着床してもうまく育たない。胚移植を続けるべき?

移植しても早期流産や陰性。
残りの胚を移植する前に対処法はありますか
妊娠まで進んでも流産をしたり、着床がうまくいかなかったり。残りの貴重な胚盤胞を移植する前に、必要な検査や治療があれば対処して万全な体制で次の段階に臨みたい。そんなお悩みに厚仁病院の松山先生が答えてくれました。

厚仁病院 生殖医療部門 松山 毅彦 先生 東海大学医学部卒業。小田原市立病院産婦人科医長、東海大学付属大磯病院産婦人科勤務、永遠幸レディースクリニック副院長を経て、1996 年厚仁病院産婦人科を開設。厚仁病院理事長。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医学会生殖医療専門医。
emi さん(40 歳)からの相談 39 歳から不妊治療を始め、4AA を移植して妊娠しましたが、9 週目で稽留流産。絨毛染色体検査は正常胚、不育症の検査では抗カルジオリピンIgG 抗体、プロテインS の数値が悪く、血栓ができやすいことがわかりました。その後、アスピリンを飲んで融解胚5AA を移植しましたが結果は陰性。医師の説明では、着床はしたけれど育たなかったそうです。残りの胚(4BB、4AB、6 日目胚盤胞)を続けて移植するか、新たに採卵するかを迷っています。2 個移植にも興味がありますが、円錐切除を経験しているので難しいでしょうか。TRIO 検査、子宮鏡検査など今後の治療についてアドバイスをお願いします。

ドクターアドバイス

●症状に応じた検査を検討して。
●移植は子宮環境を整えてから。
●まずは少しでも多く採卵を

まずは子宮環境を疑い条件に合う検査を

検査データや治療歴を見て、どのような印象をもたれましたか。

松山先生●プロテインSの数値をみて血栓予防のために低用量アスピリンを服用した点など、きちんと対応できていると思います。結果としては、一度目は稽留流産、二度目は着床までで終わってしまったようなので、着床環境についての検査も検討したほうがいいかもしれません。これについては複数の方面からのアプローチがあります。

一つ目は、胚の着床前診断です。胚盤胞の異数性をみることにより、移植する順番を決める目安となります。一度目の流産で絨毛染色体検査をされていますが、年齢が高くなるにつれ、染色体異常は起こりやすいので、できれば今後、移植前に胚の検査をしたほうがいいと思います。ただし、妊娠不成功の経歴によっては検査できないこともあります。

二つ目は、血液検査です。emiさんのようにカルジオリピンIgG抗体などを調べることは有効かと思います。当院では、Th1/Th2も測定しています。胎児や胎盤を攻撃する働きのあるTh1値が高い場合は内服治療を行うことで着床率を高められる可能性があります。三つ目は、子宮内膜環境を確認する意味での子宮鏡検査を行うことも良いかもしれません。

他人の経験談に惑わされず自分の状態に合う治療法をしていく

TRIO検査についてはいかがでしょうか。

松山先生●TRIO検査とは、ERA、EMMA、ALICEの3つの検査を指しますが、ERA(子宮内膜着床能検査)は「着床の窓」をみることにより胚移植に適切なタイミングを定めることができます。「着床の窓」がずれている場合はそのずれを補正することにより着床率の向上を目指します。EMMA(子宮内膜マイクロバイオーム検査)は子宮内膜の細菌叢を評価し、細菌バランスを整えるため最適な治療を推奨することで、妊娠の可能性を高めます。ALICE(感染性慢性子宮内膜炎検査)は慢性子宮内膜炎を引き起こす細菌を検出し、適切な抗生物質療法を提案します。その方にとって意味のある検査をしてはじめて治療法がみえてきますから、子宮環境に応じた検査を検討しましょう。

過去に円錐切除をしている場合、2個移植はできますか。

松山先生●2個移植は一概に不可能とはいえません。アメリカの最近の報告では2個移植のほうが1個移植よりも少しだけ妊娠率が上がったというデータがあります。しかし一方で、多胎妊娠を含む合併症の発症率が高くなるというデータも出ています。そのような理由から当院では1個移植を行うようにしています。

条件に応じた検査をしつつまずは採卵を優先

これから取り組むべき治療法はありますか。

松山先生●治療計画を立てて優先順位をつけてから行うとあれこれ迷わずに治療に専念できると思います。40歳という年齢的にみても移植は後にしてもよいので、少しでも若いうちの採卵をおすすめします。今ある胚盤胞を使い切ってしまってからの採卵となると、時間的に大きなロスになりかねません。採卵を続けながらさきほど申し上げた着床環境の検査をして問題があれば内服などの治療をし、しっかり移植できるような子宮環境を整えておきましょう。ただし、令和4年の4月より生殖補助医療が保険適応となっておりますが、保険の範囲内で体外受精等を行う場合、貯卵ができないこともありますので、主治医と相談していただきたいと思います。もちろん、日常生活で無理のない運動や十分な睡眠、ストレスの軽減、サプリメントを活用した健康的な食生活といったことも続けてください。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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