保険適用内でできる刺激方法ではあまり良い採卵はできない?
経済面を考えれば「できるだけ保険を利用して不妊治療を受けたい」と考える人がほとんどだと思います。費用が安くなる分、保険診療では治療の効果が下がるということはないのでしょうか。かしわざき産婦人科の柏崎祐士先生に詳しいお話を伺いました。
ドクターアドバイス
●卵子の成熟を確認してから点鼻薬の投与を。
●顕微授精は1個でも実施するのが一般的。
●高刺激にもトライするという選択も。
保険診療だから良い採卵ができないということはありません
今回の採卵ではあまり良い結果が得られなかったようですが、これは保険適用内の治療だったからなのでしょうか。
柏崎先生●結果が悪かったのは保険診療とは関係がないと思います。自費の治療でもこのような誘発をしていますから。担当医の先生がブセレリン開始日時を間違えたとありますが、もしかしたらこのことが原因なのかもしれません。
ブセレリンは点鼻薬の一種で、脳の下垂体に作用して間接的に排卵を促す作用があります。開始日時を間違えたというのは、卵胞がまだ未熟なうちに使ってしまったということでしょうか。もう少し注射を継続しなくてはいけないところを途中で使ってしまった。本来は卵胞がある程度成熟した段階で使う時期を決めます。卵胞径が18~20mmくらいになっているのが目安ですね。
ブセレリンを1回でも使ってしまったら排卵してしまうので、未熟でも採卵せざるを得ません。採れた卵子の1つが未成熟卵だったというのは、やはりブセレリン投与の時期が影響しているのかもしれません。
受精卵が1個でも顕微授精を実施するのが一般的です
もう1個は成熟卵だったそうですが、担当医の先生から「1つにだけ顕微授精してもあまり意味がない」と言われたそうです。
柏崎先生●この判断には疑問を感じますね。未成熟卵だったら実施しませんが、成熟卵であれば1個でも顕微授精を行うのが一般的だと思います。
ご主人の精子の数値が悪く、正常形態精子数が極端に少ないため、保険診療導入前の治療でも顕微授精で臨まれたとのこと。たとえば「今回は精子の状態が思ったより良かったので顕微授精はしません」というロジックならわかるのですが、「成熟卵が1個しかないから、顕微授精ではなく体外受精にしましょう」という考え方が理解できません。当院だったら、1個でも妊娠のチャンスはあるので実施すると思いますね。
採卵数を増やすために一度高刺激に挑戦してみては?
今回の卵巣刺激法についてはどう思われますか。
柏崎先生●いわゆる低刺激という方法で、悪くはないと思います。にこさんはAMH(抗ミュラー管ホルモン)の値が2.1ng/ml。当院の場合、2以上ある方だったらもう少し高い刺激をご提案すると思います。そうすればもっと多くの卵子が採れる可能性があります。
たとえば飲み薬のクロミッドRは使わず、単独でHMG注射を連日150単位打つなど。ただし、高刺激を連続で行わないほうがいいですね。刺激=卵子をいじめているというところがありますから、数はたくさん採れてもやりすぎると質が少し下がる可能性があります。
ですから、とりあえず高刺激で1回試してみて、それで結果が出なければまた低刺激に戻って少数精鋭の作戦で臨んでいくことをおすすめしたいです。
このまま保険診療で治療を続けていってもいいのでしょうか。
柏崎先生●たとえば注射の量や回数など、保険診療だとしても刺激の範囲はあまり狭くしていませんから、保険適用以前の治療と比べてそれほど大きな違いはないでしょう。「今すぐ自費で」と考えず、年齢の制限が来るまで保険診療で頑張ってみてはどうでしょうか。
体外受精より顕微授精で治療を続けたほうがいいですか。
柏崎先生●精子の状態があまり良くないというのはもちろん、42歳という年齢を考えると今後、採卵回数があまりなさそうなので、当院だったら受精率を少しでも高くするために顕微授精で続けていくことをおすすめすると思います。