子宮の細菌環境にアプローチする ラクトフェリンのこと教えて!

約15 年前から妊活中や妊娠中の人に対して「ラクトフェリン」を積極的に取り入れている竹林ウィメンズクリニック。竹林浩一先生に使い方と効果について教えていただきました。

竹林ウィメンズクリニック 竹林 浩一 先生 京都大学医学部卒業。京都大学医学部附属病院、市立長浜病院、日本学術振興会特別研究員、米国留学、滋賀医科大学産婦人科の病棟医長、外来医長を経て、2006年竹林ウィメンズクリニック開設。女性の心と体の状態にきめ細かく配慮した産科・婦人科の診療と、できるだけ自然妊娠の可能性を残した不妊治療で多数実績を上げている。

母乳に含まれている天然の免疫サポート成分

ラクトフェリンは、出産後2〜3日に出る母乳に多く含まれるたんぱく質で、生まれたての赤ちゃんを病原菌やウイルスから守る働きをしています。また、涙や唾液、子宮頸管粘液の中にも含まれていることがわかっています。

私たちの体には特定されていないものも含め、多くの細菌が存在しています。ラクトフェリンはこの細菌環境に働きかけて善玉菌を育て、悪玉菌の増殖を防ぎ、積極的に体内の免疫機能に良い影響を及ぼしていると考えられています。ただ、その詳しいメカニズムはわかっていません。さらに、鉄欠乏性貧血のリスクを低減することが報告されています。人間が活用してきたラクトフェリンですが、まだたくさんの可能性が秘められており、さらに研究が進められています。

子宮内感染による各症状や流早産の予防にも有効

当院では約15年前からラクトフェリンの働きに注目し、積極的に臨床応用してきました。きっかけは、抗菌薬を処方しても再発を繰り返す、難治性のカンジダ腟炎の患者さんでした。抗菌薬は細菌を徹底的に排除する一方で、使いすぎると耐性菌をつくるリスクもあります。そこでラクトフェリンを飲んでいただいたところ、6カ月後に症状がピタッと治まりました。その後も再発は認められず、妊娠・出産されました。

これに手応えを感じて、流早産の既往歴がある人にも、予防的な摂取をすすめるようになりました。妊娠中はホルモンの影響で体が酸性に傾きやすく、腟炎、子宮頸管炎から子宮内感染を起こしやすくなります。一度、体内に悪玉菌が入ると、悪玉菌を胎児ごと排除しようとする防御機能が働き、子宮収縮や破水、出血を起こしたり、最終的に流早産、死産に至ることもあります。原因になる悪玉菌はいくつかわかっていますが、すべてではありません。子宮内感染によって流早産した可能性が高い人は、繰り返しやすい傾向があります。対策を何も講じないよりは、次の出産のためにラクトフェリンで子宮内の環境を整えておくことは有用だと思います。当院では、流早産の既往歴がある全例が無事出産されています。

妊活中の人でも、腟にかゆみや痛み、異臭のするおりものがあるなど、軽度の腟炎が認められる場合は、妊娠後の子宮内感染が起こりやすくなります。一般的に排卵できていれば、感染しても頸管粘液に含まれる天然抗菌成分によって、一過性で済むことがほとんどです。ただ、抗菌薬が効かない人にはラクトフェリンの摂取が有効です。

なかなか着床しない原因不明不妊の人にも期待

近年、不妊治療がうまくいかない原因不明不妊の一つとして子宮内膜炎が注目されています。もともと子宮内は無菌といわれていましたが、人によって子宮内にいる細菌が異なり、それが着床に影響していると考えられています。ただ、明らかに子宮内感染を起こしていても妊娠出産されている人もいます。子宮内膜炎の存在や細菌のメカニズムを科学的に証明するのはなかなか困難です。そのため、この考え方には賛否両論ありますが、結論を待つ間にも妊娠・出産を望まれる人がたくさんいます。今年からは原因不明不妊の人への選択肢の一つとして、子宮内細菌叢検査を行い、ラクトフェリンが有用と思われる人には、治療と同時進行で摂取をすすめる取り組みも始めています。

腸溶性タイプを選び一定期間続けることが大事

妊娠にかかわるラクトフェリンの有用性については、国内でも数々の研究報告が出ています。当院でもラクトフェリンを摂取した人の約80%に手応えを感じています。ただ、服用後1〜2カ月で効果が出る抗菌薬とは異なり、ラクトフェリンは体内の細菌環境をじわじわ変えていくものです。妊活中で腟炎、子宮頸管炎、子宮内感染を起こしている人は6カ月、流早産の既往歴がある人は出産まで飲み続けることを目安にしています。飲んだり飲まなかったりすると意味がありません。また、腸内で働くことが望ましいため、腸内にしっかり届く「腸溶性」のものを選ぶこともポイントです。自分の体に合うかどうかは、軽度の腟炎であれば、おりものの臭いが変わる、かゆみが軽減されるなど、自覚症状でわかることもあります。また、便通が良くなることもラクトフェリンが働いている結果です。

ラクトフェリンですべてが解決できるわけではありませんが、たとえば、カンジダ腟炎の発症には、抗菌薬の飲みすぎも指摘されており、抗菌薬を減らして体にやさしい治療に移行するための一助になります。副作用などのリスクはほとんどなく、妊娠中の人にも安心して使えます。不妊治療から安全なお産につなげていきやすく、当院が推奨する数少ないサプリメントの一つです。もちろん妊娠・出産のための基本は毎日の食事です。本来はサプリメントよりも無農薬や無添加の食材にお金をかけてほしいですが、それでもラクトフェリンが有用と思われる人には、選択肢の一つになると思います。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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