精子運動率が20%。人工授精でも厳しい数値なのでしょうか?【医師監修】

初めて受けた精液検査で悪い数値が出てしまった……。 これからの検査や治療法、心の持ち方について、 木場公園クリニックの吉田先生にお話を伺いました。

【医師監修】吉田 淳 先生 愛媛大学医学部卒業。産婦人科・泌尿器科医。 生殖医療指導医・臨床遺伝専門医。東京警察病 院産婦人科、池下レディースチャイルドクリニック、 東邦大学第一泌尿器科非常勤講師などを経て、 1999 年木場公園クリニックを開院。不妊症治 療の情報収集のため、アメリカや日本国内の不 妊症専門施設の見学・研修を数多く積んでいる。 診察や手術で毎日多忙でありながら、体力トレー ニングも欠かさずに続けている吉田先生。そのエ ネルギーを与えてくれるのは患者さんだとか。

ドクターアドバイス

◎ 精液検査は1回ではなく何度か受けることが必要
◎ 悪い状態だと確定したら男性不妊専門医の受診を
◎ 夫だけでなく、二人の問題ととらえ、気持ちを一つに
チョコ嫁さん(27歳)Q.結婚して2 年半、妊娠を希望して1年が過ぎま した。昨年末に勇気を振りしぼり、産婦人科へ 検査に行ったところ、主人の精子の数値があま りよくないことが判明。自分でいろいろ調べたと ころ、自然妊娠どころか、人工授精も厳しい数 値と知り、頭が真っ白に……。主人に話すと、ショッ クを受けるかと思っていましたが、理解できてい ないのか、「大丈夫だよ」と。私のほうがかなり 動揺しています。 再度検査する予定ですが、今まで妊娠していな いし、次の検査でも同じような結果になるのでは と思ってしまいます。不安で仕方ありません。

これまでの治療データ

■ 検査・治療歴

排卵に少し時間がかかる時や、黄体ホルモンの 数値が低い周期もあるが、特にこれといった問 題はなし。

■ 現在の治療方針

まだはっきりした治療方針は決まっていない。
もう一度、精液検査を受ける予定。

■ 精子データ

精子運動率:20%
精子奇形率:35%
通っているクリニックのA~Dの評価ではB。

精液検査の基準値

精子の運動率が 20 %、奇形率 35 %という結果だったということですが、まず、この数値についてどう思われますか?
吉田先生 WHOの最新のマニュアルでは、運動率は「 40 %以上なら正常」と定義されていますから、その基準からみるとやはり少し低いかなと思いますね。
奇形率は 35 %ということですが、一般的にみれば正常の範囲内ととらえていいのではないでしょうか。
チョコ嫁さんは担当の先生から「少し数値が悪いですね」と診断されたようですが、まさにその言葉通りではないでしょうか。
少し悪いけれど、絶対に自然妊娠できないという決定的な数値ではない。
このくらいの運動率でも自然妊娠される方はいらっしゃいます。
問題なのは精液量と精子の数ですね。
肝心なその数値が質問に記載されていないので、正確に状態を把握できないのが残念です。

精液検査はコンディションで流動的

初めて受けた精液検査の結果ということですが。
吉田先生 精液検査は、ストレスや疲労など、ご主人のその時のコンディションが結果に影響することがあるので、1回きりの検査で落胆される必要はないと思います。
もし初回の検査で思わしくない結果が出たら、必ずもう一度検査をしてみることをおすすめします。
結果を聞いた後、チョコ嫁さんはご自身でいろいろ調べて、「自然妊娠どころか人工授精も厳しいかも」と非常にショックを受けられたようですが、その判断は早計すぎるのではないでしょうか。
情報や知識を仕入れることは必要ですが、それに振り回されすぎてしまわないことです。
再度検査を受けたら、その結果を冷静に受け止め、医師と相談しながら前向きに改善策を考えていっていただきたいと思います。

専門的な検査

何回か精液検査を受けて、それでも数値が悪い場合はどうすればよいのでしょうか。
吉田先生 専門医の先生にきちんと診てもらうことが必要です。
一般的な泌尿器科ではなく、男性不妊症の専門医に詳しく調べてもらうのがいいでしょう。
当院でも行っていますが、男性不妊の一般検査には、精液検査のほか、視診・触診、ホルモン検査、染色体検査、陰嚢部超音波検査などがあります。
視診・触診では、目で腹部・陰嚢部を見た後、精巣、精巣上体、精管を手で診察。
男性不妊症でわかる疾患の中で最も多い病気は睾丸の周りに血液がたまる精索静脈瘤ですが、そのような病気がないかどうか調べます。
ホルモン検査では採血して、下垂体から分泌されているFSHLH・プロラクチン、精巣でつくられているテストステロンの数値を調べます。
それにより、下垂体や精巣の機能、高プロラクチン血症の有無などがわかります。
いずれの検査も苦痛をともなうようなものはないので、原因究明や問題を改善するために、ぜひ一度受けてみられることをおすすめします。

年齢だけで判断しない!

チョコ嫁さんはまだ 27 歳と年齢的に若いですが、不妊治療を焦る必要はないですか?
吉田先生 「 27 歳だからゆっくりでいい」ということはないと思います。
年齢に関係なく、すぐにでも赤ちゃんを望まれているのなら、今できる検査は積極的に受けて、なるべく早く治療を進めていったほうがいいと思いますね。
治療法は検査結果によって、タイミング療法、人工授精、もしくは体外受精顕微授精など、いろいろな選択肢が出てくると思いますが、チョコ嫁さんご夫婦の場合は、とにかくご主人がもう一回精液検査を受けることが先決だと思います。

不妊治療はどちらかの原因ではない

検査結果を聞いた後、チョコ嫁さんは戸惑いましたが、ご主人が聞きたがったので正直に結果を話したということですが。
吉田先生 それは間違っていないと思います。
ご主人の検査の結果なのですから、隠す必要はまったくないでしょう。
変に気を遣って正直に言わないほうが問題ですよね。
チョコ嫁さんのご主人は結果を聞いて、「大丈夫だよ。子どもできるよ」と前向きに受け止められたそうです。
吉田先生 精子の状態が悪いからといって、妻に対して引け目を感じることはないと思います。
不妊症は夫婦二人の問題です。
「私が悪い」「あなたが悪い」というどちらか一方のせいではなく、二人の中のどこかにちょっと問題がある、というふうにとらえていただきたいですね。
責めるのでもなく、腫れものに触るように気を遣いすぎるのでもなく、ご主人にはこれまでと同じように接していけばいいのではないでしょうか。
お二人の気持ちを一つにして、ぜひこれからも前向きに、検査や治療を進めていっていただきたいと思います。
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