WHOの調査によると、不妊原因の約50%は男性側の原因によるものだといわれています。そこで不妊に悩む男性の診察を数多くおこなっている、泌尿器と男性不妊のクリニックの寺井一隆院長に、どんな検査をするのか、治療することで妊娠率にどのような影響があるかなどについて教えていただきました。
2002年順天堂大学医学部卒。杉山産婦人科の生殖医療科(
男性不妊の基本的な検査は精液検査、超音波検査です
妊娠したいけれどなかなか授からないという場合、男性側で最初に行う不妊検査には、精液検査と超音波検査、血液検査があります。
精液検査は、自宅もしくは院内で採取した精液を使って量、精子の数、運動率、奇形率(形態正常率)を調べる検査です。精子の量や数など、WHOが定めた基準値があり、その基準値と比べて自分の精子がどうかを確認します。
超音波検査では、精巣に超音波をあて静脈瘤というコブのようなものができていないかを調べます。静脈瘤があると、精巣内の温度が上昇。また活性酸素が増えるため、精子にダメージが加わり、妊娠できない原因になります。静脈瘤は全男性の1~2割にみられますが、不妊男性に限ってみると3~4割の方にみられる疾患です。
血液検査では、LHとFSHというホルモン値をチェックします。女性が卵子を育むのにLHとFSHというホルモンの影響を大きく受けるのと一緒で、男性も精子を作る際にLHとFSHが大きくかかわっています。採血をしてFSHの値が基準値よりも高いと、造精機能が弱くなっている可能性があります。
精液検査でWHOの基準値をクリアしていれば大丈夫!とは限りません
ここで注意したいのが、精液検査の基準値です。一見「WHOの基準値を超えているから大丈夫!なんの問題もない」と考えてしまいますが、そうとは言い切れません。
WHOが示す基準値は、1年以内に妊娠に至った人が100人いたとすれば、95位、すなわち下位5%の数値を基準値としているのです。では100人中の上位50%に入っていれば不妊ではないかというと、そうとも言えません。
「妊娠成立」という結果が得られていないのであれば、なんらかの不妊原因があると考えた方がいいでしょう。
男性不妊の原因を治療することで妊娠率をあげられます
妊娠できない原因が明らかに男性のある場合、治療をすることで妊娠率をあげることができます。
たとえばさきほどの静脈瘤。手術することで確実に妊娠率をあげることができる疾患です。自然妊娠をはじめ、体外受精、顕微授精での妊娠率のアップ、さらに胚盤胞到達率があがることもさまざまな研究データや論文によって明らかになっています。
手術はいくつかの方法がありますが、今は日帰りでできる手術もあり、デスクワークが多い仕事であれば、早いと翌日から仕事復帰することも可能です
そして手術からおおよそ3カ月経つと精子の状態が改善されます。
女性の年齢が若い場合は、改善されるのを待ってから治療を再開する方法でいいでしょう。
ただ女性が35歳以上であれば、3カ月待たずに治療を再スタートしてもいいと思います。精子の状態が改善していないから絶対に妊娠しないというわけではないので、チャンスがあるならトライしてみてください。
最終目標はどこにあるかを考えて、ご夫婦で治療に臨むことが大切
男性の不妊検査の場合、どうしても精液検査の数値にとらわれがちになりやすいですよね。ただ精液は体の状態や、生活の状況によってかなり変動します。「前回よりも数値が良くなっているから大丈夫!」と思って安心する男性もいますが、最終目標は精子の数値が良くなることではなく、妊娠、出産することです。もし精液検査の結果が悪くない場合は、なぜ妊娠できないのか別の理由を探ってみることで、妊娠に近づくことができる可能性があります。
そうはいっても不妊治療クリニックに定期的に通うことに抵抗感のある男性も多いと思います。そこで当院では、同じ建物内に不妊治療クリニックはありますが、入口もフロアもわかれているので、男性でも通院しやすくしています。
さらに、不妊症看護に精通した人のみが有する「不妊症看護認定看護師」という資格があり、日本ではこの資格を有する男性看護師はわずか2名しかいません。そのうちの1人が当院に勤務しているので、医師に相談しづらいことや、わからないことを相談することができます。
「自分に原因があったらどうしよう……」、「治療をして結果が出るか不安」と、男性が考える気持ちはとてもよくわかります。ただ、思うような結果がでていないのに、何もしないままだと妊娠という目標を達成することは難しいです。1人、もしくはご夫婦だけで悩まず、男性不妊を診療できるクリニックへ相談してみてくださいね。