これから不妊治療を始める方に、不妊治療専門・秋山レディースクリニックの 秋山先生が不妊治療の基本をお伝えしていきます。
最終回は、高度不妊治療における胚移植について、詳しくご説明します
秋山 芳晃 先生 東京慈恵会医科大学卒業。東京慈恵会医科大学 附属病院、国立大蔵病院に勤務後、父親が営んで いた産科医院を継ぎ、特に不妊症や不育症治療に 力を入れたクリニックとして新たに開業。O型・やぎ 座。診療所の建て替え工事のため、平成26年5月8 日から移転(clinic data参照、電話番号・予約方法 は変更なし)。平成27年2月、患者さまにとっても快 適な動線を考えた新しい施設がオープンします。
目次
どんな移植法が ベスト?
●凍結胚盤胞移植の着床率は確かに高い
●胚盤胞移植には移植キャンセルのリスクも
●いろいろな方向から考えて納得する選択を
ききさん(会社員・年齢未記入)Q.先日、体外受精と顕微授精に関す る説明を受けてきました。WEB上 の知識だけなのですが、凍結胚盤胞移植のほうが、初期の新鮮胚を移植するよりも妊娠率が高いというこ とを見聞きしました。私も凍結胚盤 胞移植を希望しようと思ったのです が、先生から「基本的に、卵管やホ ルモン数値に問題がなければ初期の 新鮮胚移植をする。凍結胚盤胞移植 は、何回か失敗したら考える」とい うようなことを言われました。
年齢が若く、検査結果に特に問題 がなければ、妊娠率はそんなに変わ らないとのこと。本当にそうなので しょうか?
年齢が若く、検査結果に特に問題 がなければ、妊娠率はそんなに変わ らないとのこと。本当にそうなので しょうか?
胚盤胞まで育たずに 移植がキャンセルになる デメリットもあります
まず、「胚盤胞移植」についてご説明していきましょう。
左ページの図をご参照ください。
自然妊娠では、卵巣から排卵され、卵管で精子と出会って受精した卵子が、5~7日間かけて発育しながら卵管内を移動していきます。
そして子宮に到達し、胚盤胞という状態になって子宮内膜に着床します。
体外受精や顕微授精では、この自然妊娠の工程を模して、体外で精子と受精させた卵子を5~7日間培養液につけて培養し、胚盤胞にまで育ててから移植することがあります。
これを胚盤胞移植といいます。
ですから胚盤胞というのは、着床直前の状態です。
一般的に、初期胚での移植に比べて胚盤胞のほうが着床率が高いと考えられており、胚の選別もしやすいという利点があります。
また、子宮内に移植された受精卵は、一度卵管に戻る(卵管回帰)という説があり、そのまま卵管内に着床してしまった場合、子宮外妊娠(卵管妊娠)になってしまうわけですが、胚盤胞移植だと着床までの時間が短いため、このような状態は起こりにくいという説もあります。
胚盤胞での移植は着床率が高いと考えられていると申し上げましたが、これは海外でも同じ認識です。アメリカの不妊学会でも、同じ数の胚を戻した場合、たとえば初期胚を1個、胚盤胞1個を戻して比べると、胚盤胞を戻した時のほうが、明らかに着床率が高いというデータが発表されています。
胚盤胞移植は着床率が高く、 着床までの期間が短いので 子宮外妊娠を防ぐ利点も
では、なぜ胚盤胞での移植は着床率が高いのでしょうか。
これは、おそらく単純なことで、体の外に出してもそこまで成長する受精卵は、もともと力を持った良い受精卵だったということではないかと思います。
体の中でも、最終的にはそのような受精卵が残って妊娠という結果に導かれるわけですから。
さらに着床率や妊娠率を高めていくのが「凍結」という要素です。
新鮮胚での移植、つまり、エストロゲン(卵胞ホルモン)が過剰に卵巣を刺激している時期での移植ではなく、胚を凍結してホルモンが適正な状態に戻っている時に融解して移植したほうがいい。
受け入れ側である子宮の環境がきちんと整ってから胚を戻したほうが、着床率や妊娠率が高いというのは当院でも実感しています。
このようなことから考えると、凍結胚盤胞移植が最も着床・妊娠しやすく、初めての移植でもこのような形の移植をご提案する施設も増えてきています。
しかし、この方法にはデメリットもあります。
それは、体外で培養を継続するために、結局、胚盤胞まで育たず、移植がキャンセルになってしまうことです。
胚盤胞になりやすい、なりにくいというのは、受精卵の質が大きく影響してくると思いますから、年齢の高い方は胚盤胞まで育ちにくく、なかなか移植までたどり着けないという場合も。
胚盤胞移植は移植あたりの妊娠率は高いといわれていますが、採卵あたりでみると、初期胚移植とあまり差がないという報告もあります。
胚を戻さない限り妊娠は成立しないのですから、ケースによっては、この方法だけにこだわるのは厳しいと思います。
また、分割初期胚移植と比べ、胚盤胞移植では、一卵性双胎の頻度や早産率、奇形率がわずかに上昇するという報告も。
まだ詳しいことは明らかになっていませんが、胚盤胞移植は100%理想的な移植法であるとは言いきれない部分もあるようです。
投稿していただいたききさんの担当の先生がおっしゃるように、初回ではまずキャンセルとなる確率の低い初期胚の新鮮胚移植を行い、うまくいかなければ次回は胚盤胞移植を試みるという選択が一般的なのではないでしょうか。
ききさんはまだ年齢がお若いようですし、ホルモンにも異常がない。
当院でも、そのような方は初期胚の新鮮胚移植をファーストチョイスとしてご提案しています。
まずは先生がおっしゃるように初期胚を新鮮な状態で移植して、受精卵が余るようでしたら追加培養して胚盤胞に育ったものを凍結保存、もしくは、余剰胚をそのまま凍結して、融解後に胚盤胞まで培養して次の移植に備えるという形をとられてはいかがでしょうか。
どうしても最初から凍結胚盤胞を移植したいという患者さんもいらっしゃいますが、そのような場合、当院では、患者さんの思いをできるだけ優先しています。
お話ししたように、この方法では移植がキャンセルになるリスクがあること、また、胚培養をすると5~10 万円程度余分に料金がかかりますから、その旨もきちんとご説明したうえで、最終的に選択していただいています。
一つの情報に振り回されず、 いろいろな方向から見て 最終的に納得できる選択を
確かに胚盤胞移植は着床率や妊娠率が高いというデータは出ているのですが、なかにはずっと胚盤胞移植を続けて妊娠されず、初期胚を移植してすぐに妊娠された方や、どう考えても妊娠は難しそうなグレードの初期胚を移植して妊娠された方も。
どの方法で妊娠できるかは、胚盤胞か初期胚か、新鮮胚か凍結胚かということだけではなく、他にも体内の環境やタイミングなど、さまざまなことが影響しているのではないかと思います。
本当のところ、それは我々医師にもまだはっきりとわかっていません。
一つの情報だけに踊らされるのではなく、いろいろな方向から見て最終的にご夫婦が納得される形を選択し、もしそれが病院の意見と合わない場合は他施設で意見を聞かれてみるのもいいと思います。