手術後卵巣機能が低下。
採卵数も少ないなかで受精率を上げるには?
蔵本ウイメンズクリニック 蔵本 武志 先生 久留米大学医学部卒業、山口大学大学院修了。山口県立中央病院産婦人科副部長、済生会下関総合病院産婦人科部長を経て、1990 年オーストラリア・PIVET メディカルセンターへ留学。帰国後、1995 年蔵本ウイメンズクリニック開院。JISART(日本生殖補助医療標準化機関)理事長。久留米大学医学部臨床教授。
相談者 : いもいもさん(38歳)2021 年夏に不妊治療クリニックを受診。AMH 値は0.82ng/ml で、タイミング法2 回、人工授精を1回行いました。体外受精を検討している時に、チョコレート囊胞、子宮筋腫、ダグラス窩閉鎖が見つかり、卵巣機能が低下することをわかったうえで手術しました。ひどい月経痛もなくなり手術に後悔はありません。その後AMH は0.1ng/ml まで低下しました。顕微授精のために、手術前と後に1回ずつ採卵しましたが、いずれも1個のみ。どちらも受精できずとても焦っています。
検査データ、相談内容からどのような印象をもたれましたか?
蔵本先生●チョコレート囊胞があり摘出手術で月経痛が改善したことは良かったと思われますが、摘出によって残っている小卵胞もかなりの数が一緒に取られてしまうため、AMH 値が0・82ng/mlからさらに低下して0.1 ng /mlにまでなったようですね。予測採卵数は1個程度で、今後の発育卵胞数が増えることは、かなり困難かもしれません。
顕微授精をするにあたり、受精率を高めるためにできることはありますか?
蔵本先生●成熟卵子の採取がポイントではないかと思います。採卵決定日の卵胞径が1回目は26.2mm、2回目は27.4mmと平均値(18〜19mm)よりかなり大きいようで、むしろ過熟卵子かもしれません。これは最長径を見たのでしょうか? 最長径とそれに直交する径の平均値が平均卵胞径なので、平均19㎜程度でHCG などに切り替え、切り替え日の血中LH が10mlU/ml以上の高値でなければ、より成熟卵子を採る目的で、HCG投与37時間目頃に少し遅らせて採卵するのも一つの方法だと思います。発育卵胞数が少ないので、レトロゾールより切れのあるクロミッドR1 錠を連日服用して、途中で卵胞発育が不良ならFSH 製剤150 単位を隔日数回注射します。LH値が上昇しやすいので、黄体ホルモン併用療法といって、クロミッドR投与後3日目頃より合成黄体ホルモン製剤のデュファストンRを朝夕2錠ずつ、またはメドロキシプロゲステロンを1日3〜4錠をHCG 切り替え日まで服用して、血中LH 値の上昇を抑えるのがいいでしょう。LH 値が高値になると卵子の質が低下したり排卵することがあるからです。
顕微授精(ICSI)の場合、成熟卵子を採ることが必須ですが、卵子へのストレスを少しでも減らすために、「ピエゾ法」を用いるのもいいでしょう。それでも受精しなければ、ICSI の前か後に卵子活性化処理を行い、受精率の改善を図ります。培養液には抗酸化剤添加培養液を使用し、活性酸素の少ない環境で培養するといいでしょう。
そのほか、何かアドバイスがあればお願いします。
蔵本先生●年齢の上昇とともに卵子は染色体の数的異常が増えるため、何回か採卵を続けてもいいと思います。受精卵もできて1個なので、受精したら無理に胚盤胞まで引っ張らず初期胚で凍結し、可能なら2個備蓄してから融解胚移植することをおすすめします。