Q HCG注射後に排卵しないのに デュファストンⓇを飲むの?

石原 尚徳 先生 高知大学医学部卒業後、神戸大学医学部大学院修了。医学博士。 兵庫県立成人病センター、兵庫県立こども病院の勤務を経て、2008 年より久保みずきレディースクリニック菅原記念診療所勤務。不妊治療 から周産期・小児医療まで、地域に根ざした総合的なサポート体制が整 う同クリニックで、不妊治療/婦人科、産科の外来を担当する。

ドクターアドバイス

●超音波検査や血液検査で、確実に排卵しているかどうかきちんと確認してみては。
●HCG注射で排卵しない時は再度追加したり、点鼻薬などに変更することが可能。
チャンさん(39歳)からの相談 Q.内服で卵子の育ちが悪く、ゴナールエフⓇを自己注射し、 卵子が18㎜になったところで排卵誘発剤を注射しました。 しかし、その翌日に市販の排卵検査薬で確認しても陰性 のままです。基礎体温も上がらず中温程度です。担当医 からは排卵誘発剤の注射5日後からデュファストンⓇの内 服指示が出ています。排卵がないままデュファストンⓇを 内服しても問題ないのでしょうか。また、なぜ5日後から デュファストンⓇを開始するのでしょうか。私の理解では、 排卵した場合は受精後に着床しやすい子宮内膜をつくるた め、受精しなかったらリセット目的なのかと考えています。 担当医に言われるまま治療している状態で、理解できてい ません。今後はステップアップも必要でしょうか。

HCG注射をしても排卵していないとの ことです。

石原先生 市販の排卵検査薬を使用されたそうですが、本当に排卵していなかったのかどうかはわからないですね。当院ではHCG注射後の2〜3日目に来院いただいて、超音波検査で卵胞チェックをして排卵を確認します。さらに排卵して数日後の血液検査で黄体ホルモン値をみれば、排卵しているかどうかが確実にわかります。基礎体温が高温になれば、排卵の目安としてある程度は参考になりますが、体温が上がらなくても排卵していることがあります。ぜひ超音波検査や血液検査を受けられるといいと思います。

デュファストンⓇについて教えてください。

石原先生 デュファストンⓇは合成黄体ホルモン剤で、子宮内膜を受精卵が着床しや すい環境にととのえ、妊娠を維持するためのものです。妊娠していなければ、デュファ ストンⓇを飲み終わると生理がきます。このお薬は体内から分泌される自然の黄体ホルモン(プロゲステロン)に近い作用があります。さらに面白いことに、ほかの黄体ホルモン剤と違って服用しても基礎体温が上がりません。ですので、この薬で基礎体温が上がっていたら、自分の体でも排卵していること、黄体ホルモンがつくられていることがわかります。

当院では排卵を確認してからデュファストンⓇを処方することが多いのですが、通常はHCG注射後の 2 日目までに排卵する人がほとんどです。チャンさんの担当の先生も5日間あれば排卵しているだろうということで処方されているのだと思います。

最後にアドバイスをお願いします。

石原先生 クロミッドⓇやレトロゾールといった内服薬では反応が出ないので、できる だけ単一排卵をめざしてゴナールエフⓇを処方されているのだと思います。人によっては効果があらわれるまでに多少時間がかかりますが、多胎妊娠とOHSS(卵巣過剰刺激症候群)を予防する効果があります。また排卵率が高く、妊娠率も悪くありません。

  当院でもHCG製剤を使っていますが、こ の薬は筋肉注射なので、痛みをともないます。痛みに弱い人などは、自費になりますが点鼻薬のGnRHアナログに変更することも可能です。HCG製剤と点鼻薬のGnRHアナログでは作用に違いがあり、HCG製剤は着床後の胎盤から分泌されるホルモンを含んでおり、排卵を促す作用もあります。一方、GnRHアナログは脳下垂体に作用してホルモンを分泌し卵巣に働きかけて、より自然に近い排卵が期待できます。

HCG注射で排卵がみられない場合はもう一度追加したり、点鼻薬のGnRHアナ ログ(スプレキュアⓇ、イトレリンⓇ)に替えてみるなど、さまざまな方法があります。

排卵誘発剤を追加したり変更するにしても、まずは、排卵しているかどうかをきちんと確認することが大切です。担当の先生に遠慮することなく、超音波検査や血液検査の希望を伝えてみてはいかがでしょう。

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