めて実感しました」
先生の著書の中に「終わらせるための区切りのつけ方」について書いてあり、将来をご主人と二人で過ごしていくということも考え始めていたSさんは、そこにも共感できたそう。
「なんでも挑戦しよう。ここで最後の治療をしてみようと思いました」
まず、喫煙者だったご主人は、タバコは、この日でキッパリやめました。
Sさんは不育症をメインに検査。AMHは実年齢より若く、プロテインSの活性数値がやや低い以外は、原因は見当たりませんでした。
「先生からも『卵の年齢は若いのだから、チャンスはある』と言われて、希望が見えました。
プロテインSは不妊の確定要因ではないけれど、今までわからないことだったので、嬉しかったです。
欠陥が見つかって嬉しいというのも変ですが(笑)」
刺激法をフェマーラ ®でのマイルドな方法にして、ヘパリンと同様の効果が期待できて、かつ負担の少ないバファリン ®を使用。
採卵をし、新鮮胚移植をしましたが、結果は陰性。
しかしこの時は、いろいろなことを試すなかでの一貫と思っていたので、落ち込むこともなく、この方法は合わないんだと気持ちが割りきれました。
まだまだできることはある、次に進もうと。
凍結卵は残っていましたが、若いうちにできるだけ卵子を集めておこうと、刺激の方法を変えたりしながら採卵を続けました。
ヘパリンも使ってみました。
しかし夫婦の間では、経済面のことも考え、採卵は年内で終わりと決めていました。
そのことを先生に伝え、 10 月末に最後の採卵をして、新鮮胚を移植。
そしてついにSさんは、待望の妊娠を果たします。
半年前から始めていた鍼治療の効果がちょうど出始める時期でもありました。
6年間の治療を振り返って思うことは――。
「原因不明不妊には着床障害のように、まだ解明されていない原因がある、というケースもありますよね。
治療を続けるうちに、“現在の不妊治療では治療しきれないケースもあるのかもしれない……”ということに気付いた
んです。
それまでは、先生を信頼しつつも期待が持てないまま治療を続けるという矛盾を抱えていました。
時間との戦いもあり、本当につらかったです。
“着床障害の治療をする”という選択をするかどうかは、着床障害がまだはっきりと解明されていないということで、どこか頼りないものを信じるような気がして抵抗がありました。
もし違っていたら、時間的にも経済的にも大きなロスだなと不安で……。
でも、治療の可能性を探る過程をしっかりと話し合えて、コミュニケーションをとることができる先生と出合うことで、その不安が勇気に変わりました。
田中先生と話すことで私に残されている選択肢がわかり、一つひとつ挑戦していけば、そこがゴールなんだと思えました」