えりさん(38歳)
合計10回以上採卵して、ほぼ空胞。採卵できたのが1度のみという状況はどの程度珍しいのか知りたいです。
また、現在通っている医院からは「原因は分からないのでトライ&エラーを繰り返すしかない」と言われていますが、何らかの原因が考えられるならば、その原因と対策を知りたいです。
個人的には、うまくいった際のBMIが25以下だったので、BMIが関係しているのかと推察しましたが、医師からは「BMIが高すぎる訳では無いので関係ない」と言われています。
小川誠司先生に教えていただきました。
東京ARTクリニック 院長 小川 誠司 先生
2004 年名古屋市立大学医学部卒業。2014 年慶應義塾大学病院産婦人科助教、2018 年荻窪病院・虹クリニック、2019 年那須赤十字病院産婦人科副部長、仙台ART クリニック副院長を経て2023年9月、藤田医科大学東京 先端医療研究センターの講師、2024年4月に准教授に就任。2026年2月から東京ARTクリニックの院長に就任。藤田医科大学客員准教授。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医療学会専門医。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
●採卵で空胞が続くのは、どのような原因が考えられますか?
採卵時に十分に発育した卵胞が存在しているにもかかわらず、卵子が回収できない状態を、Empty Follicle Syndrome(空胞症候群)と呼びます。
卵子の回収には、採卵前に行う「トリガー(hCG注射やGnRHアゴニスト点鼻薬)」が非常に重要な役割を果たしています。空胞症候群の多くは、このトリガーが十分に作用していないことが原因と考えられています。
特に、GnRHアゴニスト点鼻薬単独でトリガーを行った場合、hCGの吸収が不十分な場合、トリガーから採卵までの時間が短い場合などで起こりやすいとされています。
また、稀ではありますが、卵子の成熟障害やLH受容体異常など、体質的・遺伝的要因が関与しているケースも報告されています。
●空胞が多い場合、先生でしたらどのような対策方法をご提案されますか?
一般的には、hCG注射とGnRHアゴニスト点鼻薬を併用する「ダブルトリガー」を行うことで、卵子回収率が改善することが多いとされています。
えりさんはすでに複数回採卵を経験されているとのことですので、すでにダブルトリガーを実施されている可能性が高いと思われます。そのうえで回収困難が続く場合、当院では以下のような工夫を検討します。
① 卵胞フラッシングを十分に行う。
採卵時に卵胞内を複数回洗浄(フラッシング)しながら、慎重に卵子回収を行います。
② hCG投与量を増量する。
通常は5,000〜10,000単位で十分ですが、稀に15,000単位へ増量することで回収できる症例があります。
③ トリガーから採卵までの時間を延長する。
通常はトリガー後34〜36時間で採卵を行いますが、37〜40時間程度まで延長することで回収率が改善する場合があります。ただし、時間を延長しすぎると自然排卵してしまうリスクもあるため、慎重な判断が必要です。
④ トリプルトリガーを行う。
通常のダブルトリガーに加え、追加でGnRHアゴニストを投与する方法です。難治性症例で試みられることがあります。

●BMIが不妊治療に与える影響について詳しく教えてください。
不妊治療では、使用する薬剤量や薬剤反応性にBMIが影響することがあります。
特にBMIが高い場合、hCGなどの薬剤が十分に吸収されず、トリガー効果が弱くなる可能性が指摘されています。そのため、BMIによってはトリガー量を増量する場合があります。
ただし、えりさんのBMIであれば、一般的には通常量のトリガーで十分なことが多く、BMIのみが主な原因である可能性は低い印象です。
●トライ&エラー以外のアプローチ方法はありますか?
空胞症候群は原因が複数存在するため、実際には「トリガー方法」「採卵タイミング」「回収方法」を細かく調整しながら、最適な方法を探していくことが重要になります。
そのため、上記でご説明した方法を可能な範囲で組み合わせて実施することをおすすめします。
また、トリガー後の血中hCG値測定、LH値確認などを行うことも有用です。
●採卵成功のための生活習慣の改善点を教えてください。
えりさんのように空胞症候群が疑われる場合、生活習慣そのものが直接の原因となっている可能性は高くありません。
むしろ、トリガー方法、卵子成熟過程、卵胞反応性など医学的要因の影響が大きいと考えられます。
上記の方法で改善が得られない場合には、近年報告されている「卵子成熟障害」に関連する遺伝子的背景が関与している可能性があります。トリガーに反応するLHホルモン受容体などに異常があることにより卵子が回収できない可能性があります。
そのような場合には、成熟前の未熟卵を回収し、体外で成熟を促すIVM(In Vitro Maturation:体外成熟)を試みるという選択肢もあります。まだ十分なエビデンスはありませんが、難治性症例では検討の余地がある方法と考えています。