卵管水腫治療のため卵管結紮術を行います。術後の採卵に影響はある?

卵管水腫があり、腹腔鏡下手術で卵管結紮術を行うことに。 卵巣への血行が悪くなるなど悪影響は出るのでしょうか? 厚仁病院の松山先生にお話を伺いました。

松山 毅彦 先生 東海大学医学部卒業。小田原市立病院産婦人科医長、東海大学付属 大磯病院産婦人科勤務、永遠幸レディースクリニック副院長を経て、 1996年厚仁病院産婦人科を開設。日本生殖医学会生殖医療専門医。 クリニックでは最新医療を積極的に取り入れる一方、産科併設のメリッ トを生かし、より安心して出産を迎えられるよう、不妊治療から出産、 育児までをトータルにサポートする。おひつじ座のA型。忙しい毎日の なかでも、興味深い文献や話題の情報などをキャッチした時は、自ら掘 り下げて調べることも。新たに得た知識は、患者さんへのアドバイスや 治療に役立てている。

ドクターアドバイス

卵管結紮は血流に影響しません。 卵子の質を上げていくためにも 排卵誘発法を見直してみては

バンビさん(35歳)からの投稿 Q.7年前に腹膜炎を患い、片側卵巣・卵管になりました。その後、不妊治療を始め、唯一 残っていた卵巣付近に癒着、卵管に卵管水腫が判明。体外受精顕微授精を1回ずつ行 うも陰性で、卵子の質が悪いとの説明を受けました。そこで、次の治療までに卵管結紮術 を行うことになったのですが、卵管の手術をすると卵巣への血行が悪くなると聞きます。 ただでさえあまり質のよくない卵子。術後によい卵子が採卵できるのかとても不安です。

バンビさん のデータ

■検査・治療歴

子宮鏡検査では問題なし。 卵管造影検査で卵管水腫が判明。 3カ月後に顕微授精を行ったが陰性で、 半年後に治療再開するも卵子が育たず一度断念。 カウフマン療法を取り入れ、 体外受精を行うも再び陰性。 陰性だった原因は、卵の質が悪かったとの診断。 3度目の治療に向けて卵管水腫の手術を行うことに。

■現在の治療方針

卵管水腫治療のため腹腔鏡下手術にて卵管結紮を行う。 術後に採卵し、顕微授精する予定。 サプリメントや漢方などの補助治療も継続中。

■精子データ

運動率は60~70%。 その他のデータは不明。

卵管水腫の影響は?

卵管水腫は不妊症の原因とされています。やはりきちんと治療したほうが妊娠しやすくなりますか?
松山先生 卵管水腫の内容には分泌液が含まれていることも多く、排卵期に向かって多くなることもあります。
排卵が終了すると徐々に収束してきます。
治療すべきかどうかは、個々の状態によると思います。
さまざまな意見があると思いますが、一般的に体外受精を行う際には、何らかの対応を取ったほうがいいといわれていますね。
初期胚移植が主流だった時代は、(卵管水腫は)気を付けるべき症状でした。
現在も初期胚移植を行っているところでは、排卵後2日というとまだ分泌液が多いため、移植前に内容液を吸引する場合もあります。
なかには、内容液がずっと溜まり込んだ状態の人もいますが、この場合はただ溜まっているだけなので、分泌液の子宮への流出はほとんどなく、悪影響はないと考えられます。

卵管の手術と血流

バンビさんは今回治療することが決まり、腹腔鏡下手術で卵管結紮を行うそうです。でも、「卵管の手術をすると卵巣への血行が悪くなると聞く。術後の卵子の質に影響するのでは?」と心配されています。
松山先生 卵管結紮術は卵管の根元をクリッピングしたり縛ったりする方法で、いい治療法の1つだと思います。
溜まった内容が感染を起こしていて発熱をくり返すようなケースでは、結紮ではなく卵管切除術が適応となることもあります。
バンビさんの場合は、7年前の腹膜炎が関係した水腫と考えることもできますが、その後に発熱などの症状がなければ、おそらく結紮で対応できるのではないでしょうか。
ご心配されている卵巣への血行ですが、結紮することで血流に影響は出ないと思われます。
血行が悪くなるおそれがあるのは、卵管切除の場合です。
卵管への血流と卵巣への血流は非常に近いので、同じ血管から分岐している可能性も高いです。
卵管を切除した場合、卵巣を支配している血流の一部を遮断する可能性もあり、十分な血流が卵巣に届かない可能性が出てきます。
血行が悪くなれば、そこで育つ卵子の質が悪くなるケースも考えられます。

卵巣、子宮に血流は大切

バンビさんも体外受精と顕微授精ともに陰性で、卵子の質が悪いとの診断でした。もしかすると原因の1つに血流の問題が考えられますか?
松山先生 いろいろな理由や症状から、患者さんの血流が悪そうかなと思ったら、ビタミン剤の摂取や低反応性レーザー治療、遠赤外線療法などを提案することもあります。
また、適度の運動などをすすめることもあります。
バンビさんも、ビタミンC・Eやローヤルゼリーなども取り入れているようですね。
癒着がある人は血行が悪くなりやすいですし、片側卵巣ということもありますから、バンビさんが今行っていることは、血流や卵巣機能の改善を期待するケアになっていると思われます。
血流が改善されれば新陳代謝がよくなってきます。
結果として、栄養分やホルモンの到達量が増加しますので、卵巣や子宮にとてもいいことなんですよ。
サプリメントや漢方は補助的な役割なので、どれが効いているのかわかりにくいですが、バンビさんも続けたほうがいいかなと思います。

卵質向上のための刺激法選択

今後、卵子の質を上げていくためにはどうすればいいでしょうか。松山先生でしたら、どのように進められますか?
松山先生 排卵誘発法を再検討してみてはいかがでしょうか。
一度、抗ミュラー管ホルモンの検査をしてみるのもいいかもしれません。
まだ一般的ではありませんが、その数値によっては排卵誘発法を変更したほうがよい場合もあると考えられることもあるようです。
ご相談内容からは、バンビさんが現在どの排卵誘発法を選択されているのかがわかりません。
もしかしたら、一般的によく使われるアゴニストを併用する刺激周期で、他の方法まで試されていない可能性もありますよね。
どんな誘発法にもいい面と悪い面がある。
卵巣が片方しかなく、条件もいいとはいえないようなので、あまり強い刺激を与えても卵巣が思ったようには反応してくれないかもしれません。
私なら、このような場合は、自然周期またはクロミフェンによる低刺激周期の排卵誘発をおすすめすると思いますが、こればかりは主治医の裁量によるところがかなりありますので、刺激法なども含めて、主治医の先生とよくご相談されることをおすすめします。
※卵管水腫:腟から侵入したクラミジア、淋菌、大腸菌などにより卵管に炎症が起こり、いくつかの場所で卵管が閉塞して、その間に液体が溜まった状態。卵管采がふさがると、排卵した卵子をキャッチできな くなる。卵管形成術による治療が行われる。
※抗ミュラー管ホルモン(AMH):発育卵胞、前胞状卵胞から分泌されるホルモン。AMHの検査値から卵巣の予備能を知ることができる。ミュラー管抑制因子ともいう。
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全記事、不妊治療専門医による医師監修

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