不妊治療はじめて講座⑥最終回

俵史子先生の不妊治療はじめて講座Vol.6最終回

不妊治療の初心者の方のために 基本のいろいろをお話ししてきた この講座も今回が最終回。 今回は、体外受精や顕微授精での 「胚移植」のお話を中心に 俵先生がわかりやすくレクチャーします。

俵 史子 先生 浜松医科大学医学部卒業。総合病院勤 務医時代より不妊治療に携わり、2004 年愛知県の竹内病院トヨタ不妊センター所 長に就任。2007年、俵史子IVFクリニッ クを開業(のちに俵IVFクリニックに名称 変更)。生殖医療専門医。どのような不妊 治療をいつまでするか、最終的に決めるの は患者さんご本人。「そのためには情報をし っかり収集して、ご夫婦でよく相談し、必要 なら病院のスタッフも巻き込んで、最善の 答えを導き出してほしいですね」と先生。
ミッフィーさん(会社員・41歳)Q.約1年前から体外受精を始め 半年前から専門クリニックに通っています。 転院後も採卵2回、新鮮胚移植 2回、凍結胚移植3回。 凍結胚移植の際に一度だけ陽性が出ましたが その後うまくいきませんでした。 次回また採卵予定ですが、新鮮胚移植をするか いったん凍結して次周期に移植するか、迷っています。 以前、説明を受けた際、先生は胚盤胞には反対のようでした。 胚盤胞ではなくても、凍結胚で少しでも妊娠の確率が上がるなら 凍結胚にするか、また新鮮胚にするか悩んでいます。

治療のキャンセルを防げる 「レスキューICSI」

排卵誘発により卵巣で卵子を育てたら、卵子を体の外に採り出し(採卵)、体の外で精子と受精させ、受精卵を育ててから子宮に戻す(移植)、というのがART(生殖補助医療)のおおまかな流れになります。
受精方法には「体外受精」と「顕微授精」の2種類があり、前者は比較的自然に近い方法で、後者は人為的に精子を卵子の中に注入する方法です。
どちらの方法をとるかは精子の状態で判断することが多く、極端に精子が少ない場合は顕微授精を選択することになると思います。
しかし、精子の数がたくさんあって体外受精を選択したものの、受精がうまくいかない場合もあります。
このような受精障害を治療し、少しでも妊娠の確率を上げるために、当院では「レスキューICSI」という方法を実施しています。
体外受精を行った際、通常は翌日に受精の確認をするのですが、当院では精子と卵子を培養してから6〜7時間後に受精の兆候があるかどうかを確認。
受精していない可能性の高い卵子があれば、採卵当日のうちに顕微授精を行い、受精を助けるのがレスキューICSIです。
この方法を取り入れることで完全受精障害による治療のキャンセルを防ぎ、受精できない卵子を減らすことが可能になります。
また、不必要な顕微授精を回避することもできます。
たとえば「精子の数がギリギリかな」といった場合、半分は体外受精、半分は顕微授精で、という方法をとる施設もあると思いますが、当院でしたら体外受精を一番の選択肢と考えて、一部受精しないものだけを顕微授精で救済するという形をとっています。
レスキューICSIができた方の受精率や妊娠率は、従来の体外受精や顕微授精を受けた方の場合とほとんど変わりません。
それなら、できるだけ自然に近い形をとるようにしたい。
施設によっていろいろ考え方があると思いますが、当院ではそのような方針で治療を行っています。

「凍結胚移植」なら 安定した状態で胚を戻せます

次は、「胚移植」についてお話しします。移植をする際、胚を新鮮なまま移植するか、凍結して移植するかという2つの方法がありますが、当院では約8〜9割の方が凍結胚での移植を行っています。
凍結胚移植が選ばれる理由は、ホルモンの安定をはかることができる、胚の成長と子宮内膜環境が整う時期を一致させることができる、移植の日程を事前に調整することができる、などのメリットがあるからです。
多くのデータを見ても、新鮮胚移植より凍結胚移植のほうが妊娠率も安定していると報告されています。
また、エストロゲンの値がとても高く、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になる危険性があったり、胚が着床しづらくなることが予想される場合、排卵誘発剤の影響で子宮内膜が厚くならない場合は、胚をすべて凍結することになります。
胚の培養状態については当院では、複数の受精卵の中からいいものを見極めるためにも、胚盤胞まで育ててから移植することが多いのですが、一概にそれが第1選択とはいえず、ケースバイケースです。
たとえば、年齢などの要因で採れる卵子の数が少ない場合は胚盤胞まで育たないこともあるので、1〜2個しか採卵できなかった時は、移植のキャンセルを避けるために初期胚で戻すことをご提案しています。

適応の幅が広く、成績もいい 「ホルモン補充周期」

では、胚をいつ戻したらいいのでしょうか。
胚を子宮に戻す時期は、「自然周期」と「ホルモン補充周期」の2種類があります。
自然周期はその名の通り、自然の周期に合わせて胚を戻す方法ですが、これに適応するのは、もともと排卵が順調で子宮内膜もある程度厚くなり、黄体化非破裂卵胞(LUF)などもない方になります。
ホルモン補充療法はホルモン剤を使って人工的に周期をつくり出していく方法。
妊娠後もしばらく薬を使わなければならないなどのデメリットがありますが、生理不順の人でも子宮環境をコントロールしやすい、子宮内膜の着床ポイントの幅を広げることができるなど、メリットが多く、自然周期に比べて着床率や妊娠率の成績がいいので、当院ではホルモン補充周期で戻すことをファーストチョイスとしています。
ただし、胚の凍結と同様にこの方法も絶対ではなく、ホルモン補充周期でうまくいかなかった場合、次回は自然周期で戻すこともあります。
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一言で「不妊治療」といっても、排卵誘発法、培養の仕方、移植法、薬のチョイスなど、患者さん一人ひとりの条件によってさまざまな方法が考えられます。
一度の治療で結果が出ずに諦めるのではなく、担当医の先生と相談されて、柔軟かつ前向きに治療を進めていっていただきたいと思います。
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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。