採卵数は多いのに、いい受精卵に出会えません。最後の採卵に向けた刺激法の選択とその後の治療について、草津レディースクリニックの森 敏恵先生に教えていただきました。

森 敏恵 先生(草津レディースクリニック)日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会会員、日本受精着床学会会員、日本卵子学会会員。神戸や滋賀県の産婦人科などを経て、草津レディースクリニック院長に就任。「笑顔になれるクリニック」をめざし、臨床心理士による心のケアなど、心身両面の治療を大切にしています。

ノミコさん(39歳)38歳で治療を始め、子宮筋腫開腹手術の約半年後から顕微授精を開始しました。不妊原因は主人の閉塞性無精子症、PCO、片側卵管閉塞です。TESEで精巣内の精子を採取。これまで採卵を4回、移植を5回して4回目で妊娠しましたが、8週目に14トリソミーが原因で流産しました。あとは2日目(4分割)胚1個と胚盤胞2個を凍結しています。刺激法は4回ともアンタゴニスト法です。

・1回目…約30個採卵し、初期胚5個を凍結。3回に分けて移植しましたが、すべて陰性。

・2回目…約27個採卵し、初期胚1個、胚盤胞2個を凍結。胚盤胞をシート法で移植し着床後に流産。

・3回目…約16個採卵し、初期胚1個、胚盤胞1個を凍結。

・4回目…約17個採卵し、胚盤胞1個を凍結。

  • 凍結精子はあと1回分で、私の年齢を考慮して採卵はあと1回で終わらせるつもりです。刺激方法はまた同じでいいですか?
  • 少しでも若い卵子を確保するために、採卵から始めたほうがいいですか?
  • 一般的に39歳の受精卵が正常である確率はどの程度ですか?

 

Q.また同じ刺激法でもいいですか?

採卵数は多いですが、凍結胚にたどりつく受精卵の数が少ないようですね。ご提案できる刺激法は2つ考えられます。採れた卵子に未成熟卵の割合が多い場合は、同じ刺激法のままで卵子を成熟させる時間を追加する方法があります。

アンタゴニスト法は排卵誘発剤の注射(hMG/FSH+GnRHアンタゴニスト)で複数の卵胞を育て、次に卵胞を成熟させ排卵準備を促すためのhCGを注射して(時間は施設によって異なります)採卵を行います。たとえば、当院では採卵から35時間前に注射をしていますが、1時間早めて36時間前に繰り上げることで成熟時間を十分に取ることにより、成熟卵の割合を増やせる可能性があります。

また、4回とも同じ刺激法をされていますので、刺激法を変えたいというご希望が強ければ、飲み薬と注射剤を使用する低刺激法を試されてもいいと思います。採卵数はこれまでより少なくなる可能性は高いですが、凍結胚にいたる受精卵は増えるかもしれません。

Q.移植と貯卵どちらを優先するといいですか?

胚盤胞のグレードが書かれていませんので、具体的な見立ては難しいですが、もう1回採卵しようと思われているのであれば、やはり若いときの卵子がいいと思います。先に採卵をすませて、あとは移植だけにされるといいでしょう。

理由の一つとして、ノミコさんは流産を経験されています。もしも移植を優先して再び流産を繰り返してしまうと、妊娠期間と流産手術とその後のお休み期間などで、治療を約半年間お休みすることになり、治療時間のロスが大きくなります。半年後に治療再開したとき、卵子の質が低下する可能性は否定できません。

Q.39歳の正常卵の確率はどれくらいですか?

ある統計データによると、39歳の方が赤ちゃんを1人授かるために必要な採卵数は、17個とあります。73個も採卵できていますので、一般的にはそろそろ赤ちゃんに出会えてもいい頃だと思います。ただ、受精卵は卵子と精子の両方で成り立っています。とくにノミコさんの場合は、精子をTESEで採取されていますので、男性側の要因も大きく関わっている可能性があります。

移植や流産のつらさを回避したいということでしたら、着床前検査(PGT-A)も選択の一つです。注意点としては、検査には時間とお金がかかり、受精卵の一部の細胞を採取するときに多少のダメージが生じることもあります。また、検査前にカウンセリングを受けるなど、移植にたどり着くまでの道のりは長くなります。いまある卵子を移植して一つひとつの生命力を見極めるか、着床前検査を選択されるかは、ご夫婦の時間の使い方にもよると思います。

Q.今後のアドバイスをお願いします。

最後の採卵とするならば、後悔しない選択をすることも大切です。同じ刺激法を繰り返していいのだろうかという気持ちが強いようなら、低刺激の採卵を希望されるとよいでしょう。獲得卵子数は減らしたくないという思いが強ければ、アンタゴニスト法で成熟時間を延長してみられるといいと思います。

もしまだ何度か採卵するチャンスがあるのであれば、一つの刺激法だけでなく、先ほどご提案した2つの方法をそれぞれ試していただけると可能性は広がる気がします。

一方で、不妊治療のゴールを決めることは、とても勇気がいることです。今回が最後の採卵と決められているのであれば、それを尊重したいと思います。

今後の治療で良い結果につながることを願っております。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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