保険診療で どう変わったの?

保険適用になったことで、これまでとどんなところが変わったのでしょうか。妊娠率や治療費など、気になる点について峯レディースクリニックの峯 克也先生に教えていただきました。

峯レディースクリニック峯 克也 先生 日本医科大学医学部卒業。日本医科大学大学院女性生殖発達病態学修了。日本医科大学産婦人科学教室病院講師・生殖医療主任を歴任。「診療後にランチなどを楽しめる場所に」と、2017年に東京・自由が丘に峯レディースクリニックを開院。悩める患者さんの気持ちにしっかりと寄り添った治療やアドバイスを行っている。

妊娠率の変化は未知だが治療費の負担は軽減へ

不妊治療が保険適用になったことで、患者さんにとっては従来の自由診療と比べてどんなところが変わったのか気になりますよね。なかでも妊娠率と費用についての変化には関心の高い方も多いと思います。

保健診療がスタートして1カ月半ほど(取材時点)。自由診療の際の受精卵を移植している方も多いので、妊娠率について上がったかを検証したデータは、まだありません。一方で治療費の負担でいうと、当院に通院されている患者さんの様子から察するに負担が軽くなり、喜んでいる方が多いようです。

当院では、新規の患者さんを1日4 名と絞っているので、保険適用前と比べて大幅に患者さんの数が増えたということはありません。でも費用面での負担が減るせいか、タイミング法からAIHへ、AIHからARTへとステップアップする患者さんは増えましたね。

今までと変わる部分は医療側で知恵を絞って工夫を

そうはいっても「今までとまったく同じ」というわけにはいきません。たとえば、胚移植の際に使う培養液がその一つです。当院では、「エンブリオグルー」というものを使っています。これはヒアルロン酸入りで、着床率を高めるといわれているものです。ただこの4月からは初回の培養で使うと保険適用外に。初回の胚移植がうまくいかず、2回目以降に胚移植をする時のみ保険が適用されます。初回から使いたい場合は、採卵からすべて自費になるため、患者さんにはその旨をお話ししています。

また診察回数も変わりました。自由診療の時は、医療者と患者さんの双方が納得していれば採卵まで何回も診察できましたが、適用後は1カ月でできる超音波や採血の回数に制限があり、適正な診察回数で状況を判断することが求められます。そこで当院では、卵巣の刺激を開始してから5日目の診察は、自宅で自己注射を行っていただくことにより、卵巣を刺激してる間の診察を1回減らすようにしました。自己注射には抵抗感があるかもしれませんが、我々が注射のトレーニングはしっかり行いますし、動画の資料もあります。保険診療では高額なペン型の製剤も使いやすくなりましたので、実際行ってみるとどの患者さんからも今までの注射よりも痛くないと好評です。

こう述べていくと「あれこれ制約が増えたから、今までよりも治療を受けづらそう…」と、感じる患者さんもいらっしゃるでしょう。確かにやりづらくなった面はあるかもしれません。でも医療者側がそういった負の気持ちを抱えたまま治療をすると、その気持ちが患者さんに伝染。不安にさせてしまうでしょう。そうならないよう、当院ではスタッフで知恵を出しあい、保険適用のルールに則ったなかで、安心して治療を受けてもらえるよう、日々心がけるようにしています。

幸い、当院で行ってきた治療や使っている薬は、概ね保険適用となったので、今までの治療内容と大きく変わる部分はなさそうです。

保険適用となったことで若い人も治療しやすく

不妊治療に対して「自由診療=特別な診療」というイメージがあり、今まで躊躇していた方もいたことでしょう。それが保険適用になったことで治療を始めようと検討している方が増えているのは、とてもいいこと。さらに、若い世代も治療を受けやすくなったので、ダイレクトに少子化対策にもつながるのではないかと感じています。

今まで治療をやっていた40〜42歳の方は、そのまま自費で続ける人が多いのではという見解もありましたが、当院ではこの年代の方も保険でという方が多く見受けられました。ただ、今までのように自費診療でないと妊娠が難しい方もいらっしゃいます。たとえば今までに良好胚を移植するも2回以上着床しなかったという方は、移植前に染色体の数に異常がないかを検査するPGT-Aを行ったほうがいいでしょう。現時点ではPGT-Aは自費になるため、その周期の体外受精は自費での治療となります。

また、卵巣機能がとても低い方も自費で治療したほうがいいでしょう。いつ卵胞が発育するのか、排卵するのかが読めない場合は、こまめに採血を行い、細やかにホルモン値をみて進めていくことが必要。なので、採血に制限のない自由診療を選択したほうが、結果につながるのではないかと考えています。

保険適用となった不妊治療。ここに至るには、不妊治療を先駆的に行ってきた医師の先輩方や、保険適用に向けて多角的に検証していただいた厚生労働省の方の力があってこそなので、そういった努力をつなげていけるよう、責任をもって治療にあたりたいです。

そしてなによりも患者さんたちが保険適用になってとても喜んでいることが、不妊治療にたずさわるものとして純粋に嬉しいです。これからも患者さんの笑顔を支えられるような治療をしていきたいですね。

初めてARTをされる場合は、まず保険診療を

年齢が4 0 歳未満の場合は6回まで、4 0歳~4 3歳未満の場合は3回まで保険適用内で治療を受けることができます。まずはこれを利用するのがいいでしょう。これで一定数の方は妊娠できると私は考えています。それで上手くいった場合は、3 回ないし6回の治療をもとに次にどうするかを医師と相談してみてくださいね。

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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。