古井 憲司 先生 1986 年日本医科大学卒業。1年間の研修医を経て、 1987年名古屋大学産婦人科学教室入局。名古屋大学産 婦人科では文部教官を務める。さらにその後、大垣市民病 院産婦人科医長を経て、1998 年クリニックママを開院。A 型・やぎ座。今年は取り組みたいことがたくさんあるそうで、 昨年の 2 階病室のリニューアルに続き、「ホスピタリティの 精神で病院内にいろいろと手を加えていきたい」と先生。
うりさん(32歳)Q.子宮卵管造影検査で両側卵管閉塞が判明し、体外受精で22 個採卵、4個受精 したものの胚盤胞にならずキャンセル。その後、顕微授精で20 個採卵、8個受精、 胚盤胞1個で新鮮胚では妊娠せず、凍結胚盤胞移植で妊娠、1人目を出産しました。 その後、2 人目をと治療を再開しましたが、1人目の時と同様、卵子はたくさんで きますが、受精率が半分以下で、胚盤胞には1個しか至りません。検査ではLH:7.9、 FSH:5.8で卵子もたくさんできるので、自分では多嚢胞性卵巣症候群(PCOS) ではないかと思うのですが、先生からは何も言われませんでした。このまま今の病 院で治療を続けていいのか悩んでいます。
PCOSについて
うりさんは、PCOSではと考えていらっしゃるようです。
古井先生 「LHの値がFSHより高く、卵子がたくさん採れる」という点を考えると、日本生殖医学会が定めている定義にも当てはまるので、おそらくPCOSだと思います。
うりさんの担当の先生はまず、PCOSがどういうものかということを患者さんであるうりさんに説明し、排卵誘発の方法についてどんな選択肢があるかを説明するべきだと思います。
排卵誘発法の決定基準
卵子はたくさんできるのに受精率が悪いということですが。
古井先生 22 個のうち、成熟卵がいくつあったのかが書かれていないのではっきりしたことは言えないのですが、たとえば 20 個が成熟卵で、そのうち4〜6個しか受精しないのであれば、受精率が悪いと言えます。
顕微授精の技術的な問題ならば病院を変えたほうがいいでしょうし、卵子や精子に原因があるなら病院を変えても結果に差はないかもしれません。
ですから、まず採卵した卵子のうち、成熟卵がどれだけあったかを確認して、その成熟卵に対する顕微授精の受精率がどれくらいだったかを担当の先生に聞いてみてください。
その結果によって、転院するかどうかを決めるのも1つです。
それと、排卵誘発の方法がうりさんにとって適切かどうかということもありますね。
排卵誘発の方法を決める基準は、年齢、AMHと、月経周期の3日目か4日目くらいのLH・FSHの基礎値です。
この3つである程度卵巣の機能を評価することができます。
LH/FSHの比が高くてPCOSが疑われて、なおかつAMHの値が高い場合、卵胞がたくさんできることは事前に予測できます。
そうすると、その状態で最初からロング法を行ったら、それは少し無謀かなと思います。
低刺激、アンタゴニストなども
古井先生なら、どのような方法で排卵誘発しますか?
古井先生 こういった方の場合は、最初に「ミニマムスティミュレーション(卵巣の低刺激方法)」を行ってみます。
この方法は卵巣過剰刺激症候群のリスクも心配ありませんし、卵子が3〜5個採れるので、この方法でよい卵子ができれば一番いいですね。
卵子の数は少なくても質がよければいいわけですから。
ただ、卵子が1個しかできないとか、誘発に時間がかかって卵子がよくない場合は、アンタゴニスト法にして、その時はあまり負担がかからないよう、連日投与するHMG製剤の量を少なくしたりしていきます。
※アンタゴニスト法:多嚢胞性卵巣症候群の場合、卵巣過剰刺激症候群のリスクがある場合、またショート法やロン グ法などで妊娠しない場合などに行われる卵巣刺激法。年齢や卵巣機能にかかわらず実施できる。ショート法やロング法での点鼻薬の代わりにGnRHアンタゴニスト製剤で卵巣を刺激する。この薬は黄体形成 ホルモンの分泌を抑制し、採卵前に排卵してしまうことを防ぐ。