成熟卵数の理想は?
まずは、理想とする成熟卵の数からお聞かせください。
宇津宮先生 まず当院では、体外受精に入るまでにだいたい1年くらいのステップを踏んでいます。
腹腔鏡で子宮内膜症や癒着などの治療をして、その後人工授精を経て、妊娠に至らなければ体外受精へ進みます。
体外受精にステップアップした場合に目安となる成熟卵の数ですが、専門の文献を見ると、受精卵に染色体異常が見られるケースが 50 %、 40歳以上では 70 %という数字がみられるのが現状です。
ということは、半数が染色体異常を起こすかもしれない確率ということになるので……2個戻せる状態が理想と言えますね。
これを逆算して、わかりやすい目安にすると 10 個くらい。
卵胞の数と実際に採れる卵子の数の割合は卵胞が何個採れたとしてもだいたい7割が目安なので、たとえば卵胞が 10 個あったら、そのうち卵子が採れるのが7個。
受精率はその7割ほどなので、5個くらいが受精する計算になります。
その中でも良好に育つのは半数くらいなので、2個半くらいが戻せる計算です。
つまり2〜3個の中から1個選べばいい、ということになります。
ただし、受精卵の染色体異常は見た目ではわからない。
外見で非常に良好であっても、染色体異常を起こしている可能性もあるので、 10個くらいが理想の目安と言えます。
子宮内膜の厚みについて
子宮内膜の厚さと受精率についてはいかがでしょう?
宇津宮先生 子宮内膜の厚さは8㎜程度あると望ましいでしょうか。
7㎜でも大丈夫かな。
6㎜以下での妊娠率は、ガクンと数字が落ちてきます。
当院での受精率は、体外受精でも顕微授精でも8割弱ですが、胚盤胞までの到達率となると4割くらいの統計になっています。
他の施設との連携
最後に培養液の種類について、お聞かせください。
宇津宮先生 培養液は最も難しい問題ですね。
当院では3種類を使っていて、毎週データを集計しています。
ただ実際のところ、原因がわからないうちに妊娠率が向上したり、下降したりもします。
その場合にはJISARTがとても役立ちます。
たとえば、使用している培養液のうちどれか1つに不具合を感じた時に、同じ問題で思い当たることがないか、JISARTに所属している先生にメールを出して、原因を聞くことができますから。
それで早めに結果を知って、悪ければ方向を変えていくこともできます。
移植してから妊娠率が出るまでに2週間、どうもおかしいな……となるまでにはさらに2週間くらいかかります。
最初の時点で悪かった培養液を1ヶ月間も使い続けるということですよね。
いかに早く原因を見つけるかが鍵ですから、他の先生方との連携がうまくできることが大切だと常々感じています。
※子宮内膜症:子宮内膜に類似した組織が骨盤内の臓器、たとえば卵巣や卵管、ダグラス窩などで増殖し、出血したり炎症を起こしたりするもの。
※JISART(日本生殖補助医療標準化機関):日本の生殖医療の質を向上させ、患者さんに安心して満足できる生殖補助医療を提供することを目的に結成された団体。