「卵子の老化」が話題になってから注目を集めるようになった“AMH”。

この値が低ければ卵子の老化が進んでいるのか、また老化していたら 止める方法はあるのか、木場公園クリニックの吉田淳先生に伺いました。

吉田 淳 先生 愛媛大学医学部卒業。産婦人科・泌尿器科医。生殖医療指導医・臨床 遺伝専門医。東京警察病院産婦人科、池下レディースチャイルドクリニッ ク、東邦大学第一泌尿器科非常勤講師などを経て、1999年木場公園ク リニックを開院。不妊症治療の情報収集のため、アメリカや日本国内の不 妊症専門施設の見学・研修を数多く積んでいる。50代の今、体力のピー クを迎えているという吉田先生。余分な脂肪がなく、マッサージの先生にも 「まったくつまむところがない」といわれたそう。日々の鍛錬の成果です。

ここが ポイント !

卵子の質とAMHの関係

○AMHの値が表すものは卵子の質ではなく、卵巣の予備能力(残存する卵胞の状態)。
○AMHはあくまでも目安の1つ。これだけで妊娠力ははかれない。
○AMH値が低い人は残りの卵胞数が少ないので、治療のスピードアップを。

卵子の老化を止める方法

●現状では卵子の老化を止める方法はない。
●卵子の健康を考えるのなら、適度な運動、バランスのとれた食事、まめに夫婦生活をとるように。
●卵子だけではなく、精子も老化する。男性も生活習慣を見直し、定期検査を。

卵子の老化(質)と AMH(卵子の数)は イコールじゃない?

きおさん( 36 歳) Q.卵子の老化(質)とAMH(卵子の数)は違うと思う。実際に、AMH値は実年齢通りでしたが受精は難しく、その後、補助医療で卵子の質が良くなって妊娠。一般的に数と質が混同されているのでは?

AMHの値でわかることは 卵巣の予備能力です

確かにAMH(抗ミュラー管ホルモン)のは卵子の質をみるものではなく、わかるのはその人の卵巣の予備能力です。
卵胞があとどのくらい残っているのかな、ということを知る目安になるものなんですね。
一般的に年齢とともに卵巣機能は徐々に下がり、残りの卵胞数も減っていきます。
となると、AMHの値も低くなっていくということですが、そうとはいえない場合もあります。
たとえば、お若い方でも卵巣チョ コレート嚢腫の手術を受けると、AMHの値がガクッと下がることがあります。
20 代後半でも 40 代の値の人もいるし、 40 代前半でも 20 代前半くらいの値に相当する人もいる。
AMHが0.1未満でも自然妊娠している方もいます。
今、「卵子の老化」という言葉が世間でも注目されていて、「卵子が老化しているから妊娠できない」という概念をお持ちになっている方も多いのではないかと思います。
僕はその表現が正しいかどうか、ちょっと疑問を感じますね。
「老化」というのはエイジング的なものを意味していますよね。
そうではなく、「卵巣機能の低下」と定義したほうが正しいのではないでしょうか。
実年齢だけではなく卵巣年齢も重要ということです。
卵子の老化については、これはエ イジングとして当然あることだと思います。
卵子も人間の細胞の1つですから、体が老化して臓器の機能が落ちていくように、卵子もうまくシステムが働かなくなってきたり、もろくなっていったりします。
これは誰でも避けることはできません。

年齢、前胞状卵胞数、 AMHが妊娠力の指標に

では、どうしたらいいのか。
それは、今ある能力を最大限に利用して治療をすること。
その力を見極める指標となるのが年齢、生理の時の前胞状卵胞数、そしてAMHなんですね。
AMHを測ることで残存している卵胞の数が予測できますから、どれくらい治療を急いだほうがいいかということもわかります。
低い場合は、あとどれくらい生理が来るかわからない、排卵もいつ起こるかわからない状態だということです。
しかし、この3つの指標はあくま でも目安であり「すべてが悪い状態だからチャンスはない」と思う必要はありません。
治療に入ってからわかってくることもあります。
排卵誘発剤を飲んで卵胞が成長してくるのか、卵子が採れるのか、受精するのか、胚盤胞になるのか……。
そこは実際に試してみないとわかりませんし、周期によって出てくる卵子の質や数に違いがあるので、1周期では
はかれないこともあると思います。
きおさんが指摘された「卵子の質と数」の関係ですが、関連がないとはいえないかもしれません。
若い時は卵子がたくさん採れて、多くあればその中に質の良い卵子が出てくる確率も高くなる。
年齢が上がってきて数が採れなくなってくると、その確率も下がってくるということですから、数も質に関わっているということになるかもしれませんね。

 卵子の老化を止める 方法はないので しょうか?

ネコさん( 39 歳) Q.卵子の老化を防ぐ(または若返らせる?)技術があると、どこかで聞いた記憶があります。本当にあるのでしょうか?

現状では卵子の老化を 止める方法はありません

細胞を活性させたり、アンチエイジングのサプリメント、漢方などを処方したりと、私たち不妊治療機関もさまざまな方法を取り入れて、卵子の老化を防げないか、年齢が高い方でも妊娠力をあげられないか、模索し続けています。
当院では今、男性ホルモンの塗り薬に着目して、データを集めているところです。
しかし、老化を徐々に遅らせるこ とはできたとしても、老化を大きく止める方法は現状ではないと思います。
卵子に限らず、不老不死の人はいないわけですから。
少しでも良い卵子の状態を維持す るためには、年を重ねても若々しく健康でいる方の生活を参考にされるといいかもしれませんね。
適度な運動、 バランスのとれた食事、 夫婦生活も効果的です適度な運動をして代謝を良くする。
食事はバランスよく、たんぱく質をしっかり摂って筋肉量を増やす。
やせすぎ、太りすぎにならないように気をつける。
それから夫婦生活も大切です。
治療に関係なく、夫婦生活はまめに。
持てば持つほどいいと思います。
夫婦生活を持つことで脳に刺激がいき、ホルモンのバランスが良くなりますから。
卵子に特化した何か特別なことと いうわけではなく、体全体の健康を維持する場合と同じだと考えていただければいいと思います。
気をつけていただくのは女性だけではありませんよ。
卵子の質ばかり問題になっていますが、精子も年齢とともに質が落ちてきます。
その落ち方が女性と違ってゆるやかだということだけ。
老化は女性だけの問題ではないんです。
男性も生活習慣を見直して、定期検査を受けていただきたいですね。
「老化」という響きは怖く、過去に戻りたいと思うけれど、戻ることはできません。「もっと若い時に治療しておけばよかった」と悔いたり、「この検査結果ではもう無理」と落ち込むだけではなく、今、最大限の努力をすることが大事だと思いますね。
私たち不妊治療医も、それぞれの方の卵巣機能に適した治療法を試行錯誤して研究し、ご提案しています。
さまざまな情報が耳に入って きて不安になるかもしれませんが、ご主人とともに前向きな気持ちで治療に臨んでいってほしいと思います。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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