移植を繰り返しても着床しない原因は?

移植を11回繰り返しても着床しないのはなぜでしょうか。考えられる原因と治療法、転院のタイミングについて、天の川レディースクリニックの中村公彦先生に聞きました。

天の川レディースクリニック 中村公彦先生 生殖医療専門医。島根大学医学部卒業。京都大学産婦人科内分泌研究室に所属し、不妊外来を担当。京都大学医学部医学博士を取得。神戸市立中央市民病院産婦人科、石田病院の副院長を経て、2005年「天の川レディースクリニック」を開院。2020年「ひらかたARTクリニック」と医療経営統合し、天の川レディースクリニックグループとして統括院長を務める。不妊症に関する外科手術は1000例以上。自然妊娠をベースにしつつ、年齢や状況に合わせて一般不妊治療、高度生殖医療まで、その人に最適な治療を提案している。

KUNIさん(37歳)からの質問

34歳から本格的に治療を始めました。タイミング3回、人工授精4回、顕微授精(採卵3回、移植11回)とステップアップしましたが、顕微授精を始めてから1回の化学流産以外は、着床もしていません。途中、治療をお休みしていた期間は、排卵検査薬を使ってタイミングを取っていましたが、結果はついてきませんでした。

先日、11回目の移植でも結果が出ず、凍結卵はゼロになりました。

本当はここで治療を終わらせようと思っていましたが、諦めがつかず、どうするべきかモヤモヤしています。この4月から保険適用になり、「金銭的には少しは続けられるのなか」という思いと、「このまま続けても簡単に結果は出ないだろう」という思いが交錯し、どうしたらいいかわかりません。

現在通っているクリニックの先生には治療方針とともに「頑張りましょう」との言葉をいただいていますが、ダメならダメと言ってくれたほうが…という思いも正直あります。夫は治療を続けるも止めるも、どちらでもいいと言ってくれています。通院先でできる検査はしていただきました。このまま治療を続けて結果がついてくるでしょうか。また、転院して環境を変えるのもありでしょうか。

着床不全の検査で原因の究明を

11回移植されていますが、1回の化学流産を除いて一度も着床しないそうです。どのような原因が考えられますか?

KUNIさんは、どのグレードの胚盤胞を何回移植されたのでしょうか。それによって原因は異なりますが、データを見る限りは着床不全の可能性が高いですね。AMHは3.92と年齢相応で、ご主人の精子状態も問題ありません。着床不全の検査がまだでしたら、受けることをおすすめします。

保険診療と自費診療を同時に行う混合診療は認められていません。そのため、採卵など次の治療を始める前に、子宮内の形態や組織を調べる「子宮鏡検査」、慢性子宮内膜炎の有無を調べる「CD138」(自費)を受けておきましょう。検査に問題なければ、保険でできるシート法や二段階胚移植、二個胚移植などを試されるといいと思います。

 

子宮内膜の状態に合わせた自費診療も

その他にできる検査や治療はありますか?

  • ERA(子宮着床能検査)

着床できない原因の一つに、子宮内膜の移植に適した時期「着床の窓」のずれがあります。ERA検査(自費)は、個々の人で異なる着床の窓を推定することができます。検査の結果、着床の窓がずれていれば、適した時期に移植することで、妊娠につながる可能性があります。着床の窓が正常な場合は別の対策が必要です。

  • PRP(多血小板血漿)療法

PRP療法は、厚生労働省の認可施設で行われている再生治療の一つです。自分の血液から抽出した多血小板血漿を子宮内膜に注入し、良好な子宮内膜環境に整えることにより、着床・妊娠率の向上が期待できます。当院は形態良好胚盤胞を4回以上移植しても結果が出ない人に対して行い、妊娠率60%という高い結果が出ています。また、PRP療法は不妊治療ではなく、子宮内膜再生医療に認められるため、保険診療との併用が可能です。

  • アンタゴニスト・アゴニスト法

子宮内膜は月経周期により、良くも悪くも卵胞ホルモンと黄体ホルモンの影響を受けています。そこで2〜3カ月間、アンタゴニストとアゴニストというお薬で月経を止め、子宮内膜をクリアな状態にします。そのままホルモン補充周期に移行して胚移植をすることにより、妊娠率を高めます。通常は子宮腺筋症の人に用いられる治療法ですが、子宮形態が正常で反復着床不全の人にも有効と考えています。実際に当院で数例の方が妊娠されています。

栄養面から胚の質を高めておくことも大事

胚側の問題についてはいかがでしょうか。

移植できる卵子がこれだけ採れていますし、明らかな流産歴もありません。胚側に問題がある可能性は低いと思います。

KUNIさんは160cm、60kgとやや肥満傾向にあります。詳細な血液検査による栄養チェックを行い、運動・食事療法やサプリメントで体質改善をしていくと良いかもしれません。たんぱく質、脂肪、炭水化物などの栄養摂取や代謝また二価鉄、亜鉛が不十分だと、間接的な卵質低下につながります。さらにビタミンDは着床免疫調整因子として昨今注目されており計測されることもお勧めします。あわせて、酸化ストレステスト(d-ROMs)で体内の酸化度(老化度)を測定し、必要に応じた抗酸化サプリメントで卵質の向上を目指すこともできます。

また、近年のタイムラプス培養器は、受精卵の成長過程を動画で記録し、AIで胚盤胞の質をスコアー評価できますので、形態良好胚盤胞の判定精度はかなり高くなっています。

 

次の治療方針が示されないなら転院も

KUNIさんは転院も考えているそうです。

これだけ移植を繰り返しても結果が出ないのは、本当につらいことです。当院では形態良好胚盤胞を3回移植した場合の累積妊娠率は85〜90%です。そのため3回で結果が出なければ、次の治療方針を検討するでしょう。

不妊治療では、早くいい結果が出るのに越したことはありません。担当の先生と一緒に着床できない理由を考え、納得して次のステップに進んでいけるかどうかで、かなり結果が違ってくると思います。

KUNIさんは、妊娠を諦める年齢ではありませんし、まだできることはたくさんあります。

私はいつも理論的な根拠を説明したうえで、「受精卵さえあれば、諦めたらだめですよ」と患者さんにお伝えしています。これから治療を続けるなら、担当の先生や治療方針への信頼が大切です。「いつまで同じ治療を続けるんだろう?」という気持ちが芽生えているのであれば、転院を考えるのも一つだと思います。

 

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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。