いろいろな卵巣刺激法にトライしてみてもいつも採卵できるのは1個。
さらにその貴重な卵も精子と受精できずに終わってしまうとなると、妊娠できるのか不安になりますよね。
こういったケースの場合、どうしたらいいのでしょうか。
多くの不妊患者さんの診察をされている千葉・浦安のさくらウィメンズクリニックの大村先生にアドバイスいただきました。

さくらウィメンズクリニック 院長 大村伸一郎 先生
慶應義塾大学医学部卒業。東京衛生病院産婦人科部長などを経て、平成30年4月さくらウィメンズクリニック院長に就任。働きながらでも安心して不妊治療に取り組めるよう、朝7時から採血や診察を行い、夜は22時まで診察できる体制に。わかりやすい説明も患者さんから好評。日本産科婦人科学会 指導医・専門医、日本専門医機構産婦人科専門医、日本東洋医学会専門医、日本生殖医学会、アメリカ生殖医学会(ASRM)、ヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)。

なかなか受精しません

まっつんさん(39歳)不妊治療を始めて5年。今までアンタゴニスト法や低刺激など、いろいろな卵巣刺激法で、計5回採卵。でもいつもたくさん育たず、成熟卵は各1個ずつしか採れません。さらに受精せずに終わってしまいます。子宮内膜症があり、左の卵管の癒着があったのでとりました。今年再発しましたが、小さいので治療を優先しています。高プロラクチン血症でカバサールを服用中。このような体では、自然妊娠も体外受精でも妊娠は厳しいでしょうか。年齢のこともあって、焦っています。

相談者さまは、いろいろな方法で刺激してもあまり成熟卵が育たないとのことです。卵が育たない理由として考えられることをお教えください。

それまでの治療の進み具合や、通院ペースがわからないのですが、治療歴がすでに5年ということなので、患者さまからすると妊娠できるかなという不安がとても大きくなっていることと思います。

まず卵巣刺激方法についてお話します。子宮内膜症(とくに卵巣のチョコレート嚢腫)の手術を行うと、卵巣内の卵子の在庫が急激に減ってしまうことがあり、この卵子の在庫が少なくなっている状況が予想されます。この卵子の在庫に関しては、採血で抗ミュラー管ホルモン(AMH)の数値を調べることで、卵巣内に現在どれぐらい卵の数が残っているかおおよその状況が確認できます。毎回の採卵で採取できた卵子は1個のみとのことですので、こういった場合、高刺激や中刺激を行っても卵巣が疲れてしまうだけで、たくさん成熟卵を取ることは難しいと思われます。今後、採卵を行うのであれば、排卵誘発剤にクロミフェンやレトロゾール(アロマターゼ阻害剤)を用いた低刺激での採卵が望ましいでしょう。内服ですので、通院の回数を減らすことができ、身体やコストの負担が少ないこともメリットになります。

次に受精方法についてです。取れる卵子の数が少ないことも影響していると思いますが、まっつんさんは受精卵がうまくできなかったり、途中までしか育たないとのことですので、通常のふりかけではなく、顕微授精の方が良い結果が得られる可能性があります。さらに、顕微授精を行っても、何らかの原因で受精しないことがあります。そのような原因の一つに、卵子の活性化障害が考えられます。これは、通常、卵子内に精子が侵入すると、精子が持つ卵子活性化因子の作用で、卵子内のカルシウムイオン濃度が上昇して卵子の活性化が起きるのですが、精子に何らかの問題があるとうまく受精しません。そこで卵子活性化の不具合が疑われる場合には、卵子活性化処理(高濃度のカルシウムイオンを含んだ培養液に顕微授精後の卵子を漬ける方法が主流)を行うことで受精しやすくできる可能性があります。まっつんさんの場合は、顕微授精に加えてこの卵子活性化処理も同時に行うことをおすすめいたします。

まっつんさんのように子宮内膜症や高プロラクチン血症があっても自然妊娠を目指すことは可能でしょうか。

子宮内膜症は子宮内膜(あるいはそれに似た組織)が、何だかの原因で子宮以外の場所(異所性)にできてしまう病気です。このため、月経時に子宮内膜症病変においても出血を繰り返すことにより、炎症が起こります。これが痛みや周辺組織との癒着を引き起こすと考えられています。まっつんさんもこのようにして左側の卵管に癒着が起こったのでしょう。卵管の周りで癒着が起こると卵巣から排卵した卵子を取り込むための卵管の動きが妨げられてしまいます。また、卵管の先端(卵管采)が周囲と癒着して閉鎖してしまうと、卵子が卵管に入れなくなるだけではなく、卵管の中にお水のたまりができてしまい(卵管留水症)、着床の障害を引き起こす可能性があります。まっつんさんの場合は、手術で卵管周囲の癒着を治療してもらっていますので、卵管の機能は回復していると考えられ、人工授精やタイミング治療(自然妊娠)での妊娠をトライ可能と考えます。

プロラクチンは脳から分泌されるホルモンで、主に出産後の母乳の分泌を促す働きをしています。高プロラクチン血症とは、なんらかの理由で出産や授乳をしていないのにプロラクチンが多く分泌されてしまう異常のことです。たくさん分泌されると排卵障害黄体機能不全を引き起こす場合があり、それが不妊原因となってしまうことがあります。高プロラクチン血症の原因として内服している薬(胃潰瘍やうつ病の薬など)によるものや、脳の下垂体にプロラクチンを分泌する腫瘍ができている場合もあり、とくにプロラクチンの数値が異常に高い場合には、原因を検索する必要がある場合もあります。まっつんさんはすでにプロラクチンを下げるお薬を服用されてホルモンの分泌をコントロールされておりますが、原因となるようなお薬を飲んでいないかなども確認していただく方が良いです。

いずれのトラブルに対してもすでにまっつんさんはしっかりと治療をされておりますので、毎周期、妊娠を試みてみても良いと思います。

他に妊娠に向けてやっておいたほうがいいことがありましたらお教えください。

身長に比べて体重がやや増えすぎていることが気になります。玄米やライ麦、オーツ麦などの全粒穀物、緑黄色野菜、魚介類、果物、豆類やきのこなどを多く摂取し、油は主にオリーブオイルを使う「地中海式食事法」は、男女ともに妊娠しやすい身体にしてくれると考えられています。ぜひ試してみてください。

また、食べ物の消化吸収を担う腸ですが、私たちの免疫力のおよそ70%が腸でつくられており、全身の免疫を司っています。そして腸を健康に保つことは妊娠にもプラスとなると考えられております。腸を健康に保つために食事は朝と昼にしっかり摂取して、夜は少なめにしていただく方が良いです。これは夜に食べ過ぎると睡眠中でも腸は働き続けなければならず、腸の健康を妨げてしまうからです。

体外受精を続けていくことは心身ともに大変なストレスがかかってしまいます。妊娠できずに焦ってしまうことも大変よくわかりますが、ご夫婦の心と身体の健康をなによりも大事にしてくださいね。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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