人工授精用に調整した精子は原精液より劣るものなのですか?【医師監修】

【医師監修】秋山 芳晃 先生 東京慈恵会医科大学卒業。東京慈恵会医 科大学附属病院、国立大蔵病院に勤務後、 父親が営んでいた産科医院を継ぎ、不妊 専門病院として新たに開業。O型・やぎ座。 今年の夏は、気化熱で冷やす送風機を院 内に導入。自宅でも扇風機を使ったり、 こまめに電気を消して節電を実行。電気 料金もかなり抑えられたそうです。
りこさん(31歳)からの質問 Q.これまで人工授精に2回挑戦しました。原精液の状態では精子濃度38.5×100 万/mL、総運動精子数32.3×100万個と正常範囲の数値なのですが、人工授 精のために精液を調整すると、精子濃度6.0×100万/mL、総運動精子数1.9 ×100万個と、WHOの基準値より大幅に下がってしまいます。インターネットで 知ったのですが、総運動精子数が500万個を割ると人工授精での妊娠は厳しい、 とのことでした。夫の場合、調整後は190万個と、500万個には遠く及びません。 調整すると、もっとよい状態に調整されるものだと思っていたのですが、このよう に原精液より劣ったり、基準値を割るようになるものなのでしょうか?

精子の調整について

まず、人工授精をする時に、なぜ精液を調整するのでしょうか?
秋山先生 人工授精で精子を子宮内に注入する際、原精液を直接注入すると、子宮収縮時の痛みや細菌による感染の原因となることがあります。
また、子宮腔内に大量の液体を注入することは不可能なので、副作用を抑えながら、動いている精子を効率的に注入するために、精子の濃縮・洗浄が必要となります。
どのような方法で調整するのでしょうか。
秋山先生 調整方法は、治療法や精子・精液の状態によって使い分ける必要がありますが、一般的に人工授精の場合は、密度勾配遠心分離法やパーコール法と呼ばれる精子の比重の違いを利用した方法が用いられることが多いですね。
体外受精顕微授精の場合は、良好な精子を選別するために、スイムアップ法やスイムダウン法など、精子そのものの運動性による調整方法をとることが多いのではないかと思います。

調整後の運動精子の数

いずれの方法でも、調整すると、りこさんのご主人のように精子の数は減ってしまうものなのですか?
秋山先生 精子を洗浄した場合、運動精子を集めているわけですから、運動率は当然、調整後のほうが高くなります。
しかしながら、濃縮・洗浄を行う過程で多少なりとも運動精子が失われていくので、運動精子総数で比較すると原精液よりも少なくなるのはやむを得ません。
スイムアップ法などでは極端に少なくなるのですが、人工授精でよく行われる密度勾配遠心分離法でも、3分の1〜2分の1程度になってしまうケースがあります。
密度勾配遠心分離法だと、りこさんのご主人の場合は少し減りすぎのような気がしますが、スイムアップ法を用いられたのなら考えられる変化だと思います。
もしかしたら良好な精子を集めようと、スイムアップ法をとられたのかもしれません。
納得がいかないようであれば、一度担当の先生に聞かれてみてはどうでしょうか。

精子数にこだわり過ぎない

妊娠の希望は持てますか?
秋山先生 妊娠可能な運動精子数については諸説あります。500万〜1000万個以上という説が多いですが、なかには100万〜300万個でも可能であるという説もあります。
実際に当院でも、人工授精で注入した運動精子数が200万個程度で妊娠された患者さんもいらっしゃいます。
あまり悲観的にならず、疑問は先生に質問して、前向きに治療に臨んでください。
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